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シーヴァ
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イライアスとガイルが王都のゾルダーク邸に戻った日から半月後、シーヴァ・レグルスの姿はシャルマイノス王宮にあった。馬車ではなく自ら馬に乗り駆けたシーヴァは到着早々、ドイルに頭を下げた。
「シャルマイノス国王、やっとこうして謝れる。申し訳なかった」
カルヴァに散々頭を下げられていたドイルにはすでに怒りはなかった。
「レグルス王…来たばかりで休憩も取らず…」
ドイルが言葉を発している間にシーヴァは顔を上げ近くに佇むカルヴァに近づき胸ぐらを掴み顔を落とさせ頬を叩いた。高い音が謁見の間に響く。ドイルは口を開けたままシーヴァの行動に固まる。
「カルヴァ、お前の側近だ!変化に気づかないだと!?怠慢過ぎる!エイヴァに会えると喜びすぎだ!この木偶の坊の愚鈍が!」
顔を落としたままのカルヴァの反対の頬をシーヴァは叩く。二度目の高い音にドイルの肩が上がり初めて見るシーヴァの激昂にそわそわしてしまう。
「レグルス王…わ…私も気づかないほど…でしたし…」
ドイルの意味のない援護はシーヴァに無視される。
「その通りです、父上。私がフランクの変化に気づいて…問い詰め…計画を知ることができていれば」
変化に気づいて問い詰めても家族が人質として囚われているフランクの口を割ることはできなかったろうとカルヴァは思うがシーヴァの言うエイヴァに会える喜びが自身の目を曇らせたと理解している。
「ふん!レグルスはシャルマイノスに頭が上がらなくなった。苦労するのは次期国王のお前…馬鹿者」
アンダルをこうして殴ればよかったかとドイルは似ていない親子を見つめる。
「シャルマイノス国王」
「へ…はい」
いつの間にかシーヴァの紅眼がドイルに向けられていた。
「フランク・グリーンデルの逃げた家族はアムレから引き渡されました」
ドイルは見たことがない罪なき子らを憐れむ。グリーンデル侯爵家は全員が処刑されるとわかっている。ここで情けをかけようものなら欲深い者が再び現れてしまう。それを防ぐためにも裏切り者に対し残酷な決断を下さなければならないことは理解している。
「アダム・アムレが?」
シーヴァは小鼻を引くつかせる。そんな顔をするシーヴァは珍しかった。
「ええ、女王の不幸に沈むアムレを統治することは難儀でしょうが…隠れていたグリーンデルの者を探しだしレグルスへ送りました。アダムにしては仕事が早い。女王の死はアムレを混乱に落としたが…アダムが上手く立ち回っているようで…不可解な思いが湧きましたよ。私の知るアダムは好色で猥褻の阿呆でしたからね。臣下に足元を掬われないよう遠くから応援します」
シーヴァはアダムの金眼の力を知らないとドイルは悟る。レオンから誰にも言うなと言われたアダムの金眼。女王と同じように力を使っているとゾルダークとドイルのみが知っている。
「シャルマイノス国王、貴族院を開けますか?」
「…数日後に開く予定です。シャルマイノスを襲った暴力の説明は高位貴族家当主にしかしていない。まぁ説明を聞いた当主が配下の家門に話しているでしょうが、私から話そうと下位貴族家も参席する大規模な貴族院を開きます。火銃の説明もしなければならないので」
ドイルの言葉にシーヴァは頷く。
「私も参席させてください。混乱と恐怖に陥らせたことへの謝罪をしたい。同盟国からの攻撃など前代未聞」
王都の宿には地方に住む下位貴族家当主が入りはじめたとドイルは報告を受けている。久しぶりに会議場が埋まるほど当主が集まる。
「承知しました。貴方に声を荒げる者がいるとは思わないが…」
「荒げられても仕方がないと理解しています」
地方の下位貴族家には正しい情報が伝わらず、高位貴族家だけを集めた会議のことにも不満がでていると聞く。ドイルは荒れることを予想している。そしてハインス公爵家に滞在中のアンダルの参席をルーカスから聞いている。
「サーシャ王女に会われますか?」
ドイルの問いにシーヴァは口を閉ざした。会ったとて特に言うことがなかった。グリーンデル侯爵家出の妃はすでに修道院へ入れている。サーシャも同じ場所へ入れることは決まっていた。
「いいえ、私に同行した騎士がサーシャをレグルスへ連れていきます」
「そうですか」
「カルヴァから手紙を貰いました。シャルマイノスの要望は聞けるだけ聞きたい。聞けないものもあるかもしれないがレグルス王家から新たな王女を娶ってくれとは言いません」
レグルス国内では数いる王女を差し出そうと声が上がったがドイルの拒絶とサーシャの奇行を知ったシーヴァは臣下を抑え、シャルマイノスに王女を輿入れさせることはないと宣言した。
「伯爵令嬢がレグルスに、カルヴァに嫁いでくれると聞きました」
ドイルはシーヴァの言葉にカルヴァを見る。まだシャーノス伯爵から返事は届いていない。
「父上、伯爵の令嬢は十です。許可を得次第会いに行きます。ゾルダーク公爵家の隣家というだけで巻き込まれた家です。レグルス王国は身分の差に声をあげない。真摯に謝罪の意を示さねば」
シーヴァはカルヴァの言葉に片眉を上げる。
「お前の望むような令嬢なんだな?大人しく気も弱いか?その年で妃が一人なのも問題なんだ。妃を迎えたら躾て愛し従わせる…私の王宮が荒れたのは一度だけ…まぁ仕方ない…私も伯爵家に向かおう」
シーヴァとカルヴァがシャーノス伯爵家に行っては伯爵が卒倒するかもしれないとドイルは想像する。
「殿下」
「マイラ」
王宮のジェイドの執務室にマイラが顔を出した。
「シーヴァ・レグルスが着いたようですわね」
「ああ…今父上と謁見してる」
マイラはジェイドの侍従に下がるよう手を振り執務室から出ていくよう合図する。
「どうした?」
二人きりの執務室にマイラはソファに腰掛け机に指先を乗せなぞる。
「なぜ落ち込んでいらっしゃるのか知りたくて」
ジェイドはマイラの言葉に奥歯を噛みしめ眉間にしわを寄せる。
「雰囲気が変わりましてよ?疲れではないわねぇ悩みかしら?」
マイラはジョセフの野望をジェイドに知られたかと探りにきた。息子の望みがエレノアだと知ったジェイドがおかしなほうへ向かうことだけは避けたかった。ジェイドは執務机に肘を突き手のひらで顔を覆う。
「弟が…」
「まあ!ハインス公爵が殿下を虐めましたの!?許せないわ!私が懲らしめようかしら!」
マイラはジョセフのことではなかったと胸を撫で下ろしながらそれを誤魔化すべく怒りを表し指先で机を叩く。
「ルーカスではなく」
「ああ…阿呆のほう…アンダル様ですわね!死にましたの?」
「死んではないが…王都にいる。次の貴族院に参席する…ためにハインス公爵家に滞在している」
久しぶりに会える弟の存在がジェイドを変えたと察したマイラは指先を執務机越しのジェイドに向ける。ジェイドは顔を覆っていた手を机に置く。
「なにをしましたの?なんだか罪悪感だらけの顔だわぁ…まさかっ阿呆の馬鹿女に懸想を!?」
「違う、そんな目で見るな」
ほっとしたマイラは指を下げる。
「昔…アンダルの心が男爵令嬢に向かうよう囁いた…嘘を」
「は!…それしきのことで悩んでいらっしゃる?小さいわぁ…しょうもないわぁ」
ジェイドはマイラに険しい眼差しを向ける。
「俺のせいでアンダルは男爵に落ち、子を作れない体にされた」
「ほほほほ!私の想像以上に阿呆な第二王子を見れるなんて貴族院が楽しみだわぁジョセフの後学のためと言って入り込もうかしら」
「マイラ…」
ふざけた様子のマイラにジェイドの眼差しは険しさを続ける。その視線を受けたマイラは銀眼を細め見つめる。
「殿下、はっきり申しますわね。貴方のせいではありませんわ。殿下の小さい囁きに惑わされる第二王子が愚かなのです」
「ああ…父上もそう言った」
マイラは口を閉ざし腕を組む。
「…阿呆はハインス公爵に伝言でも頼んだのかしらねぇ」
ジェイドは体を揺らした。
「ほほほ、当てたわぁ」
「…許さない…と」
「ほほほ、ハインス公爵も律儀に伝えてくれたのねぇ…余計だわぁ」
「ルーカスは笑っていた。アンダルは許さないと言ったが…そんなものは気にするなと…想いを貫いたのはアンダル自身…全てを捨てるほどの愛に出会えたのだからと」
「あら、その通りだわぁ。王子から男爵になる未来を選んだのは阿呆ですわよ。今さらそんな恨み言を…ほほほ!女に愛想がつきたのかしら…面白そうねぇ。殿下、貴族院で阿呆を高飛車に見下ろしてやりなさいな。王族の名はお前が自ら捨てたんだと。金髪碧眼であれ立場が違うと碧眼に思いを込めて見下ろすのです」
ジェイドはマイラの言葉に碧眼をきつく閉じる。
「マイラ、俺は…若いアンダルしか記憶にない」
「そうですか」
「ルーカスとアンダルの面差しは似ていたが」
「ほほほ!ハインス公爵とは随分違った面差しになったでしょうねぇ。王族から男爵…確か農地が多い領地と聞きましたわ。裕福ではないと…ならば手入れも口にするものも差がありますわ。ハインス公爵と並べて見たいわぁ…やっぱり見物に行きます」
ジェイドはゆっくりと碧眼を開き机に広がる書類を眺める。
「俺のせいではない」
「ええ。鼻で笑ってしまうほど小さなことですわ…仲がよろしかった?」
「…ああ」
アンダルはジェイドを慕っていた。ジェイドも弟らを大切にしていた。だがジェイドのミカエラへの愛が兄弟仲を歪ませてしまった。
「仲直り、なんてできませんわ。殿下は直に国王になりますのよ。男爵など髪色が金であれ放っておいたらいいのです」
「国王か」
「ええ、冷徹になってくださいな」
「許されなくていい。些末なことに気を取られていては仕事が減らん。マイラ、感謝する」
「ほほほ…貸しですわよ」
「シャルマイノス国王、やっとこうして謝れる。申し訳なかった」
カルヴァに散々頭を下げられていたドイルにはすでに怒りはなかった。
「レグルス王…来たばかりで休憩も取らず…」
ドイルが言葉を発している間にシーヴァは顔を上げ近くに佇むカルヴァに近づき胸ぐらを掴み顔を落とさせ頬を叩いた。高い音が謁見の間に響く。ドイルは口を開けたままシーヴァの行動に固まる。
「カルヴァ、お前の側近だ!変化に気づかないだと!?怠慢過ぎる!エイヴァに会えると喜びすぎだ!この木偶の坊の愚鈍が!」
顔を落としたままのカルヴァの反対の頬をシーヴァは叩く。二度目の高い音にドイルの肩が上がり初めて見るシーヴァの激昂にそわそわしてしまう。
「レグルス王…わ…私も気づかないほど…でしたし…」
ドイルの意味のない援護はシーヴァに無視される。
「その通りです、父上。私がフランクの変化に気づいて…問い詰め…計画を知ることができていれば」
変化に気づいて問い詰めても家族が人質として囚われているフランクの口を割ることはできなかったろうとカルヴァは思うがシーヴァの言うエイヴァに会える喜びが自身の目を曇らせたと理解している。
「ふん!レグルスはシャルマイノスに頭が上がらなくなった。苦労するのは次期国王のお前…馬鹿者」
アンダルをこうして殴ればよかったかとドイルは似ていない親子を見つめる。
「シャルマイノス国王」
「へ…はい」
いつの間にかシーヴァの紅眼がドイルに向けられていた。
「フランク・グリーンデルの逃げた家族はアムレから引き渡されました」
ドイルは見たことがない罪なき子らを憐れむ。グリーンデル侯爵家は全員が処刑されるとわかっている。ここで情けをかけようものなら欲深い者が再び現れてしまう。それを防ぐためにも裏切り者に対し残酷な決断を下さなければならないことは理解している。
「アダム・アムレが?」
シーヴァは小鼻を引くつかせる。そんな顔をするシーヴァは珍しかった。
「ええ、女王の不幸に沈むアムレを統治することは難儀でしょうが…隠れていたグリーンデルの者を探しだしレグルスへ送りました。アダムにしては仕事が早い。女王の死はアムレを混乱に落としたが…アダムが上手く立ち回っているようで…不可解な思いが湧きましたよ。私の知るアダムは好色で猥褻の阿呆でしたからね。臣下に足元を掬われないよう遠くから応援します」
シーヴァはアダムの金眼の力を知らないとドイルは悟る。レオンから誰にも言うなと言われたアダムの金眼。女王と同じように力を使っているとゾルダークとドイルのみが知っている。
「シャルマイノス国王、貴族院を開けますか?」
「…数日後に開く予定です。シャルマイノスを襲った暴力の説明は高位貴族家当主にしかしていない。まぁ説明を聞いた当主が配下の家門に話しているでしょうが、私から話そうと下位貴族家も参席する大規模な貴族院を開きます。火銃の説明もしなければならないので」
ドイルの言葉にシーヴァは頷く。
「私も参席させてください。混乱と恐怖に陥らせたことへの謝罪をしたい。同盟国からの攻撃など前代未聞」
王都の宿には地方に住む下位貴族家当主が入りはじめたとドイルは報告を受けている。久しぶりに会議場が埋まるほど当主が集まる。
「承知しました。貴方に声を荒げる者がいるとは思わないが…」
「荒げられても仕方がないと理解しています」
地方の下位貴族家には正しい情報が伝わらず、高位貴族家だけを集めた会議のことにも不満がでていると聞く。ドイルは荒れることを予想している。そしてハインス公爵家に滞在中のアンダルの参席をルーカスから聞いている。
「サーシャ王女に会われますか?」
ドイルの問いにシーヴァは口を閉ざした。会ったとて特に言うことがなかった。グリーンデル侯爵家出の妃はすでに修道院へ入れている。サーシャも同じ場所へ入れることは決まっていた。
「いいえ、私に同行した騎士がサーシャをレグルスへ連れていきます」
「そうですか」
「カルヴァから手紙を貰いました。シャルマイノスの要望は聞けるだけ聞きたい。聞けないものもあるかもしれないがレグルス王家から新たな王女を娶ってくれとは言いません」
レグルス国内では数いる王女を差し出そうと声が上がったがドイルの拒絶とサーシャの奇行を知ったシーヴァは臣下を抑え、シャルマイノスに王女を輿入れさせることはないと宣言した。
「伯爵令嬢がレグルスに、カルヴァに嫁いでくれると聞きました」
ドイルはシーヴァの言葉にカルヴァを見る。まだシャーノス伯爵から返事は届いていない。
「父上、伯爵の令嬢は十です。許可を得次第会いに行きます。ゾルダーク公爵家の隣家というだけで巻き込まれた家です。レグルス王国は身分の差に声をあげない。真摯に謝罪の意を示さねば」
シーヴァはカルヴァの言葉に片眉を上げる。
「お前の望むような令嬢なんだな?大人しく気も弱いか?その年で妃が一人なのも問題なんだ。妃を迎えたら躾て愛し従わせる…私の王宮が荒れたのは一度だけ…まぁ仕方ない…私も伯爵家に向かおう」
シーヴァとカルヴァがシャーノス伯爵家に行っては伯爵が卒倒するかもしれないとドイルは想像する。
「殿下」
「マイラ」
王宮のジェイドの執務室にマイラが顔を出した。
「シーヴァ・レグルスが着いたようですわね」
「ああ…今父上と謁見してる」
マイラはジェイドの侍従に下がるよう手を振り執務室から出ていくよう合図する。
「どうした?」
二人きりの執務室にマイラはソファに腰掛け机に指先を乗せなぞる。
「なぜ落ち込んでいらっしゃるのか知りたくて」
ジェイドはマイラの言葉に奥歯を噛みしめ眉間にしわを寄せる。
「雰囲気が変わりましてよ?疲れではないわねぇ悩みかしら?」
マイラはジョセフの野望をジェイドに知られたかと探りにきた。息子の望みがエレノアだと知ったジェイドがおかしなほうへ向かうことだけは避けたかった。ジェイドは執務机に肘を突き手のひらで顔を覆う。
「弟が…」
「まあ!ハインス公爵が殿下を虐めましたの!?許せないわ!私が懲らしめようかしら!」
マイラはジョセフのことではなかったと胸を撫で下ろしながらそれを誤魔化すべく怒りを表し指先で机を叩く。
「ルーカスではなく」
「ああ…阿呆のほう…アンダル様ですわね!死にましたの?」
「死んではないが…王都にいる。次の貴族院に参席する…ためにハインス公爵家に滞在している」
久しぶりに会える弟の存在がジェイドを変えたと察したマイラは指先を執務机越しのジェイドに向ける。ジェイドは顔を覆っていた手を机に置く。
「なにをしましたの?なんだか罪悪感だらけの顔だわぁ…まさかっ阿呆の馬鹿女に懸想を!?」
「違う、そんな目で見るな」
ほっとしたマイラは指を下げる。
「昔…アンダルの心が男爵令嬢に向かうよう囁いた…嘘を」
「は!…それしきのことで悩んでいらっしゃる?小さいわぁ…しょうもないわぁ」
ジェイドはマイラに険しい眼差しを向ける。
「俺のせいでアンダルは男爵に落ち、子を作れない体にされた」
「ほほほほ!私の想像以上に阿呆な第二王子を見れるなんて貴族院が楽しみだわぁジョセフの後学のためと言って入り込もうかしら」
「マイラ…」
ふざけた様子のマイラにジェイドの眼差しは険しさを続ける。その視線を受けたマイラは銀眼を細め見つめる。
「殿下、はっきり申しますわね。貴方のせいではありませんわ。殿下の小さい囁きに惑わされる第二王子が愚かなのです」
「ああ…父上もそう言った」
マイラは口を閉ざし腕を組む。
「…阿呆はハインス公爵に伝言でも頼んだのかしらねぇ」
ジェイドは体を揺らした。
「ほほほ、当てたわぁ」
「…許さない…と」
「ほほほ、ハインス公爵も律儀に伝えてくれたのねぇ…余計だわぁ」
「ルーカスは笑っていた。アンダルは許さないと言ったが…そんなものは気にするなと…想いを貫いたのはアンダル自身…全てを捨てるほどの愛に出会えたのだからと」
「あら、その通りだわぁ。王子から男爵になる未来を選んだのは阿呆ですわよ。今さらそんな恨み言を…ほほほ!女に愛想がつきたのかしら…面白そうねぇ。殿下、貴族院で阿呆を高飛車に見下ろしてやりなさいな。王族の名はお前が自ら捨てたんだと。金髪碧眼であれ立場が違うと碧眼に思いを込めて見下ろすのです」
ジェイドはマイラの言葉に碧眼をきつく閉じる。
「マイラ、俺は…若いアンダルしか記憶にない」
「そうですか」
「ルーカスとアンダルの面差しは似ていたが」
「ほほほ!ハインス公爵とは随分違った面差しになったでしょうねぇ。王族から男爵…確か農地が多い領地と聞きましたわ。裕福ではないと…ならば手入れも口にするものも差がありますわ。ハインス公爵と並べて見たいわぁ…やっぱり見物に行きます」
ジェイドはゆっくりと碧眼を開き机に広がる書類を眺める。
「俺のせいではない」
「ええ。鼻で笑ってしまうほど小さなことですわ…仲がよろしかった?」
「…ああ」
アンダルはジェイドを慕っていた。ジェイドも弟らを大切にしていた。だがジェイドのミカエラへの愛が兄弟仲を歪ませてしまった。
「仲直り、なんてできませんわ。殿下は直に国王になりますのよ。男爵など髪色が金であれ放っておいたらいいのです」
「国王か」
「ええ、冷徹になってくださいな」
「許されなくていい。些末なことに気を取られていては仕事が減らん。マイラ、感謝する」
「ほほほ…貸しですわよ」
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