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幻
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王宮夜会の会場は音楽が流れていても非常事態に参席した貴族らは知己と集まり、何が起きているのかと話し合っている。
「マルタン公爵」
呼ばれた声に振り返ったベンジャミンは微笑みながら頭を下げる。
「おや、ヒューズ侯爵さ・ま」
こんな事態でもふざけた態度をとるベンジャミンに焦げ色の瞳は頬をひくつかせる。
「ははっ冗談だよ!レイモンド」
「はぁ…オリヴィア嬢の晴れ舞台にこの騒動…腹が立つか?兄上」
「……そうさ…腹立たしいさ…だが歴史に残る夜会になったねぇ」
「で、教えてくれないか?皆が気にして私に聞いてくる。兄上は何か情報を持っているだろうとね」
「ははっ持ってないんだなぁ…ゾルダークの馬車と邸が襲われている…これだけさ」
エゼキエルが巻き込まれていることを知っていたが要らぬ話と口を噤む。
「敵はゾルダーク公爵を襲ったあと…王宮に向かうと皆が怖がっているんだ」
「くくく…辺境の急襲の話をもう忘れたのかなぁ…ゾルダークが負ける?なわけないよぉ」
「兄上…騎士団対決でゾルダークは負けてる…敵は火砲を撃ってる」
ベンジャミンは微笑みを消した。
「知ってるよ…それでもレオンは生きてる…クレアも無事さ…レイモンド…王国騎士団が向かったろう…気丈に振る舞え…見苦しい姿を晒すな」
微笑みの消えたベンジャミンは珍しく、レイモンドは息を呑む。
「お父様」
娘の登場にベンジャミンの微笑みが戻る。
「ははっドロテア!僕のオリヴィアを見たかい?美しかったろう?可愛かったろう?上手に踊っていただろう?見たよね?」
ヒューズ侯爵の横に立った赤紫の髪を持つドロテア・ヒューズが長く息を吐く。
「ミカエラねえ様」
「ドロテア」
二人の姉妹は父親のベンジャミンを無視して近づく。
「オリヴィアはチェスター王国の休憩室へ?アムレの方達もレグルスの方達も一人もいないわ…彼らの仕業?」
「まだなにもわからないわ…オリヴィアはギデオン殿下の傍で事態の収拾を待つの」
ドロテアは未だ妖艶な姿の姉の手を握る。
「ドロテア、陛下が戻られた」
レイモンドの言葉にベンジャミンは振り返る。顔色の悪いドイルが近衛を引き連れ会場に姿を現した。その姿を見つけた貴族らがざわめき始める。ドイルが手を上げると背後にいたドウェイン・アルノが足を振り上げ床を叩き大きな音を出すと会場の音楽は止み無音となった。
「皆、不安だろう。だが火砲は抑えた…王宮に撃ち込まれることはない。王国騎士団が現場に着いた…騒動は終わるだろう…皆が安全に邸に戻れるまでもう少し待ってくれ。この場にいる王国騎士の指示に従え…逆らってくれるな」
ドイルの声は落ち着いているようだっだが背に回した拳は強く握られ震えている。ドイルはベンジャミンを見つめ、この場を頼むと焦げ色の瞳に伝え踵を返した。
「だってさ。レイモンド、まだ騒ぐ家があるなら覚えておいて…嫌な噂を流してやる」
「承知しました」
ヒューズ侯爵はドロテアを連れてマルタン公爵家の面々から離れていく。
「ベンジャミン様」
テレンスは真剣な表情で焦げ色の瞳を見つめる。
「…邸も?」
ゾルダーク公爵家の馬車を襲った火砲のあと、夜会会場のテラスと庭園は封鎖された。ゾルダーク公爵邸への急襲は貴族らに知られていなかった。
「うん。陛下が望遠鏡を覗いていたから…確かだよ」
ベンジャミンの答えにテレンスは奥歯を食い縛る。
「テオ…」
「それは事実か!?マルタン公爵!!」
盗み聞きしていたディーゼルがベンジャミンに詰め寄る。
「わあ!ディーゼルぅ…汚い…唾が…やだなぁ」
「ゾルダーク邸が…ジュノ…ジュノ…」
テレンスはディーゼルの頬を強くつねる。
「い!よせ!テレンス!」
「兄上…落ち着け…なんでそんな…ジュノ…?まだそんなこと言ってるの?なんてしつこい…困らせるなよ」
ジュノを知らないベンジャミンはハンカチで顔を拭いながら首を傾げる。
「ジュノ…?誰?え…ディーゼル…くふ…ゾルダーク邸に想い人かい?」
ベンジャミンの言葉はディーゼルに届いていない。自身の頬をつねる弟に小さく伝える。
「ジュノは俺を受け入れたんだ。想い合ってるんだ…わかったか?テレンス」
テレンスは空色の瞳を信じられないとすがめる。
「とうとう妄想?気持ち悪いなぁ…おぇ」
睨み合う二人は口を閉ざす。
「こんなときに兄弟喧嘩はやめてよぉ…いい年してさ、ねぇミカエラ」
ベンジャミンの言葉にミカエラは微笑むだけだった。
夜会会場から離れていくドイルの瞳にこの場にいるはずもない人物が見え立ち止まる。
「陛下?」
ドウェインは立ち止まったドイルの視線の先を見つめ驚く。
「なんで…ラルフ…」
ドイルは呟いたあと離宮を離れたことがないラルフに向かい走り出す。そして白髪の老体の肩を掴み険しい眼差しで問う。
「何があった!?ルシルに…なぜ離宮を離れてる!?」
ラルフはドイルの碧眼を見つめ伝える。
「ゾルダーク公爵の」
ドイルはラルフが言い終わらないうちに押し退け離宮へ向かい走った。震える膝に耐えながら、止める近衛を睨みながら大切な離宮へ走った。暗い回廊を過ぎたところで離宮の門の前に白い近衛の服を纏う騎士が立っているのを確認し眉間が力んだ。ドイルは離宮の門前に近衛を置けと命じてなかった。見えた門は鍵が開いていた。離宮の鍵はドイルだけが持っている。あり得ない光景にドイルの混乱は極まっている。
「退け!」
立つ近衛を過ぎると離宮の扉が開いたままだった。その扉の側にも近衛が立っている。離宮に飛び込んだドイルは幻を見て立ち止まる。薄暗い廊下の先に髪を乱したハンクが仁王立ちをしている。真っ黒い瞳は険しくドイルを睨み付けている。
「ハンク!」
ドイルはハンク目掛けて走りその体に体当たりするように抱きついた。
「お前!今化けて出るのかよ!阿呆!もっと早く出てこいよなっ…う…ハンク…ゾルダークが心配だったのか?レオンは無事だ…クレアも…ちゃんと望遠鏡で確かめた…ハンク…ハンク」
ドイルは流れる涙をハンクの服で拭い顔を上げる。険しい黒い瞳と固く結ぶ唇がドイルを見下ろしていた。その姿に碧眼から涙が落ちる。
「くるちい」
幼い声がハンクから聞こえドイルの体は跳ねる。
「ハンク…死んでから声が変わったのか?お化けだとそんな声になっちゃうのか!?」
「陛下」
テオの低い声がドイルを呼ぶ。
「ハ…ン…テオ?テオ?え…?嘘つけ…へ?」
テオは混乱しているドイルの金色の頭を撫でる。
「顔色が悪い…倒れるぞ」
「ハンク!!俺の心配してくれるのか!?お前…死んでからのほうが優しいじゃないか!」
再びテオを抱き締めるドイルに可愛い声が届く。
「いちゃい」
「なんてこった!死ぬとこんなことになるのか!?俺は化けて出るのはやめる!」
ドイルは顔をぐりぐりとテオに擦り付ける。
「テオー」
マントの中のエイヴァが呼ぶ。その声にだんだんと冷静になったドイルはため息を吐く。
「はあ…テオ…お前どうやってここに来たんだ?さっきゾルダーク邸に火砲が撃ち込まれてたんだぞ?陛下は泣きながら見てた!」
テオはドイルの肩を掴み自身から離す。
「レオとクレアの無事は本当か?」
見下ろす黒い瞳は険しく厳しい…まるでハンクに見える。声まで似ているテオにドイルの碧眼は潤む。
「うん。望遠鏡で見てた…レオンが火銃を撃って…はは…横転したハインス公爵家の馬車に上ってな…クレアが馬車から出てきたのをこの目で見たよ。だけど…カイランは運ばれてた…死ぬかもな」
「そうか」
ドイルの言葉を聞いたテオは頷いた。
「ハンク!!」
感情が混乱しきっているドイルは再びテオに抱きつく。
「何人も入れるな」
テオは抱きつくドイルをそのままに近衛に命じる。頷いた近衛は扉を閉めた。その後、門を閉める音が離宮の中に響く。
「どうやってここまで来たんだよぉ…まさか飛んできたのか?」
見上げ尋ねるドイルの脇に手を差し込み持ち上げたテオは離宮の奥へと進みソファにドイルを座らせる。そして自身は床に腰を下ろし胡座をかいて足首に装着された短剣を抜きマントを斬り割く。
「ふはー、ティくるしかったね」
テオは自身に巻き付く布を短剣で斬っていく。床に足を下ろしたエイヴァはきょろきょろと初めての場所を見回す。
「へいか」
「やあ、エイヴァ王女」
微笑む愛らしい紅眼にドイルの肩の力も抜けていく。
「ダンテも来たのか」
床に足を下ろしたダンテがエイヴァに近づき手を繋ぐ。
「おうきゅう?」
エイヴァはテオを見上げて尋ねる。
「ああ…王宮内にある離宮だ」
テオの言葉に頷いたエイヴァはダンテと共に庭の方へ向かった。
「で?どうやって来た?」
テオは散らかった布とマントを纏め立ち上がりソファに腰を下ろす。
「離宮とゾルダーク邸は…繋がっている」
「土の中でも掘ったのか?」
「そんなことはしていない…陛下…ルシルは寝室にいる…心配無用だ」
ドイルは頷く。
「…父上がここに建てろと言わなかったか?」
「ああ…離宮の相談をしたときここがいいだろうって言うから…」
「ここは王宮の端に位置する。庭の塀の外は斜面になってる…がその下は民が暮らしている」
テオの言葉にドイルはある考えが浮かぶ。
「民家を…ゾルダーク邸から城の下の民家までを買ったのか?」
「ああ」
「マルタン公爵」
呼ばれた声に振り返ったベンジャミンは微笑みながら頭を下げる。
「おや、ヒューズ侯爵さ・ま」
こんな事態でもふざけた態度をとるベンジャミンに焦げ色の瞳は頬をひくつかせる。
「ははっ冗談だよ!レイモンド」
「はぁ…オリヴィア嬢の晴れ舞台にこの騒動…腹が立つか?兄上」
「……そうさ…腹立たしいさ…だが歴史に残る夜会になったねぇ」
「で、教えてくれないか?皆が気にして私に聞いてくる。兄上は何か情報を持っているだろうとね」
「ははっ持ってないんだなぁ…ゾルダークの馬車と邸が襲われている…これだけさ」
エゼキエルが巻き込まれていることを知っていたが要らぬ話と口を噤む。
「敵はゾルダーク公爵を襲ったあと…王宮に向かうと皆が怖がっているんだ」
「くくく…辺境の急襲の話をもう忘れたのかなぁ…ゾルダークが負ける?なわけないよぉ」
「兄上…騎士団対決でゾルダークは負けてる…敵は火砲を撃ってる」
ベンジャミンは微笑みを消した。
「知ってるよ…それでもレオンは生きてる…クレアも無事さ…レイモンド…王国騎士団が向かったろう…気丈に振る舞え…見苦しい姿を晒すな」
微笑みの消えたベンジャミンは珍しく、レイモンドは息を呑む。
「お父様」
娘の登場にベンジャミンの微笑みが戻る。
「ははっドロテア!僕のオリヴィアを見たかい?美しかったろう?可愛かったろう?上手に踊っていただろう?見たよね?」
ヒューズ侯爵の横に立った赤紫の髪を持つドロテア・ヒューズが長く息を吐く。
「ミカエラねえ様」
「ドロテア」
二人の姉妹は父親のベンジャミンを無視して近づく。
「オリヴィアはチェスター王国の休憩室へ?アムレの方達もレグルスの方達も一人もいないわ…彼らの仕業?」
「まだなにもわからないわ…オリヴィアはギデオン殿下の傍で事態の収拾を待つの」
ドロテアは未だ妖艶な姿の姉の手を握る。
「ドロテア、陛下が戻られた」
レイモンドの言葉にベンジャミンは振り返る。顔色の悪いドイルが近衛を引き連れ会場に姿を現した。その姿を見つけた貴族らがざわめき始める。ドイルが手を上げると背後にいたドウェイン・アルノが足を振り上げ床を叩き大きな音を出すと会場の音楽は止み無音となった。
「皆、不安だろう。だが火砲は抑えた…王宮に撃ち込まれることはない。王国騎士団が現場に着いた…騒動は終わるだろう…皆が安全に邸に戻れるまでもう少し待ってくれ。この場にいる王国騎士の指示に従え…逆らってくれるな」
ドイルの声は落ち着いているようだっだが背に回した拳は強く握られ震えている。ドイルはベンジャミンを見つめ、この場を頼むと焦げ色の瞳に伝え踵を返した。
「だってさ。レイモンド、まだ騒ぐ家があるなら覚えておいて…嫌な噂を流してやる」
「承知しました」
ヒューズ侯爵はドロテアを連れてマルタン公爵家の面々から離れていく。
「ベンジャミン様」
テレンスは真剣な表情で焦げ色の瞳を見つめる。
「…邸も?」
ゾルダーク公爵家の馬車を襲った火砲のあと、夜会会場のテラスと庭園は封鎖された。ゾルダーク公爵邸への急襲は貴族らに知られていなかった。
「うん。陛下が望遠鏡を覗いていたから…確かだよ」
ベンジャミンの答えにテレンスは奥歯を食い縛る。
「テオ…」
「それは事実か!?マルタン公爵!!」
盗み聞きしていたディーゼルがベンジャミンに詰め寄る。
「わあ!ディーゼルぅ…汚い…唾が…やだなぁ」
「ゾルダーク邸が…ジュノ…ジュノ…」
テレンスはディーゼルの頬を強くつねる。
「い!よせ!テレンス!」
「兄上…落ち着け…なんでそんな…ジュノ…?まだそんなこと言ってるの?なんてしつこい…困らせるなよ」
ジュノを知らないベンジャミンはハンカチで顔を拭いながら首を傾げる。
「ジュノ…?誰?え…ディーゼル…くふ…ゾルダーク邸に想い人かい?」
ベンジャミンの言葉はディーゼルに届いていない。自身の頬をつねる弟に小さく伝える。
「ジュノは俺を受け入れたんだ。想い合ってるんだ…わかったか?テレンス」
テレンスは空色の瞳を信じられないとすがめる。
「とうとう妄想?気持ち悪いなぁ…おぇ」
睨み合う二人は口を閉ざす。
「こんなときに兄弟喧嘩はやめてよぉ…いい年してさ、ねぇミカエラ」
ベンジャミンの言葉にミカエラは微笑むだけだった。
夜会会場から離れていくドイルの瞳にこの場にいるはずもない人物が見え立ち止まる。
「陛下?」
ドウェインは立ち止まったドイルの視線の先を見つめ驚く。
「なんで…ラルフ…」
ドイルは呟いたあと離宮を離れたことがないラルフに向かい走り出す。そして白髪の老体の肩を掴み険しい眼差しで問う。
「何があった!?ルシルに…なぜ離宮を離れてる!?」
ラルフはドイルの碧眼を見つめ伝える。
「ゾルダーク公爵の」
ドイルはラルフが言い終わらないうちに押し退け離宮へ向かい走った。震える膝に耐えながら、止める近衛を睨みながら大切な離宮へ走った。暗い回廊を過ぎたところで離宮の門の前に白い近衛の服を纏う騎士が立っているのを確認し眉間が力んだ。ドイルは離宮の門前に近衛を置けと命じてなかった。見えた門は鍵が開いていた。離宮の鍵はドイルだけが持っている。あり得ない光景にドイルの混乱は極まっている。
「退け!」
立つ近衛を過ぎると離宮の扉が開いたままだった。その扉の側にも近衛が立っている。離宮に飛び込んだドイルは幻を見て立ち止まる。薄暗い廊下の先に髪を乱したハンクが仁王立ちをしている。真っ黒い瞳は険しくドイルを睨み付けている。
「ハンク!」
ドイルはハンク目掛けて走りその体に体当たりするように抱きついた。
「お前!今化けて出るのかよ!阿呆!もっと早く出てこいよなっ…う…ハンク…ゾルダークが心配だったのか?レオンは無事だ…クレアも…ちゃんと望遠鏡で確かめた…ハンク…ハンク」
ドイルは流れる涙をハンクの服で拭い顔を上げる。険しい黒い瞳と固く結ぶ唇がドイルを見下ろしていた。その姿に碧眼から涙が落ちる。
「くるちい」
幼い声がハンクから聞こえドイルの体は跳ねる。
「ハンク…死んでから声が変わったのか?お化けだとそんな声になっちゃうのか!?」
「陛下」
テオの低い声がドイルを呼ぶ。
「ハ…ン…テオ?テオ?え…?嘘つけ…へ?」
テオは混乱しているドイルの金色の頭を撫でる。
「顔色が悪い…倒れるぞ」
「ハンク!!俺の心配してくれるのか!?お前…死んでからのほうが優しいじゃないか!」
再びテオを抱き締めるドイルに可愛い声が届く。
「いちゃい」
「なんてこった!死ぬとこんなことになるのか!?俺は化けて出るのはやめる!」
ドイルは顔をぐりぐりとテオに擦り付ける。
「テオー」
マントの中のエイヴァが呼ぶ。その声にだんだんと冷静になったドイルはため息を吐く。
「はあ…テオ…お前どうやってここに来たんだ?さっきゾルダーク邸に火砲が撃ち込まれてたんだぞ?陛下は泣きながら見てた!」
テオはドイルの肩を掴み自身から離す。
「レオとクレアの無事は本当か?」
見下ろす黒い瞳は険しく厳しい…まるでハンクに見える。声まで似ているテオにドイルの碧眼は潤む。
「うん。望遠鏡で見てた…レオンが火銃を撃って…はは…横転したハインス公爵家の馬車に上ってな…クレアが馬車から出てきたのをこの目で見たよ。だけど…カイランは運ばれてた…死ぬかもな」
「そうか」
ドイルの言葉を聞いたテオは頷いた。
「ハンク!!」
感情が混乱しきっているドイルは再びテオに抱きつく。
「何人も入れるな」
テオは抱きつくドイルをそのままに近衛に命じる。頷いた近衛は扉を閉めた。その後、門を閉める音が離宮の中に響く。
「どうやってここまで来たんだよぉ…まさか飛んできたのか?」
見上げ尋ねるドイルの脇に手を差し込み持ち上げたテオは離宮の奥へと進みソファにドイルを座らせる。そして自身は床に腰を下ろし胡座をかいて足首に装着された短剣を抜きマントを斬り割く。
「ふはー、ティくるしかったね」
テオは自身に巻き付く布を短剣で斬っていく。床に足を下ろしたエイヴァはきょろきょろと初めての場所を見回す。
「へいか」
「やあ、エイヴァ王女」
微笑む愛らしい紅眼にドイルの肩の力も抜けていく。
「ダンテも来たのか」
床に足を下ろしたダンテがエイヴァに近づき手を繋ぐ。
「おうきゅう?」
エイヴァはテオを見上げて尋ねる。
「ああ…王宮内にある離宮だ」
テオの言葉に頷いたエイヴァはダンテと共に庭の方へ向かった。
「で?どうやって来た?」
テオは散らかった布とマントを纏め立ち上がりソファに腰を下ろす。
「離宮とゾルダーク邸は…繋がっている」
「土の中でも掘ったのか?」
「そんなことはしていない…陛下…ルシルは寝室にいる…心配無用だ」
ドイルは頷く。
「…父上がここに建てろと言わなかったか?」
「ああ…離宮の相談をしたときここがいいだろうって言うから…」
「ここは王宮の端に位置する。庭の塀の外は斜面になってる…がその下は民が暮らしている」
テオの言葉にドイルはある考えが浮かぶ。
「民家を…ゾルダーク邸から城の下の民家までを買ったのか?」
「ああ」
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