125 / 231
ドイル
しおりを挟む
「クレア!」
「ふふ、ようこそ陛下」
ゾルダーク邸のホールにはドイルを出迎えるクレアがいる。
「運んでくれ」
ドイルは王宮から連れてきた使用人に指示を出し大きな荷物を運ばせる。並べられた箱の大きさは様々でドイルは得意そうに眺めホールから使用人が去るのを待ち尋ねる。
「上階に運ばなくてよかったか?」
「ここに」
クレアは微笑みながらホールを指差す。
「久しぶりだ!たまには遊びに来てくれ」
「王宮へ?ゾルダーク贔屓と悪評がたってしまうわ」
「もうたってるぞ」
後ろから聞こえた低い声にドイルは体を揺らしただけで振り向かず無視をする。
「悪評なんて気にしてないさ。陛下は名君賢君だからな」
「俺はなんて言われていたんだ…?」
ドイルの背後に立つガブリエルがホールの天井に視線を移し考える。
「ふふ、どんなドレスか気になるわ」
クレアは置かれた大きな箱たちを眺める。
「ははっ一番金を使ったぞ?ジュリアンにもこんな豪華なものは贈ったことがなかった」
ドイルの言葉にクレアは微笑みを消した。
「陛下、華美にはしないとルーカス様と約束したのでしょう?」
「だって、あいつは金糸をたくさん使ったろう?同じものでは納得できない!で、急遽手直しをしただけだ」
「王宮の夜会まで日がないのに…」
「クレア!直したら駄目だぞ。陛下は泣いちゃうぞ」
「いい年の男が子供相手に何言ってるんだ。恥ずかしくないのか?ドイル」
ガブリエルの言葉に苛立ったドイルはとうとう振り向いた。
「うるさい!なんでま…だ…ゾル…お前…いつ…子を…」
ドイルの碧眼には大きなガブリエルの肩に乗る銀髪黒眼の幼子が見える。幻かとドイルは目を擦るが幼子は変わらず見下ろしている。
「おま…誰を孕ませ…」
ドイルは咄嗟にクレアを見つめる。
「馬鹿だなドイル。こいつがクレアと俺の子供なら十三で孕ませてるぞ。そんな趣味は持ってないぞ、ははは!」
ガブリエルの大きな声がホールに響く。
「クレア…本当のことを言うんだ…陛下がこの馬鹿を殺してやる」
ドイルはその場に佇むクレアの両肩を掴み異色の瞳に尋ねる。
「ふふふ!陛下では無理よ。ギィの強さを知っているでしょう?」
「それでもだ!寝首をかっ斬ってやる!」
「はははっ楽しみだ!いつでも来い!」
ホールの状況を眺めていたレオンがもういいかと現れる。
「陛下」
「レオン!ガブリエルを殺してしまえ!」
レオンは今にも泣き出しそうなドイルの震える体に触れる。
「マチルダの子供ですよ」
「ははは!驚いたろ!?ははは!」
ガブリエルは満足そうに笑い、肩に乗せたダンテを揺らす。
「マチル…ダ…って…あの…マチルダ?」
「はい。そのマチルダですよ」
「瞳が黒いぞ」
やはりシャルマイノスではゾルダークの子と認識されてしまうとレオンは改めて思う。
「話が長くなるのです。部屋へ行きましょう。クレア、ダンテを連れていってくれ」
レオンの言葉にクレアは動き、ガブリエルの肩にのるダンテに手を伸ばす。ガブリエルはダンテの襟首を掴みクレアに渡した。
「ふふ、また重くなったわ。陛下、話が終わったら花園へいらしてね」
「ああ…」
返事をしたドイルは離れていくクレアを見つめる。
「まるで母親のようじゃないか…クレア」
「な!クレアは母性が強いのかもな。マチルダは皆無だったか!?ははは!」
「うるさい、ガブリエル。国へ帰れよ…あの面倒臭そうなの連れて」
ドイルの言葉にレオンは苦笑する。
「陛下、こちらへ」
「うん」
レオンはドイルとガブリエルを従え、ハロルドが立つ場へ向かう。 応接室に入るとソーマが紅茶の準備をしていた。
「ソーマ、まだ働いているのか?老体にはつらいだろ」
ドイルの言葉にソーマは微笑むだけで茶器に注ぎ始めた。
「働き者だな。俺は次の夜会を最後にジェイドに譲位しようと思ってるんだ」
ソーマは動きを止めドイルを見つめる。
「陛下、お疲れ様でした」
ソーマは軽く頭を下げる。
「うん。レオンは立派に育ったし…俺も年取ったし」
長い付き合いの二人は互いに微笑む。
ソーマは動きを再開させ茶を注ぐ。
「決めましたか」
レオンの言葉にドイルは頷く。
「ジェイドのために俺は頑張った…息子を国王として立たせるため整えすぎたと思うほどだ」
「そうだな。俺はゼキに何もしてやってないな…それを考えるとドイルは名君だ」
ドイルは隣に座るガブリエルを睨む。
「隣に座るなよ。近いな…離れろよ!体が傾くんだよ!」
「俺の茶をここに置いたソーマが悪い」
ガブリエルは器を掴み茶を口に含む。
「うまい…酒はなんにでも合うな…おかわり」
ドイルはため息を吐きレオンに視線を移す。
「ガブリエルは放っておこう。で?ダンテ?マチルダはゾルダークに子を捨ててどこかに消えたのか?…いるのか?」
レオンはドイルの問いに首を振る。
「陛下、ダンテにゾルダークの血は流れていません」
「そうなのか?ハンクの遊び相手の…とか老公爵の落とし子とか…いたっておかしくないぞ」
ゾルダークの避妊薬が無い時代なら可能性はあるとレオンは頷く。
「父親はヘドグランの男です」
「ぶー!」
ドイルは口に含んだ茶を噴き出す。
「レオン、さすがだな…今のを避けたか」
ガブリエルは体をずらして噴き出した茶を避けたレオンを褒める。ソーマは懐からハンカチを出しドイルの開いたままの口の周りを拭き布巾で机を拭く。
「うそん…」
「…はは…陛下…ヘドグランの王族は黒眼だそうです」
「嘘だろ!」
ドイルは叫び立ち上がる。レオンの真剣な表情に嘘は見えずドイルは静かに腰を下ろす。
「レオン、ドイルが死ぬぞ。俺も驚かせたしお前も…労れ」
酒入りの茶をぐいっと飲んだガブリエルはおかわりを求める。
「驚きで人は死なないよ」
「レオン…いつの話だ?」
「ゾルダーク領の帰りです」
レオンはウィンター・ヘドグランとダンテのことを簡潔に話した。
「…ってことは…ヘドグランは放っておいて…」
「いいです。俺の騎士がヘドグランに入り…少し調べさせましたが他国に興味があるのは一部の貴族家のみ。王族が賛同しなければ進攻はしません」
レオンはニックの報告を思い出す。ウィンター・ヘドグランと旅立ったニックがゾルダーク邸に戻るまで二月を要した。ノーランド辺境を越え秘密の道まで馬で駆けたニックはウィンター・ヘドグランの目を盗み印を付けながらヘドグラン王国に入った。二人だけの旅の間、ニックは辺境の過酷さや山の過ごし方など話しかけ自身の過去も嘘を織り込み同情をさせウィンター・ヘドグランの心に入り口を軽くさせた。二人は山脈をなぞるように歩き、野生の馬に乗りアムレとの境の山脈にたどり着いた。案内はここまでだとニックはウィンター・ヘドグランと共に走った道を戻り、二人が消えたことを確認したゾルダークの騎士がアムレへの道を探すため身を潜めながら動いた。
「レオン…ゾルダーク公爵家はヘドグランから…」
「可能性は高いです。ダンテの父親が黒眼は王族の血筋に現れると言いました」
ゾルダーク公爵家当主が受け継ぐ書物に書かれていない始まり。遠い過去、ヘドグランで何かがありゾルダークはシャルマイノスに移ったとレオンは想像する。多くの宝石を手土産に得た爵位、過去ならあり得るとヘドグランの方角を眺めながら考えていた。
「わからんぞ。シャルマイノス王国ゾルダーク公爵家の血筋がヘドグランを統治したかもしれん。その方が面白いだろ」
それもあるかもなとレオンは無邪気なガブリエルに微笑む。
「いいさ。シャルマイノスが平穏であるならなんでもいい」
ドイルは呟きガブリエルの器を掴み、茶を含む。
「ドイル、俺のだぞ。目が衰えたか」
「けっこう酒が入ってるじゃないか!これは紅茶じゃない!……あの子供はどうする?厄介だ」
「ドイル、俺の孫だぞ?厄介とは酷い言い草だな」
見ないことにしようとしたくせにとレオンは心の中でガブリエルに向けて毒づく。
「落ちにくい髪の染料を作っています。あまり外には出しませんし、本人もそれでいいと」
「あんな幼子がそんなことを言ったのか?不憫だろ…ガブリエル…チェスターの田舎に王族の領地があるだろ?連れて帰れよ」
「俺はゾルダーク領の墓地に入るんだ。チェスターには戻らん」
「戻らんって!俺はシャルマイノスに滞在する許可を出していないんだぞ!馬鹿!」
「大事なものがここにある。満足するまで離れん」
俺達のことか狼のことかとレオンは考える。ガブリエルの狼、レヴはこの数ヶ月で体は大きくなりガイルはボーマを越えると言う。
「墓地…?使用人の墓地に国王が入るのか?エゼキエルが泣くぞ」
ガブリエルはドイルの言葉に頬をかく。
「陛下、アムレから書状が?」
レオンは話題を変える。ドイルは口を閉ざし懐から紙を取り出す。
「きたよ…来るってさ」
レオンはドイルから手紙を受け取り広げる。
「…王族が来る…アダムの名じゃなく…王族…」
手紙の文字を見つめレオンが呟く。
「…書き方…気味が悪いだろ?アムレの王族は多い。少年が来るのか少女が来るのか、実はアダムか……女王なのか…」
レオンはドイルの碧眼を見つめる。
「はっ!あの女は俺と年が変わらんぞ。長旅は辛い。おかわり」
ガブリエルはソーマにおかわりを願うが首を振られる。
「貴賓の部屋は一つだけ…」
アムレからの手紙にそう書かれている。
「なんだかな…アダムならいいなって思っちゃったよ」
レオンもそうだなと思った。
「レグルスからはカルヴァ・レグルスとサーシャが来るし王宮は忙しいんだよ」
「ゼキは夜会の当日に来る。忙しい奴だ」
ガブリエルは空の器を振りながら呟く。
「ふふ、ようこそ陛下」
ゾルダーク邸のホールにはドイルを出迎えるクレアがいる。
「運んでくれ」
ドイルは王宮から連れてきた使用人に指示を出し大きな荷物を運ばせる。並べられた箱の大きさは様々でドイルは得意そうに眺めホールから使用人が去るのを待ち尋ねる。
「上階に運ばなくてよかったか?」
「ここに」
クレアは微笑みながらホールを指差す。
「久しぶりだ!たまには遊びに来てくれ」
「王宮へ?ゾルダーク贔屓と悪評がたってしまうわ」
「もうたってるぞ」
後ろから聞こえた低い声にドイルは体を揺らしただけで振り向かず無視をする。
「悪評なんて気にしてないさ。陛下は名君賢君だからな」
「俺はなんて言われていたんだ…?」
ドイルの背後に立つガブリエルがホールの天井に視線を移し考える。
「ふふ、どんなドレスか気になるわ」
クレアは置かれた大きな箱たちを眺める。
「ははっ一番金を使ったぞ?ジュリアンにもこんな豪華なものは贈ったことがなかった」
ドイルの言葉にクレアは微笑みを消した。
「陛下、華美にはしないとルーカス様と約束したのでしょう?」
「だって、あいつは金糸をたくさん使ったろう?同じものでは納得できない!で、急遽手直しをしただけだ」
「王宮の夜会まで日がないのに…」
「クレア!直したら駄目だぞ。陛下は泣いちゃうぞ」
「いい年の男が子供相手に何言ってるんだ。恥ずかしくないのか?ドイル」
ガブリエルの言葉に苛立ったドイルはとうとう振り向いた。
「うるさい!なんでま…だ…ゾル…お前…いつ…子を…」
ドイルの碧眼には大きなガブリエルの肩に乗る銀髪黒眼の幼子が見える。幻かとドイルは目を擦るが幼子は変わらず見下ろしている。
「おま…誰を孕ませ…」
ドイルは咄嗟にクレアを見つめる。
「馬鹿だなドイル。こいつがクレアと俺の子供なら十三で孕ませてるぞ。そんな趣味は持ってないぞ、ははは!」
ガブリエルの大きな声がホールに響く。
「クレア…本当のことを言うんだ…陛下がこの馬鹿を殺してやる」
ドイルはその場に佇むクレアの両肩を掴み異色の瞳に尋ねる。
「ふふふ!陛下では無理よ。ギィの強さを知っているでしょう?」
「それでもだ!寝首をかっ斬ってやる!」
「はははっ楽しみだ!いつでも来い!」
ホールの状況を眺めていたレオンがもういいかと現れる。
「陛下」
「レオン!ガブリエルを殺してしまえ!」
レオンは今にも泣き出しそうなドイルの震える体に触れる。
「マチルダの子供ですよ」
「ははは!驚いたろ!?ははは!」
ガブリエルは満足そうに笑い、肩に乗せたダンテを揺らす。
「マチル…ダ…って…あの…マチルダ?」
「はい。そのマチルダですよ」
「瞳が黒いぞ」
やはりシャルマイノスではゾルダークの子と認識されてしまうとレオンは改めて思う。
「話が長くなるのです。部屋へ行きましょう。クレア、ダンテを連れていってくれ」
レオンの言葉にクレアは動き、ガブリエルの肩にのるダンテに手を伸ばす。ガブリエルはダンテの襟首を掴みクレアに渡した。
「ふふ、また重くなったわ。陛下、話が終わったら花園へいらしてね」
「ああ…」
返事をしたドイルは離れていくクレアを見つめる。
「まるで母親のようじゃないか…クレア」
「な!クレアは母性が強いのかもな。マチルダは皆無だったか!?ははは!」
「うるさい、ガブリエル。国へ帰れよ…あの面倒臭そうなの連れて」
ドイルの言葉にレオンは苦笑する。
「陛下、こちらへ」
「うん」
レオンはドイルとガブリエルを従え、ハロルドが立つ場へ向かう。 応接室に入るとソーマが紅茶の準備をしていた。
「ソーマ、まだ働いているのか?老体にはつらいだろ」
ドイルの言葉にソーマは微笑むだけで茶器に注ぎ始めた。
「働き者だな。俺は次の夜会を最後にジェイドに譲位しようと思ってるんだ」
ソーマは動きを止めドイルを見つめる。
「陛下、お疲れ様でした」
ソーマは軽く頭を下げる。
「うん。レオンは立派に育ったし…俺も年取ったし」
長い付き合いの二人は互いに微笑む。
ソーマは動きを再開させ茶を注ぐ。
「決めましたか」
レオンの言葉にドイルは頷く。
「ジェイドのために俺は頑張った…息子を国王として立たせるため整えすぎたと思うほどだ」
「そうだな。俺はゼキに何もしてやってないな…それを考えるとドイルは名君だ」
ドイルは隣に座るガブリエルを睨む。
「隣に座るなよ。近いな…離れろよ!体が傾くんだよ!」
「俺の茶をここに置いたソーマが悪い」
ガブリエルは器を掴み茶を口に含む。
「うまい…酒はなんにでも合うな…おかわり」
ドイルはため息を吐きレオンに視線を移す。
「ガブリエルは放っておこう。で?ダンテ?マチルダはゾルダークに子を捨ててどこかに消えたのか?…いるのか?」
レオンはドイルの問いに首を振る。
「陛下、ダンテにゾルダークの血は流れていません」
「そうなのか?ハンクの遊び相手の…とか老公爵の落とし子とか…いたっておかしくないぞ」
ゾルダークの避妊薬が無い時代なら可能性はあるとレオンは頷く。
「父親はヘドグランの男です」
「ぶー!」
ドイルは口に含んだ茶を噴き出す。
「レオン、さすがだな…今のを避けたか」
ガブリエルは体をずらして噴き出した茶を避けたレオンを褒める。ソーマは懐からハンカチを出しドイルの開いたままの口の周りを拭き布巾で机を拭く。
「うそん…」
「…はは…陛下…ヘドグランの王族は黒眼だそうです」
「嘘だろ!」
ドイルは叫び立ち上がる。レオンの真剣な表情に嘘は見えずドイルは静かに腰を下ろす。
「レオン、ドイルが死ぬぞ。俺も驚かせたしお前も…労れ」
酒入りの茶をぐいっと飲んだガブリエルはおかわりを求める。
「驚きで人は死なないよ」
「レオン…いつの話だ?」
「ゾルダーク領の帰りです」
レオンはウィンター・ヘドグランとダンテのことを簡潔に話した。
「…ってことは…ヘドグランは放っておいて…」
「いいです。俺の騎士がヘドグランに入り…少し調べさせましたが他国に興味があるのは一部の貴族家のみ。王族が賛同しなければ進攻はしません」
レオンはニックの報告を思い出す。ウィンター・ヘドグランと旅立ったニックがゾルダーク邸に戻るまで二月を要した。ノーランド辺境を越え秘密の道まで馬で駆けたニックはウィンター・ヘドグランの目を盗み印を付けながらヘドグラン王国に入った。二人だけの旅の間、ニックは辺境の過酷さや山の過ごし方など話しかけ自身の過去も嘘を織り込み同情をさせウィンター・ヘドグランの心に入り口を軽くさせた。二人は山脈をなぞるように歩き、野生の馬に乗りアムレとの境の山脈にたどり着いた。案内はここまでだとニックはウィンター・ヘドグランと共に走った道を戻り、二人が消えたことを確認したゾルダークの騎士がアムレへの道を探すため身を潜めながら動いた。
「レオン…ゾルダーク公爵家はヘドグランから…」
「可能性は高いです。ダンテの父親が黒眼は王族の血筋に現れると言いました」
ゾルダーク公爵家当主が受け継ぐ書物に書かれていない始まり。遠い過去、ヘドグランで何かがありゾルダークはシャルマイノスに移ったとレオンは想像する。多くの宝石を手土産に得た爵位、過去ならあり得るとヘドグランの方角を眺めながら考えていた。
「わからんぞ。シャルマイノス王国ゾルダーク公爵家の血筋がヘドグランを統治したかもしれん。その方が面白いだろ」
それもあるかもなとレオンは無邪気なガブリエルに微笑む。
「いいさ。シャルマイノスが平穏であるならなんでもいい」
ドイルは呟きガブリエルの器を掴み、茶を含む。
「ドイル、俺のだぞ。目が衰えたか」
「けっこう酒が入ってるじゃないか!これは紅茶じゃない!……あの子供はどうする?厄介だ」
「ドイル、俺の孫だぞ?厄介とは酷い言い草だな」
見ないことにしようとしたくせにとレオンは心の中でガブリエルに向けて毒づく。
「落ちにくい髪の染料を作っています。あまり外には出しませんし、本人もそれでいいと」
「あんな幼子がそんなことを言ったのか?不憫だろ…ガブリエル…チェスターの田舎に王族の領地があるだろ?連れて帰れよ」
「俺はゾルダーク領の墓地に入るんだ。チェスターには戻らん」
「戻らんって!俺はシャルマイノスに滞在する許可を出していないんだぞ!馬鹿!」
「大事なものがここにある。満足するまで離れん」
俺達のことか狼のことかとレオンは考える。ガブリエルの狼、レヴはこの数ヶ月で体は大きくなりガイルはボーマを越えると言う。
「墓地…?使用人の墓地に国王が入るのか?エゼキエルが泣くぞ」
ガブリエルはドイルの言葉に頬をかく。
「陛下、アムレから書状が?」
レオンは話題を変える。ドイルは口を閉ざし懐から紙を取り出す。
「きたよ…来るってさ」
レオンはドイルから手紙を受け取り広げる。
「…王族が来る…アダムの名じゃなく…王族…」
手紙の文字を見つめレオンが呟く。
「…書き方…気味が悪いだろ?アムレの王族は多い。少年が来るのか少女が来るのか、実はアダムか……女王なのか…」
レオンはドイルの碧眼を見つめる。
「はっ!あの女は俺と年が変わらんぞ。長旅は辛い。おかわり」
ガブリエルはソーマにおかわりを願うが首を振られる。
「貴賓の部屋は一つだけ…」
アムレからの手紙にそう書かれている。
「なんだかな…アダムならいいなって思っちゃったよ」
レオンもそうだなと思った。
「レグルスからはカルヴァ・レグルスとサーシャが来るし王宮は忙しいんだよ」
「ゼキは夜会の当日に来る。忙しい奴だ」
ガブリエルは空の器を振りながら呟く。
250
お気に入りに追加
1,942
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
離れていても君を守りたい
jun
恋愛
前世の俺は最愛の妻を裏切り、その妻をズタズタに傷付けてしまった。不倫相手と再婚したが、家族からも周りからも軽蔑の視線を向けられ続けた。
死ぬ直前まで後悔し続けた俺の最後の言葉は「フローラに会いたい」と呟いて死んだ。
次に目が覚めた時、俺は第二王子になっていた。
今世の“アルトゥール・ガイエ”の中身は誰?
そして一番会いたかったフローラの側にはやっぱり“アルトゥール”がいた。
*子供を亡くす表現があります。
性行為の描写も軽くありますので気になる方は読み飛ばして下さい。
投稿は10時、初回のみ22時、2話投稿です。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
子供なんていらないと言ったのは貴男だったのに
砂礫レキ
恋愛
男爵夫人のレティシアは突然夫のアルノーから離縁を言い渡される。
結婚してから十年間経つのに跡継ぎが出来ないことが理由だった。
アルノーは妊娠している愛人と共に妻に離婚を迫る。
そしてレティシアは微笑んで応じた。前後編で終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる