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王宮での締結から一月、レグルスから旅一座と共に運ばれた型がゾルダークで鋼の砲筒と砲弾になり始めた頃、辺境伯の当主を辞めたリードがハンクに渡す手紙を持ち、夜のゾルダーク邸を訪れた。上質なソファに座った老体は執務机に腰掛ける大きな黒い男と相対している。

「いつ届いた」

「八日前ですな」

リードは年を感じさせないほどの体格を持ってはいるが辺境から八日で王都まで来たのなら馬車ではない。

「貴様でなくてもよかったがな。馬は辛いだろ」

「隠居して暇だったのです。レグルスと交流が増えましたから周りは忙しい」

リード辺境伯にはドイルからレグルスの旅一座に扮した者達の往来が増えることは通達済みだ。詳しく知るのはリードの一族のみ。

「貴様はレグルスの望みを知っていたな。だが中央に報せなかった。背信だな。レディントと同じ道を辿るぞ」

白髪は刈り込まれ顔にしわも多いが焦げ茶の瞳には力強さがある。

「だが、公爵は伝えていない」

「貴様を言いなりにできるからな」

シーヴァ・レグルスから話しかけられた時点で報告をしなかった。要求は断ったようだが隣国の王が剣を求めるなど報告をする義務がある。断るだけに留めたのは、レグルス王をよく知っているということだ。

「儂の怠慢を報告しない公爵も責められるのでは?」

「俺は貴様の怠慢など知らん。怠慢ではないだろ。レグルス王とは昔から知る仲だな…弱みでも握られているか」

シーヴァ・レグルスがリードの名を出したときの表情には親しみがあった。リードを好んでいる。

「隣国の王に肩入れするなどドイルが泣くぞ」

数年前から辺境の改革を進めている。中央が送った識者には辺境伯といえど逆らうことを禁じ、従うように命じてある。レディントの愚かな行い、一族の行く末が辺境伯らを黙らせた。

「火薬を知っていたのか」

「それは知りませんでしたな。シーヴァ・レグルスは儂と知り合いなだけ…息子らは知りません。時折、芸人を装い来ていた。辺境は広く田舎、儂の別邸で過ごすことも」

よくないな。リードの一族まで滅ぼすとなると仕事が増える。

「一人か」

リードは口を噤んだ。答えたようなものだ。レグルス王家は子が多い。後宮の存在が歴代王の女好きを表している。シーヴァ・レグルスには他に十人の兄弟姉妹がいる。そいつらも来ていたらますます面倒だ。

「これからは同盟がある。息子には貴様の所業を言うな」

隣国の王と仲がいいなど、阿呆なら余計なことを考えるかもしれん。

「承知しました。公爵…リード辺境から人を動かしましたか」

まだ探していたか、嫌な感じだ。探しても見つからん場所で囲っているからリードでは見つけられんがな。

「何の話だ」

「孤児院にいた者が院長にも知られずに消えました。探しても探しても他の領地の孤児院に辿り着くのみ。その者は…」

必死だな…なるほどな、面倒だ。レグルス王家の血でも入っていたか。

「貴様の子か」

答えられんか。それほど長くレグルス王家と親密だったか。レグルス王には一言言わなくてはならんな。

「何故俺に聞く」

「何年も探していましてな。手が込んでいる…随分高貴な身分の方にしか無理ですな」

「孤児院と言ったな?それほど大切ならば手元に置くだろ」

リードの握った拳に力が入り、体が震えている。

「守るためです」

「理解できんな。俺なら手放さん…死んでもな。諦めろ。死んでいるかもしれんぞ」

リードは俯いていた顔を上げ目元を吊り上げて俺を睨む。

「儂は死ぬまで諦めませんぞ」

もうすぐ死ぬだろ。年寄と同じ年代なら六十の終わりに近いはずだ。だが、厄介な瞳の強さだな…意志が伝わる。貴様には大人しくしてもらいたいもんだ。

「リード、探してどうする?子が幸せに暮らしていても取り戻すのか」

「幸せならっ苦しんでいないなら…儂はもう未練はない」

「そうか。レグルスが戦に勝ったら俺が探してやる。貴様は死ぬまで俺の命令に従え。息子らも抑えろよ」

リードは阿呆ではない。俺の言葉は理解しただろ。戦が終わって世界の情勢が落ち着き、貴様が生きていたのならドイルに話してやる。子が俺の手中だと悟れよ。

「公爵…」

リードの眉尻を下げ焦げた茶の瞳が見つめる。

「手紙を寄越せ」

リードは懐から手紙を取り出す。蝋を割り読み始める。……バルダンに入る前に託したか…随分早くレグルスを調べたな。こそこそと戦の準備をしている…か、レグルス王の話は真実だな。後はバルダンの状況か。

「辺境の検問所をレグルス王の書状を持って通る親子は引き止めるな。もし、書状を持っていなくともどちらかが俺の名を告げたら通していい。リード、貴様が見張れ。息子らは信用できん」

貴様の大事な物は知っているからな。逆らわんだろ。

「当主になった息子は阿呆じゃないだろうな」

「他の辺境とは違います」

だな。他の辺境なら親しくなった王族に踊らされてどこかが滅んでいるだろうな。

「ゾルダークには多大な恩があると吹き込んでおけ。寄り道せず辺境に戻れ」

「承知しました。夜分に申し訳なかったが急ぎの手紙…起こしましたか」

トラウザーズの上にガウンを羽織っただけだからな、そう見えるか。

「この事態は黙せよ。六侯爵も知らんからな」

ガブリエルが戻り、報告を聞いてから六侯爵を集める。もし、後二月でガブリエルが戻らなければ奴は掴まったか死んだかだ。
手を振りリードを下がらせ、寝室の扉を開ける。寝台の上には変わらぬ形で掛け布が膨らんでいた。俺の出した音に膨らみが揺れる。

「すまんな、空色」

「ハンクっ…抜いて」

掛け布を捲ると小さな体を縮めて悶える淫らな女がいる。

「文句なら客に言わんとな」

明日にしろと言いたかったが、客の訪れを聞いたお前の渋い顔が珍しくて遊んでみたくなったんだ。尻は香油にまみれて奥まで張り形を呑み込み、体を震わせる姿は滾るな。

「顔も体も赤い…美しいな」

蝋燭の灯りに照らされた小さな手に噛み痕を見つけた。声を耐えたか…

「空色…すまん。留守の間にこの部屋の防音は強化させたんだ。お前の悲鳴は誰にも聞こえん」

空色の瞳からは涙を流し、裸体に張り形を呑み込んだまま俺を睨んでいる様は愛しいだけだぞ。
縮こまる愛しい空色を上から覆い隠す。睨む瞳に口を落とし、滑らかな体を撫でる。待ち望んだ体はそれだけでも快感を拾うらしい。涙を溢れさせて悦んでいる。赤い頂に触れ指で挟み、震える体を仰向けにして、もう一つの頂に吸い付くと体が一層震えだし嬌声を上げて強張る。

「達したのか?空色…すごいな」

俺の声は届いていないように空色の瞳を潤ませ喘ぐ姿に理性が失くなるのは仕方がないだろ。うつ伏せにした空色の腰を持ちトラウザーズを下げて、滾る陰茎を泥濘に進ませると、中は温かく濡れて俺を握り奥へと蠕動するかのように蠢く。

「っ…締め付けすぎだ」

腰を動かし中を擦ると孔に呑み込ませた張り形も動く。細い形状の張り形を掴み抜いていくと薄い茶の頭を振って悦び悲鳴を寝室に響かせた。開いた孔に指を二本突き入れ、中から自身の陰茎の存在を感じると頬が緩む。

「いいな、空色」

突く度に寝台に液が落ちて濡らしている。後ろを振り向くと漆黒のドレスを纏った空色が俺を見つめる。快感が走り俺の腰を震わせる。喘ぐ空色に視線を戻し柔らかい尻を撫でる。

「ハンクっ奥っ」

淫らな空色になったな。腰を押し付けると耐えられない腕が折れて上半身が倒れ尻だけ上がった様になる。望み通り、奥へと陰茎を突き抽挿を激しくさせ空色を揺らして、指も動かし狂わせていく。甲高い悲鳴と締め付けが俺を満たし陰茎から子種を奥へと注ぐ。


「怒るな」

「意地悪をしたわ」

ああ…認める。

「謝ったろ?」

「いつ?」

聞こえていなかったか…悶えていたからな。

「すまん」

「もうしないで」

「わからん」

後ろから細い体に巻き付かせた腕がつねられるが痛くない。

「抜いてから行けたわ」

「すまん」

意地悪をしたのは確かだ。文句は聞く。薄い茶に頬擦りして許しを乞う。

「欲しい物を言え。買ってやる」

泣かせたからな詫びをしないとならん。

「ふふっ欲しい物?そうね…ハンクでも無理よ」

「言ってみろ」

「ブランコに乗りたいわ」

大きな木が必要だな。ここの邸は広いが太い枝の木がないな。調べてみるか。

「ふふっ冗談よ、意地悪を言ったの…」

「愛しい女の願いは叶えんとな」

空色は振り向き目を見開いている。

「冗談よ、ハンク。音楽が聴きたいわ。呼べる?」

「それも叶える」

愛しい女は困り顔になった。

「ハンク…ブランコは冗談よ…」

「お前は冗談を言わん」

少しは欲しいと思ったから浮かんだんだろ。叶える。お前の願いは全てな。

「避妊薬がありそうだ」

「もう見つけたの?」

「ああ、だが他所で試してからだ」

レグルスから来た薬師と話した。死産薬のように孕む場所は壊さず、この国にある高級な物より安全性の高い、月の物の周期も乱さない、注いだ後に飲む避妊薬だ。材料が手に入りづらく高価なのが難点だと薬師は言ったが、そこはどうにでもなる。高くとも需要があれば販売もできる。

「ありがとうハンク」

「ああ」

孕んでもいいがな。お前が気にするなら孕まんでもいい。


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