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アクシデント 1
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そんなある日、両親の代理で遠縁の葬儀のために二人そろって遠くまで出かけることになった。
亡くなった人物には直接会ったことはなかったがとても人望があったようで、その参列者の多さに二人は驚いた。
それゆえに、その屋敷に全員が泊まることはできず、若いミシェルとフレデリクには申し訳ないがと宿を用意されたのだった。
夕食はぜひ一緒にと言ってもらえたが、他に知る者もいなかったため二人は丁寧に辞退した。
この街はワインとチーズが美味しいと聞いていたフレデリクは宿屋の主人に教えてもらった店へと向かった。
ミシェルは飲酒してもよい年齢になっていたがこれまであまり飲んだことはない。過保護な両親がお前には危険だと飲ませなかったためだ。
「ここのワインは有名だしせっかくだから少し味わうだけでもどうだ?」
「う、うん」
ミシェルはグラスに入った冷えたワインを手に取り、香りを吸い込んだ。
「う~ん、よくわからないや」
そういいながら少し口に含んだ。
「おいしい!すっきりしてて甘さ控えめのジュースみたい」
「飲みやすいものを選んでもらったからな」
飲みやすいと言ってもワインはワイン。
グラス一杯で真っ赤になったミシェルはふわふわとした気分で、おいしい料理を食べた。
「……そろそろ宿へ戻ろうか」
「僕もう少しここにいたい」
初めてのワインが気に入ったのか、こういう店の雰囲気が気にいったのかミシェルは嫌々とかぶりを振る。
フレデリクはワインに頬を染め、とろんとした無防備な表情と可愛らしい色気を振りまくミシェルを店の客たちがちらちらとみているのに気が付いていた。
「どうしてもなら、部屋で飲もう」
そういってふわふわと体を揺らしているミシェルを連れて店を出た。
フレデリクは少し酔っている様子のミシェルの手を取った。
「えへへ。兄様と最近よく手をつなぐね」
そういわれて、昔よく手をつないで庭を散歩したことを思い出す。
フレデリクが養子に来た時、生真面目な性格からみんなから一歩引いたような生活をしていた。そんなフレデリクにミシェルは散歩に誘ったり、遊びに誘ったりと随分とな距離を縮めてくれた。
そのおかげでフレデリクはラフォン家にすぐ溶け込むことができたのだ。
「そうだな」
お酒の力も手伝って、いつもよりほんの少し気持ちが上を向いていたミシェルはフレデリクとつないだ手をぶんぶんと振りながら通りを歩いた。
「って! おい、気をつけろ!」
この通りはお酒を提供する店が多く、仕事終わりの人々でどんどんにぎわってきていた。大きく振ったミシェルの手が他の通行人に当たってしまったのだ。
「あ、ごめんなさい」
ミシェルがすぐさま謝ると、男はニヤニヤを笑い出した。
「ああ、かまわねえよ。こんな美人とぶつかるなんてついてるぜ。ほら、お近づきの印に一杯どうだ?」
「いえ、今から帰るところですから。大変迷惑をおかけしました」
ミシェルが何か答えるまでにフレデリクが先に返事する。
「兄ちゃんには言ってねえ。この子を置いて先にかえりやがれ」
男たちは上機嫌だが、下品な笑い声をあげる。
そして一人の男がミシェルの腕をつかもうと手を伸ばしてきた。
「に、兄様……」
一気にふわふわした気分が吹き飛んだミシェルは怖さのあまり立ちすくむ。
これまでの優しげな顔とは打って変わって厳しい表情をしたフレデリクはミシェルをかばうように前に出た。その全身からにじみ出る威圧感と彼らを睥睨する視線の強さ、そしていつの間にやら右手には剣が構えられていた。
「こっちが下手に出ている間に帰らないと命はないぞ」
「なんだとおぉ!」
三人の男がいきり立つ。
「こんな貴族の坊ちゃんに何ができるってんだ!」
そういうと一人の男はフレデリクにこぶしを振り上げて向かってきた。
殴りかかろうとする男をさっとよけ、後ろに回ったかと思うと腕を後ろ手に捻り上げ短剣を男ののど元に突き付ける。
だが仲間の男たちが、その男を気にするそぶりもなく短剣を振り上げて襲ってきた。フレデリクは押さえていた男の首の付け根を柄の後ろで思いきり叩き、意識を奪うと他の二人の剣をはじき、思い切り腹をけりつけ吹っ飛ばした。
「さっさと引け!」
フレデリクの一喝に男たちは悔しそうな顔をしながら逃げていった。
「ふ~っ、大丈夫か?」
「に、兄様」
震える声で、震える体でフレデリクに抱き着いた。
「大丈夫だ、もう大丈夫だよ」
ヒックヒックと泣いてぎゅうぎゅうフレデリクを両腕で抱きしめるミシェルの背中をなでる。
「この街は治安がいいと聞いていたから安心していたんだが、やはりこういう酒場があるようなところはどこも同じだな。怖い思いをさせて悪かった」
「ぐすっ……兄様のせいじゃない。僕が大きく手を振ったりしたから。ごめんなさい」
「ああ言う奴らはなんにでも言いがかりをつけてくる。お前の可愛さに惹かれたんだろうが……殺っておけばよかったな」
「え?」
「さて。宿に帰らないとな。危ないからこうして歩こう」
そういうとフレデリクは先ほどまではカバンに入れていた剣を腰に差しなおし、左手をミシェルの腰に回してぴったりと体をくっつけた。
「ええ? 兄様、近くない?」
「さ、帰るぞ。お前も僕の腰に手を回した方が歩きやすいぞ」
確かに自分の腕がフレデリクに当たり、邪魔になっている。言われた通りフレデリクの腰に腕を回すと歩きやすくなった。
「あ、本当だ」
「そうだろう? また危ないことに巻き込まれたら大変だからこちらにおいで」
フレデリクは感心するミシェルの体をグイっと引き寄せてさらに密着させるのだった。
亡くなった人物には直接会ったことはなかったがとても人望があったようで、その参列者の多さに二人は驚いた。
それゆえに、その屋敷に全員が泊まることはできず、若いミシェルとフレデリクには申し訳ないがと宿を用意されたのだった。
夕食はぜひ一緒にと言ってもらえたが、他に知る者もいなかったため二人は丁寧に辞退した。
この街はワインとチーズが美味しいと聞いていたフレデリクは宿屋の主人に教えてもらった店へと向かった。
ミシェルは飲酒してもよい年齢になっていたがこれまであまり飲んだことはない。過保護な両親がお前には危険だと飲ませなかったためだ。
「ここのワインは有名だしせっかくだから少し味わうだけでもどうだ?」
「う、うん」
ミシェルはグラスに入った冷えたワインを手に取り、香りを吸い込んだ。
「う~ん、よくわからないや」
そういいながら少し口に含んだ。
「おいしい!すっきりしてて甘さ控えめのジュースみたい」
「飲みやすいものを選んでもらったからな」
飲みやすいと言ってもワインはワイン。
グラス一杯で真っ赤になったミシェルはふわふわとした気分で、おいしい料理を食べた。
「……そろそろ宿へ戻ろうか」
「僕もう少しここにいたい」
初めてのワインが気に入ったのか、こういう店の雰囲気が気にいったのかミシェルは嫌々とかぶりを振る。
フレデリクはワインに頬を染め、とろんとした無防備な表情と可愛らしい色気を振りまくミシェルを店の客たちがちらちらとみているのに気が付いていた。
「どうしてもなら、部屋で飲もう」
そういってふわふわと体を揺らしているミシェルを連れて店を出た。
フレデリクは少し酔っている様子のミシェルの手を取った。
「えへへ。兄様と最近よく手をつなぐね」
そういわれて、昔よく手をつないで庭を散歩したことを思い出す。
フレデリクが養子に来た時、生真面目な性格からみんなから一歩引いたような生活をしていた。そんなフレデリクにミシェルは散歩に誘ったり、遊びに誘ったりと随分とな距離を縮めてくれた。
そのおかげでフレデリクはラフォン家にすぐ溶け込むことができたのだ。
「そうだな」
お酒の力も手伝って、いつもよりほんの少し気持ちが上を向いていたミシェルはフレデリクとつないだ手をぶんぶんと振りながら通りを歩いた。
「って! おい、気をつけろ!」
この通りはお酒を提供する店が多く、仕事終わりの人々でどんどんにぎわってきていた。大きく振ったミシェルの手が他の通行人に当たってしまったのだ。
「あ、ごめんなさい」
ミシェルがすぐさま謝ると、男はニヤニヤを笑い出した。
「ああ、かまわねえよ。こんな美人とぶつかるなんてついてるぜ。ほら、お近づきの印に一杯どうだ?」
「いえ、今から帰るところですから。大変迷惑をおかけしました」
ミシェルが何か答えるまでにフレデリクが先に返事する。
「兄ちゃんには言ってねえ。この子を置いて先にかえりやがれ」
男たちは上機嫌だが、下品な笑い声をあげる。
そして一人の男がミシェルの腕をつかもうと手を伸ばしてきた。
「に、兄様……」
一気にふわふわした気分が吹き飛んだミシェルは怖さのあまり立ちすくむ。
これまでの優しげな顔とは打って変わって厳しい表情をしたフレデリクはミシェルをかばうように前に出た。その全身からにじみ出る威圧感と彼らを睥睨する視線の強さ、そしていつの間にやら右手には剣が構えられていた。
「こっちが下手に出ている間に帰らないと命はないぞ」
「なんだとおぉ!」
三人の男がいきり立つ。
「こんな貴族の坊ちゃんに何ができるってんだ!」
そういうと一人の男はフレデリクにこぶしを振り上げて向かってきた。
殴りかかろうとする男をさっとよけ、後ろに回ったかと思うと腕を後ろ手に捻り上げ短剣を男ののど元に突き付ける。
だが仲間の男たちが、その男を気にするそぶりもなく短剣を振り上げて襲ってきた。フレデリクは押さえていた男の首の付け根を柄の後ろで思いきり叩き、意識を奪うと他の二人の剣をはじき、思い切り腹をけりつけ吹っ飛ばした。
「さっさと引け!」
フレデリクの一喝に男たちは悔しそうな顔をしながら逃げていった。
「ふ~っ、大丈夫か?」
「に、兄様」
震える声で、震える体でフレデリクに抱き着いた。
「大丈夫だ、もう大丈夫だよ」
ヒックヒックと泣いてぎゅうぎゅうフレデリクを両腕で抱きしめるミシェルの背中をなでる。
「この街は治安がいいと聞いていたから安心していたんだが、やはりこういう酒場があるようなところはどこも同じだな。怖い思いをさせて悪かった」
「ぐすっ……兄様のせいじゃない。僕が大きく手を振ったりしたから。ごめんなさい」
「ああ言う奴らはなんにでも言いがかりをつけてくる。お前の可愛さに惹かれたんだろうが……殺っておけばよかったな」
「え?」
「さて。宿に帰らないとな。危ないからこうして歩こう」
そういうとフレデリクは先ほどまではカバンに入れていた剣を腰に差しなおし、左手をミシェルの腰に回してぴったりと体をくっつけた。
「ええ? 兄様、近くない?」
「さ、帰るぞ。お前も僕の腰に手を回した方が歩きやすいぞ」
確かに自分の腕がフレデリクに当たり、邪魔になっている。言われた通りフレデリクの腰に腕を回すと歩きやすくなった。
「あ、本当だ」
「そうだろう? また危ないことに巻き込まれたら大変だからこちらにおいで」
フレデリクは感心するミシェルの体をグイっと引き寄せてさらに密着させるのだった。
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