婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん

文字の大きさ
上 下
14 / 27

顛末

しおりを挟む
 今後の方針が決まると、レオンは王都に戻った。

 扉の前で大きく一度深呼吸をする。
 そして扉を開けると「お父さん」とマリユスが駆け寄ってきた。
 「ただいま」
 そのあどけない顔にレオンの胸が痛んだ。この罪のない子供まで傷つけることになる。
 自分が中途半端に手を差し伸べたせいで、余計に傷つくだろう。「お父さん」と呼ばれていながら、守るどころか彼から母親を奪うことになる。謝罪の気持ちと後ろめたさで一杯だった。
 加えて、これからの彼の行く末を考えると不憫さと同情を禁じ得なかった。

「今からお母さんと大事な話をするから二階で待っててくれるか?」
レオンは微笑んでマリユスの頭をなでた。
「は~い」
 マリユスを見送っていると、ローズが笑顔でレオンを迎えた。
「長旅お疲れ様でした。婚約者の方とはやり直すことができましたか」
とお茶を入れながら白々しいことを聞いてきた。
「お二方の中がこじれたのは私も申し訳なく思っています。この責任は取りますから」
「責任だと? お前は魔法使いか何かか?」
 殊勝な様子を見せてしおらしくいうローズに、苛立ったようにレオンは声を荒げた。
「何を言ってるんですか?」
 突然のレオンの変貌にローズは驚いたように持っていたお茶のポットを揺らす。

「お前は殺した人間を生き返らせることができるのかと聞いている」
「な、何のことですか」
 何のことかわからないというようにロザンナはお茶を入れる作業を続けるが、レオンの低い声にその手は震えている。
「お前が殺したリアン・テリエ殿の話だ」
 ローズの顔はこわばり、今度はティーカップをガチャリと置いた。
「そんな人知りません!」
 ローズがそう叫んだ時、玄関の扉が開いてリシャールが入ってきた。
「ロザンナ、久しぶりだな」
「リ、リシャール様⁈ どうして?」
 驚愕し、思わずリシャールの名を呼んだローズは自白したも同然だった。

「やはり同一人物だったようだな。お前を本当はこの手で……」
 リシャールは憎々し気にローズをにらみつけたが扉の方に向かって
「間違いありません、お願いします」
 と言って騎士を招き入れた。
 所属は違うがレオンの先輩にあたる騎士達だ。レオンはそっと頭を下げた。
 二人の騎士は軽く頷くと、慣れた動作でローズを拘束した。

「ちょっとどういう事⁈」
「リアン殿殺害及び、貴族に対する詐欺行為、貴族同士の婚姻を潰した罪で貴様を拘束する。正式な裁判を経て処分が下される」
「放しなさいよ! そんな言いがかりよ! 証拠なんて何もないわ!」
「詐欺に関しては私とレオン殿が証言する。殺人に関してはこれからだがお前の体に尋ねてくださるだろう。だから姿を消したのだろう?」
 リシャールが険しい顔でローズを見る。
「何かの間違いよ! 私には子供がいるの! あの子が可哀そうだとは思わないの⁈」
 母親の叫び声と男たちの大声でマリユスが二階から降りてきてしまった。
「あれ? お母さんどうしたの? この人たち誰?」
 するとローズは拘束された姿のまま、ぽろぽろ泣いて子供に縋り始めた。
「この人たち、お母さんを捕まえに来たの。お母さんは何もしていないのに。あなたと引き離しに来たのよ」
「やだっ! お母さんを放せ!」
 子供はぽかぽかと騎士をたたくが何の効果もない。
 レオンは罪悪感を覚えながら、その子を抱き上げた。
「お父さん! お母さんを助けてあげて! ねえ!」
「……お母さんは少しお話をしに行かなきゃならないんだ。お母さんが本当のことを話したら会えるようになるからな。それまで少しの間我慢だ」
 それは刑が確定したら面会ができるというだけの話。
 もうこの子が母親のもとで暮らすことはできず、今後は孤児院に行くしかないのだ。
 「その子もこちらで預かろう」
 そう先輩騎士が言ってくれたが、レオンは
「いえ、この子は私が責任をもって連れていきます。ありがとうございます」
 と断った。

 ギャーギャーと泣き喚くローズが騎士たちに連れていかれるのを家の外で見守っていたリアンはフレデリクに連れられてレオンの家に入った。
「リアン……」
「リシャ様。よく堪えてくださいました。ありがとう。もうこれで本当に思い残すことはない。幸せになって……」
 ミシェルはフレデリクが止める間もなく、リシャールに抱き着くとその頬にキスをした。そしてリシャールの目を見つめると、涙を落とし
「必ず幸せになって。僕は……もう行かなきゃいけないみたい。あちらの世界で待っています」
 そう告げると、急に全身の力が抜けたように崩れ落ちた。
「リアン!」
 倒れる前にリシャールが抱き留め、それをフレデリクが受け取る。
「ミシェル、大丈夫か⁈」
 フレデリクが慌てた様子でミシェルをソファーに寝かせ、衣服を緩めてやる。
 レオンは泣いているマリユスを抱いたままその様子を見ているしかなかった。

 
 フレデリクが呼びかけ続けているとミシェルの目が開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...