12 / 27
参集
しおりを挟む
ある日、レオンは一通の手紙を受け取った。
フレデリクからの呼び出し状だった。
休暇を取り、急いで戻るとそこにはフレデリクとミシェル、そして知らない男が待っていた。
「両親には屋敷を離れてもらっている。ここで見聞きしたことは他言無用だ。守れるか」
「わかりました」
レオンはミシェルを見つめ、何度も話しかけたそうにしたがミシェルはレオンに関心がなく、ひたすら見知らぬ男のほうを見つめていた。
皆がそろったところでその男は自己紹介をした。
「リシャール・シモンです。今回は思ってもみない手紙をいただき、調査させる間もなく飛んできました」
「突然ぶしつけな手紙を差し上げて申し訳ありません。しかしまさか直々にシモン様が来られるとは思っておりませんでした」
「リアンの事ですから」
それを聞いてミシェルがびくりと体を震わせる。
そんなミシェルの背中をフレデリクが優しくなだめるように撫でるのを見てレオンの胸は激しく痛んだ。
「それで?手紙の話は本当ですか?」
「それを確かめるためにレオンを呼びました。この男が今、その女と暮らしているはずです」
「レオン殿、あなたの妻の話をお聞きしたい」
「妻などではありません! 一体どういうことですか?! これはなんですか?」
レオンはここに呼ばれたわけがわからず、しかももう疫病神でしかないローズのことミシェルの前で妻などと呼ばれ苛立ちを見せた。
フレデリクは冷たい目でレオンを見ながら言った。
「お前が一緒に暮らしてる女に殺人の容疑がかかっている」
「え? ……殺人?」
「……私の大切な婚約者が殺されたのかもしれないのです。愚かな私のせいで……リアンを死なせてしまいました。」
リシャールと名乗ったいい年をした男が、ハラハラと涙を落とす。
ミシェルもそれを見てこらえきれずに泣き出した。
レオンは戸惑いながら
「どういうことですか?」
と聞いた。
リシャールは数年前の事を話した。
レオンは戦慄した。同じような経緯でローズを招き入れることになり、ミシェルを失った。
「ではあの女は各地でそうやって……騙してきたというのか!」
「まだ、そうと決まったわけではありません。あの時、あの女——ロザンナと名乗っていましたがリアンが亡くなってすぐ姿を消したため疑いがかかりました。でも証拠も目撃者もいなかった。本人を問い詰める前に姿を消したのです。でも私はきっとあの女が何かしたのではないかと……。今回、手紙をいただき同一人物かどうかを確かめたく私がやってきました。」
「もし……そうだとわかったらどうするつもりですか。」
「我が領地へ連れて帰りますよ。彼の両親も兄弟もみんな……憎しみを忘れてはいませんから。騎士団に突き出す気はありません」
リシャールの目は憎しみを宿していた。
「あ……あの……リシャール様。」
ミシェルが震える声で話し出した。
「はい?」
「……どうかおやめください。自らの手で復讐などしないで下さい。彼女は法の下で裁きを受けさせてください」
「なぜですか? あなたも被害者でしょう? 婚約者を奪われたのでしょう?! 私はこの手であの女を八つ裂きにすることだけを支えに生きてきたんだ!」
「そんなの駄目です! あなたの手を汚すなどと……それで復讐を終えたらどうするつもりですか? 何も残らないではありませんか! あなたには幸せになる権利がある!」
「君に何がわかる!」
リシャールは机をたたく勢いで怒りを顕わにする。
「わかります!! 置いて行ってしまってごめんなさい! あなたを一人にしてごめんなさい!あなたを信じなくてごめんなさい!」
ミシェルは止まらない涙をそのままに、リシャールに訴えかける。
「君は……何を言ってるんだ」
「リシャ様……」
涙にくれた顔でミシェルの口から思わずこぼれた言葉にリシャールは全身をこわばらせた。
「!!」
リシャールは声を失い、泣いているミシェルを見つめる。
自分の事をリシャと呼ぶのは彼だけ。
「まさかリアン……そんな馬鹿な……」
「リシャ様……リアンです。あなたを信じなかった愚かな婚約者です……ごめんなさい」
「本当に?リアン……リアン!」
リシャールはミシェルを抱きしめようとする。
が、フレデリクがとどめる。
「お気持ちはわかりますが、彼の身体は私の弟です」
「あ……ああ、そうでした……しかし……本当に?」
リシャールは猜疑とショックで混乱している。
レオンの方も何が何だかわからず状況を必死で理解しようとしているようだった。
リシャールは少し話をするだけでミシェルがリアンと認めざるを得なかった。リアンと自分との思い出を正確に話すことのできる以上、リアンしかありえなかったからだ。
「ああ、リアン……もう一度会えてよかった。私はずっと謝りたかった。最後に君を傷つけたまま死なせてしまったこと。本当にすまない。もう一度会いたいとずっとずっと神に祈っていた」
「リシャ様……僕があの時あなたを信じて逃げなければ。きちんと話をすればあんなことにならなかった。僕こそごめんなさい。あなたの心を傷つけてごめんなさい」
二人はようやくあの日の誤解を解き、二度と伝えることができないと思っていた後悔と謝罪を伝えることができたのだった。
フレデリクからの呼び出し状だった。
休暇を取り、急いで戻るとそこにはフレデリクとミシェル、そして知らない男が待っていた。
「両親には屋敷を離れてもらっている。ここで見聞きしたことは他言無用だ。守れるか」
「わかりました」
レオンはミシェルを見つめ、何度も話しかけたそうにしたがミシェルはレオンに関心がなく、ひたすら見知らぬ男のほうを見つめていた。
皆がそろったところでその男は自己紹介をした。
「リシャール・シモンです。今回は思ってもみない手紙をいただき、調査させる間もなく飛んできました」
「突然ぶしつけな手紙を差し上げて申し訳ありません。しかしまさか直々にシモン様が来られるとは思っておりませんでした」
「リアンの事ですから」
それを聞いてミシェルがびくりと体を震わせる。
そんなミシェルの背中をフレデリクが優しくなだめるように撫でるのを見てレオンの胸は激しく痛んだ。
「それで?手紙の話は本当ですか?」
「それを確かめるためにレオンを呼びました。この男が今、その女と暮らしているはずです」
「レオン殿、あなたの妻の話をお聞きしたい」
「妻などではありません! 一体どういうことですか?! これはなんですか?」
レオンはここに呼ばれたわけがわからず、しかももう疫病神でしかないローズのことミシェルの前で妻などと呼ばれ苛立ちを見せた。
フレデリクは冷たい目でレオンを見ながら言った。
「お前が一緒に暮らしてる女に殺人の容疑がかかっている」
「え? ……殺人?」
「……私の大切な婚約者が殺されたのかもしれないのです。愚かな私のせいで……リアンを死なせてしまいました。」
リシャールと名乗ったいい年をした男が、ハラハラと涙を落とす。
ミシェルもそれを見てこらえきれずに泣き出した。
レオンは戸惑いながら
「どういうことですか?」
と聞いた。
リシャールは数年前の事を話した。
レオンは戦慄した。同じような経緯でローズを招き入れることになり、ミシェルを失った。
「ではあの女は各地でそうやって……騙してきたというのか!」
「まだ、そうと決まったわけではありません。あの時、あの女——ロザンナと名乗っていましたがリアンが亡くなってすぐ姿を消したため疑いがかかりました。でも証拠も目撃者もいなかった。本人を問い詰める前に姿を消したのです。でも私はきっとあの女が何かしたのではないかと……。今回、手紙をいただき同一人物かどうかを確かめたく私がやってきました。」
「もし……そうだとわかったらどうするつもりですか。」
「我が領地へ連れて帰りますよ。彼の両親も兄弟もみんな……憎しみを忘れてはいませんから。騎士団に突き出す気はありません」
リシャールの目は憎しみを宿していた。
「あ……あの……リシャール様。」
ミシェルが震える声で話し出した。
「はい?」
「……どうかおやめください。自らの手で復讐などしないで下さい。彼女は法の下で裁きを受けさせてください」
「なぜですか? あなたも被害者でしょう? 婚約者を奪われたのでしょう?! 私はこの手であの女を八つ裂きにすることだけを支えに生きてきたんだ!」
「そんなの駄目です! あなたの手を汚すなどと……それで復讐を終えたらどうするつもりですか? 何も残らないではありませんか! あなたには幸せになる権利がある!」
「君に何がわかる!」
リシャールは机をたたく勢いで怒りを顕わにする。
「わかります!! 置いて行ってしまってごめんなさい! あなたを一人にしてごめんなさい!あなたを信じなくてごめんなさい!」
ミシェルは止まらない涙をそのままに、リシャールに訴えかける。
「君は……何を言ってるんだ」
「リシャ様……」
涙にくれた顔でミシェルの口から思わずこぼれた言葉にリシャールは全身をこわばらせた。
「!!」
リシャールは声を失い、泣いているミシェルを見つめる。
自分の事をリシャと呼ぶのは彼だけ。
「まさかリアン……そんな馬鹿な……」
「リシャ様……リアンです。あなたを信じなかった愚かな婚約者です……ごめんなさい」
「本当に?リアン……リアン!」
リシャールはミシェルを抱きしめようとする。
が、フレデリクがとどめる。
「お気持ちはわかりますが、彼の身体は私の弟です」
「あ……ああ、そうでした……しかし……本当に?」
リシャールは猜疑とショックで混乱している。
レオンの方も何が何だかわからず状況を必死で理解しようとしているようだった。
リシャールは少し話をするだけでミシェルがリアンと認めざるを得なかった。リアンと自分との思い出を正確に話すことのできる以上、リアンしかありえなかったからだ。
「ああ、リアン……もう一度会えてよかった。私はずっと謝りたかった。最後に君を傷つけたまま死なせてしまったこと。本当にすまない。もう一度会いたいとずっとずっと神に祈っていた」
「リシャ様……僕があの時あなたを信じて逃げなければ。きちんと話をすればあんなことにならなかった。僕こそごめんなさい。あなたの心を傷つけてごめんなさい」
二人はようやくあの日の誤解を解き、二度と伝えることができないと思っていた後悔と謝罪を伝えることができたのだった。
1,567
お気に入りに追加
1,802
あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる