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遭遇
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フレデリクは少しでも元気つけようとミシェルを行きつけのカフェに連れてきた。
ミシェルが大好きだったお茶とロールケーキを出してくれるお店。記憶がなくとも、好きなものに触れることで心が少しでも癒されてくれないか思う。
「お兄様、とっても美味しかったです」
「そうか、よかった。帰りにクッキーを沢山買ってシモン領へもっていこうか」
そういって、少し多めに焼き菓子を買って店を出た。
店を出てすぐにとミシェルを呼ぶ声がした。
「ミシェル!!」
フレデリクは眉を顰め、声のする方を見た。
「ああ、会いたかった! 本当に済まない! 頼む! 話を……一度でいいから聞いてくれないか!」
レオンが必死の形相で懇願した。
ミシェルはきょとんとした顔でレオンを見返した。代わりにフレデリクがレオンをにらみつける。
「あなたとはもう無関係ですよ。さ、ミシェル行こう」
「え? でも……」
「いいんだよ」
フレデリクがミシェルの肩を抱えるようにしてそのまま進もうとしたとき、レオンは叫んだ。
「ミシェル聞いてくれ。彼女たちは暴力を振るう男から逃げていたんだ。それをかくまっていただけなんだよ。誓ってそれ以上の関係ではないんだ、だから……」
フレデリクは珍しくちっと舌打ちをすると
「都合のいいことを言うな。もうお前たちの婚約は解消されている、これ以上付きまとわれるのは迷惑だ」
とレオンの言葉を遮った。
「ミシェル、こんな男の言葉を聞く必要はない」
そしてミシェルを促そうとしたがミシェルは足を止めてレオンを凝視した。
「……暴力を振るう男?」
「ああ、そうなんだ! その男が付きまとっていたから夫婦のふりをしてあきらめさせようとしただけだ。頼む、ミシェル!」
「行くぞ、ミシェル!」
だがミシェルはかぶりを振った。
「お兄さま……少しこの方のお話をききたい」
「ミシェル!」
レオンは救われたように顔を輝かせた。
反対にフレデリクは顔をゆがめる。
「もう少し詳しく教えてください」
フレデリクは必死であの親子を助けた時の事を説明した。
家事をしてくれることに甘えていた部分もあるが、匿う礼に家事をしてもらう契約のようなものだったと弁明した。
虫のいい言い分にフレデリクは険しい顔をしたままだったが、ミシェルの方はどんどん顔色が悪くなっていった。
「大丈夫か? ミシェル?」
「は、はい。あの……その女性って……美人でしたか? 顔の色とか何か特徴は……」
「本当にそんなつもりじゃないから。彼女が美しいとかそんなことはなくて……」
「いいから特徴を教えてください!」
ミシェルは強い言葉でレオンに詰め寄った。
しかし言葉とは裏腹にその手は震えていた。
「ああ……。年は二十七歳で髪の色は赤みがかったブラウンだ。右目の下にほくろがあったが……名はローズという」
「ミシェル、そんな女のことを聞く必要はないだろう」
しかしミシェルは身を震わせると、立っていられなくてしゃがみこんでしまった。
「ミシェル⁈」
「う、ううっ」
身を震わせて涙を流し、うまく呼吸ができない様子のミシェルを抱き上げるとフレデリクは抱き上げて馬車を呼んだ。
「ミシェル! 本当にすまなかった! また話を……」
「二度とミシェルの前に姿を現すな!」
フレデリクは馬車の中へミシェルを運んだ。
「ミシェル……。僕が必ず幸せにするから。もうあんな男のことなど忘れてしまえ」
過呼吸を起して意識を失ったミシェル——血のつながらない大切な弟をフレデリクは抱きしめた。
ミシェルが大好きだったお茶とロールケーキを出してくれるお店。記憶がなくとも、好きなものに触れることで心が少しでも癒されてくれないか思う。
「お兄様、とっても美味しかったです」
「そうか、よかった。帰りにクッキーを沢山買ってシモン領へもっていこうか」
そういって、少し多めに焼き菓子を買って店を出た。
店を出てすぐにとミシェルを呼ぶ声がした。
「ミシェル!!」
フレデリクは眉を顰め、声のする方を見た。
「ああ、会いたかった! 本当に済まない! 頼む! 話を……一度でいいから聞いてくれないか!」
レオンが必死の形相で懇願した。
ミシェルはきょとんとした顔でレオンを見返した。代わりにフレデリクがレオンをにらみつける。
「あなたとはもう無関係ですよ。さ、ミシェル行こう」
「え? でも……」
「いいんだよ」
フレデリクがミシェルの肩を抱えるようにしてそのまま進もうとしたとき、レオンは叫んだ。
「ミシェル聞いてくれ。彼女たちは暴力を振るう男から逃げていたんだ。それをかくまっていただけなんだよ。誓ってそれ以上の関係ではないんだ、だから……」
フレデリクは珍しくちっと舌打ちをすると
「都合のいいことを言うな。もうお前たちの婚約は解消されている、これ以上付きまとわれるのは迷惑だ」
とレオンの言葉を遮った。
「ミシェル、こんな男の言葉を聞く必要はない」
そしてミシェルを促そうとしたがミシェルは足を止めてレオンを凝視した。
「……暴力を振るう男?」
「ああ、そうなんだ! その男が付きまとっていたから夫婦のふりをしてあきらめさせようとしただけだ。頼む、ミシェル!」
「行くぞ、ミシェル!」
だがミシェルはかぶりを振った。
「お兄さま……少しこの方のお話をききたい」
「ミシェル!」
レオンは救われたように顔を輝かせた。
反対にフレデリクは顔をゆがめる。
「もう少し詳しく教えてください」
フレデリクは必死であの親子を助けた時の事を説明した。
家事をしてくれることに甘えていた部分もあるが、匿う礼に家事をしてもらう契約のようなものだったと弁明した。
虫のいい言い分にフレデリクは険しい顔をしたままだったが、ミシェルの方はどんどん顔色が悪くなっていった。
「大丈夫か? ミシェル?」
「は、はい。あの……その女性って……美人でしたか? 顔の色とか何か特徴は……」
「本当にそんなつもりじゃないから。彼女が美しいとかそんなことはなくて……」
「いいから特徴を教えてください!」
ミシェルは強い言葉でレオンに詰め寄った。
しかし言葉とは裏腹にその手は震えていた。
「ああ……。年は二十七歳で髪の色は赤みがかったブラウンだ。右目の下にほくろがあったが……名はローズという」
「ミシェル、そんな女のことを聞く必要はないだろう」
しかしミシェルは身を震わせると、立っていられなくてしゃがみこんでしまった。
「ミシェル⁈」
「う、ううっ」
身を震わせて涙を流し、うまく呼吸ができない様子のミシェルを抱き上げるとフレデリクは抱き上げて馬車を呼んだ。
「ミシェル! 本当にすまなかった! また話を……」
「二度とミシェルの前に姿を現すな!」
フレデリクは馬車の中へミシェルを運んだ。
「ミシェル……。僕が必ず幸せにするから。もうあんな男のことなど忘れてしまえ」
過呼吸を起して意識を失ったミシェル——血のつながらない大切な弟をフレデリクは抱きしめた。
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