婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん

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捜索

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 結局、唯一鍵が開いていたあの窓から外に出たという結論に至り、フレデリクは衛兵詰め所にミシェルの捜索願を届け出た。
 しかし届け出は受理されたものの、小さい子供ではなく、失踪した理由があるだけに家出であろうと即時捜索はしてもらえなかった。自死の可能性があると訴えても、本人がその気である限り捜索して発見するのは難しく、それは個人で心当たりを探してほしいと言われるだけだった。
 フレデリクは付近を探し回り、ミシェルを見かけた者はいないかとその風体を告げて回ったが見かけた者もいなかった。

 ほぼ一日探し回り宿に戻ってきたフレデリクを朝と同じ受付が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。その様子ですと弟さんはまだ……」
「はい。あの、一週間宿泊延長したいのですが大丈夫でしょうか」
「もちろんです。我々従業員もできるだけ協力いたしますので、弟さんの特徴を教えていただければ」
と、協力を申し出てくれた。フレデリクは深く頭を下げて部屋に戻った。

 フレデリクはベッドに深くもたれこみ大きなため息をつく。
 すでに一日が経過している。今頃ミシェルはどうしているのだろう。
 生きていて欲しいと心から願う。
 ほんの少しだけ休憩し、水だけ飲むとフレデリクはまた捜索に行こうと玄関に向かった。 
「あ、フレデリクさん。これからまた捜索に? 少しでも食事をとってください。このままだとあなたがまいってしまう」
「ああ、ありがとうございます。でもミシェルが何も食べていないかもと思うと……」
「……。お気持ちはわかります。もう少しだけ待っていただけませんか? 簡単なパンに野菜や肉を挟んだ簡単な食事を包んできます。それをお持ちください。そうしないと探す体力もなくなってしまいます。それにもし弟さんが見つかったら分けてあげてください」
 受付の男とフレデリクが話していると玄関から一人の男が飛び込んできた。

「お義兄さん! ミシェルが……ミシェルが行方不明って本当ですか⁈」
 レオンが髪を乱し、額から汗を流してフレデリクに詰め寄った。
 それを見たフレデリクは眉を顰め、こぶしを握りこみ、そしてそのままレオンの顔に打ち付ける。
「お客さん!」
 悲鳴を上げたのは受付の男だった。
 フレデリクに殴りつけられバランスを崩しながらも、少し後ろにふらついただけで何とか倒れずに踏みとどまる。
「貴様のことは絶対許さない! 貴様には関係ない、とっとと帰れ!」
 フレデリクに怒鳴られたレオンは唇をかみながら声を震わせて言った。
「このあたりで行方不明者を探していると耳にしました。……ミシェルという名で特徴もミシェルそのもので……もしかしてと……お義兄さん、本当ですか?」
「貴様からお義兄さんと言われる筋合いはない!」
「待ってください! 昨日のことは謝ります! ですが誤解なんです!」
「どうでもいい。今は忙しい、貴様の相手などしてられない」
 フレデリクはレオンをよけるようにして、荒々しく出ていった。
「お客さん。他のお客さんに迷惑になりますから」
 受付の男はレオンを穏やかに追い出そうとする。
「……申し訳ない。でも少し教えて欲しい」
 レオンは受付の男から行方不明者がやはりミシェルだということを聞かされる。
 レオンは騒がせたことを詫びると、自分も探しますと言って宿を出た。


 その夜遅く、血相を変えたフレデリクが宿に戻ってきた。
「医者を! 医者を呼んでください!」
 フレデリクの腕の中には意識を失ったミシェルが抱きかかえられていた。
 夜にも拘らず医者が駆けつけて診察をしてくれた。
 幸い、大きなけがはなかったが意識は戻らず、安静にするように指示がなされた。朝にもう一度診察すると言い、医者は戻っていった。
 宿の受付が桶に水とタオルを運んできてくれる。他にはフレデリクのために飲み物と軽食も運んできてくれた。
「何から何までお世話になり、申し訳ありません」
「とんでもない。うちの宿で起こったことですし、うちの不始末の可能性もありますから」
「いいえ。本当に感謝しかありません」
「弟さんはどちらに?」
「それが、街道をずっと歩き続けていたそうです。途中倒れて、保護されていたと。衛兵詰め所に情報を聞きに行ったときにちょうど運ばれてきたんです。本当に良かった」
 フレデリクは眠るミシェルの手をそっと握った。
「まあ、よかったですよ。衛兵の方からも広く通達されるでしょうが、私も彼が見つかったことを知らせてきますよ」
「重ね重ね申し訳ありませんでした。このお礼は必ずさせていただきますから」
「いいんですよ、それではゆっくりと弟さんを見てあげてください」
「はい。あのレオンという男が来ても絶対に通さないで欲しいのです。この子が行方不明になった原因ですから」
「わかりました」
 とりあえず、ほっとしたもののフレデリクは一睡もせずミシェルを見守った。

 翌朝、ミシェルは目を覚ました。
「ミシェル!よかった……本当に良かった……」
 フレデリクはミシェルの手を握り涙ぐんだ。
「あ……」
 ミシェルはフレデリクを見るとおびえたように身をすくませた。
「大丈夫だ、何があったのか聞きたいがこうしてまたお前に会えただけで十分だ。ゆっくり休んでいいからな」
 フレデリクは握りこんだミシェルの手にキスをした。
「あの…………」
「でもな、ミシェル。命を粗末にするような事だけはしないと約束してくれ」
 真剣な顔でフレデリクはミシェルにいった。
「……」
 するとミシェルはぽろぽろと涙を落とし始めた。
「ミシェル大丈夫か? 苦しいのか? 朝になったら医者が来てくれると言っていたから……」
 ミシェルは大きくかぶりを振ったが、それ以上は何も言わず布団の中に潜り込んでしまった。

 医者が来て、意識の戻ったミシェルを見てくれたがやはり体には問題がなかった。
 ほっとしたフレデリクは、早々にその宿を後にした。ミシェルが発見されたことはこれから広まるだろう。レオンがまたこの宿に来る前に出立をしたかった。
 フレデリクは宿に何度も礼を言い、貸し切り馬車を雇うと領地へ出発した。

 馬車の中でもほとんどミシェルは声を出さず、フレデリクもレオンのことがショックなのだろうとそっとしておいた。本当は行方不明のことをもっと問い詰めたかったが、もし死ぬつもりであったのならあまり追い詰めない方がいいとも考えたのだ。
 何とも言えない空気の中、馬車は二人を乗せて家に向かって進み続けた。




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