つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 振り返り見るとそこに美しい馬車が到着した。

「この馬車は…」
「もう嗅ぎ付けられましたか…」
「チッ‥‥」

 ジークヴァルトが舌打ちする。
 そんな中、優雅に馬車から降りてきたのは見知った顔だった。

「オーレリー…」
「お久しぶりにございます、聖女リディア様」

 恭しく胸に手を当て首を垂れる。

「お迎えに上がりました、我が聖女リディア様」
「リディア嬢は城が預かる、下がれオーレリー教皇」

 オーレリーの前に立ちふさがるように前に出るジークヴァルト。

「何を仰います、聖女は教会の主神にございます、国が主神を奪うなどあってはならない事」
「奪う訳でない、城に預かると言っている」
「教会に主神が居なくて民は何に縋り救いを求めればよいのでしょう?主神までも奪い去り自分の力や利権にしてしまうなど、正に独裁的、民はこれを許すまい、民間となれど民が一番信仰しているのは主神である聖女リディア様にございます」

 ジークヴァルトとオーレリーが睨み合う。
 そんな中リディアが大きなため息を一つつく。

「悪いけど、どっちにもついていくつもりはないわ」

「!」
「お前まだ逃げる気か?」

 驚きリディアに振り返る。
 そんなリディアの前にリオとオズワルドが守り立つ。
 隣りにはイザークが渡すまいと構える。

「あー…」

(私一人で居たかったのだけれど…)

 目の前に立つ皆を見上げる。
 守ると同時に一緒に居る気満々だ。
 彼らと居るとまだ問題が起きる、それが面倒だから出来れば一人がいいのだけれど。

「聖女リディア、あなたは私と共に教会に来るべきです」
「黙れオーレリー、主神なら意思に沿うべきだろう?お前らの主神は嫌がっているではないか」

 またジークヴァルトとオーレリーの口論が始まる。

「聖女リディアは我々が守るわ!民間だけでない、聖女の力は今の国こそ必要としている!」
「ええ、彼女は国の主神である聖女、国として聖女を守る使命がございます、今や教会のモノだけではない、それに民間の教会では荷が重いでしょう」

 サディアスとキャサドラもジークヴァルトの隣に立ち応戦。

「リディア様、ここは一旦城に戻るが得策かと‥‥あなたはもう普通のご令嬢ではございません、伝説の聖女にございます、このままでは…」
「姉さま、命令して!僕姉さまのために何だってするよ?殺そうか?ね、殺そうよ」

 イザークとリオがリディアを見る。

(全く‥‥)

 やれやれとまたため息を零す。
 目の前にいる皆を見渡す。

(まぁ当然よね…)

 この空間を開いてしまった時点で、こうなる事は必然だ。
 聖女の力を彼らは知ってしまったのだ。
 彼らだけでない、全世界が知った。
 力あるモノはその力を欲し、道具として欲し、力ないモノ、己の意思のないモノはそれに追い縋ろうとするものだ。
 それは良い悪いではない。立場で己の望むモノで、そして欲望で人ならば誰しも思うもの。

(私にもそれがある)

 一人でのんびりぐーたら生活したいという欲。

(‥‥れ?)

 ふと、彼らが現れる前まで虚無感に襲われていたことを思い出す。

(そうだ…、私は望んだんだ…)

 無意識下で彼らに会いたいと。
 こういうごだごだが嫌で嫌で堪らないから必死に逃げていたというのに。

「リディア様…、黒魔法を使いこの場を逃げましょう」
「姉さま、命令してよ」

 その言葉に二人をちらりと見る。

(それよりも今の状況何とかしないと…)

 無意識下で望んでしまったのだ。
 ここでまた独りになりたいと望んでもきっと無駄だ。
 無意識に皆と居る事を望んでしまっているのだろうから。
 だとしたらまずは逃げることを考えなくてはならない。
 教会に行こうと城に行こうと自由は無くなるのは同じ。
 だったら、この二人を使って逃げるのがいいのかもしれない。
 元々そのつもりだったし。

「リオ、イザーク、私を――――」
「お言葉ですが荷が重いのはそちらにございます、光の聖女の扱いを知らなければすぐに穢れ、命に関わります」
「!?」

 オーレリーの言葉に思わず振り返る。
 皆もまた動揺しオーレリーを見る。

(命に関わる?)

「どういう事だ?」
「やはりあなた達は光の聖女の事を何もご存じないようですね」
「っ‥‥、命に関わるとはどういう事かと聞いている」
「神の秘め事にございます、陛下であれ教えるわけにはいきません―――っ」

 剣がオーレリーの喉元に向けられる。

「脅しても無駄にございます、私は神に身も心も捧げております、殺されようと神に背かう事は致しません」
「なら他のモノに聞けばいい」
「これは最重要の秘め事、教皇の私のみにしか伝えられておりません、この神力、光の力を暴かれるぐらいなら私は光の聖女のために死を選びます」
「っ……」

 脅しても無駄と判断したジークヴァルトは剣先を降ろす。
 押し黙るジークヴァルトの隣を通り過ぎ歩む先はリディアの元。
 皆もオーレリーを止めることが出来ず突っ立つ。
 そうして美しい髪を地面につけ跪き胸に手を当てる。

「聖女リディア」

 オーレリーの美しい手がリディアに差し出される。

「さぁ参りましょう、こんな汚れた者達の傍に居てはなりません」

 その美しい手とオーレリーの瞳を交互に見る。

(命に関わる…というのは本当なのだろうか?だとしたら逃げても…無駄死に?)

 心の中で首を振る。

(いやいいやいや、閉じ込められて死ぬよりその方がマシだわ、それに私はなんたって主人公!)

 そこであれ?と気づく。

(そういや主人公補正で死なないはず…けど死んだよね?それに…、今はもうエンディング済んでいるはずだわ‥‥)

 てことはこの先の事は全く解らない。
 DEAD ENDだってあり得るのだ。何てったって一度死んじゃったし。

(下手に逃げない方がいい?)

 ふと恐怖心が過る。

(安全な場所で‥‥でも結局それって)




―――― 死んでることと一緒じゃない?




 閉じ込められて聖女の仕事に身を捧げ皆のために自分を押し殺し過ごす毎日。
 本来の主人公は自分を犠牲にしてでも皆が幸せである事、それが望みだったから、それはそれで幸せだったかもしれない。
 だが、自分は違う。
 それをまるっと望んでいない。
 それはさながら生き地獄にしか見えない。
 私からすればそれはただの奴隷だ。

(ここはやはり逃げよう)

 リオに目配せしようとしたその時、リディアの手がギュッと握られた。

「っ?!」

 そのままグイっと引き寄せられオーレリーの唇がリディアの耳元に当たる。

「もう逃しません」
「! っ・―――――」

 リディアの視界が揺れたと思ったらそのままオーレリーに抱きかかえられる。

「貴様!何をした?!」
「少し眠って頂いただけにございます、では私はこれで」
「待てっ」
「させん」

 オズワルドが剣を向けたその先のオーレリーとリディアが消える。

「?!」
「なっ、消えた?!」

 皆が慌てて辺りを見渡す。

「馬車も消えてるわ!」
「チッ、時間魔法かっ」

 ジークヴァルトが舌打ちする。

「やられました…、時間魔法が使えるという情報を得ていたのに…もう追っても無駄でしょう」
「時間魔法って?」
「時間を自由に操れる魔法だ、特殊魔法でこの世界で使える奴は殆どいない、くそっ」



ガッーーーー



 ジークヴァルトが手にしていた剣を地面にぶっ刺す。

「どちらにしろ、命に関わるとあれば手も足も出ません」
「っ‥‥」
「そ…んな‥‥」

 そんな剣の隣でペタンと地面に座り込む男に皆振り返る。

「僕血を‥血を一杯…、姉さまの傍にいちゃいけないの‥‥?姉さまを穢れさせちゃってたの?」

 リオの目から涙がボロボロと零れ落ちる。

「リオ…」
「ハッ、しまった!」
「どうしたのディア?」

 皆がサディアスを見ると同時、ジークヴァルトも気づいたよう眉を顰める。

「やられた‥‥」
「どうしたんです?」
「汚れた者の私達と今までずっと傍におりましたが彼女に何か変化はありましたか?」
「! まさか嘘?」
「だろうな」

 その言葉にリオがバッと顔を上げる。

「てことは…姉さまと一緒に居ても大丈夫‥‥」

 きらきらきら~っとリオの表情が輝きを取り戻す。

「死んだリディアが生きていたという事で『死』という言葉に我々はどうやら敏感になり過ぎていたようです」
「それを解ってて『死』をちらつかせたのだろう、くそっやられたっっ」
「確かにリディアがまた死んじゃうと思ったら怖くて身体が動けなかったわ…」
「そうと気づけば、交渉でリオかオズワルドあたりをリディアに連れて行かせたのに、しくじったな」
「リディア様を留めるわけにはいかないのですか?」
「我々の手の内に納めておきたい所ですが、残念ながら彼女の聖女という存在は我々にとって未知の存在、ナイフで貫かれても死なずにいたことも含め、人とは違う存在なのやもしれません、だとすると彼女がどうやったら死ぬかが解りません」
「解らなくてもとりあえず守ってりゃ何とかならないの?」
「その守り方が解らないでしょう?自分達が大丈夫だと思った事で簡単に死んでしまうかもしれない」
「!」

 サディアスの言葉に息を飲み込む。

「その情報も探らせるのに誰かを付かせたい所だったのだが…仕方ない」
「ええ、折を見て付かせる方向に持っていくよう試みるしかありませんね、ただし、あのオーレリーという男、かなりの曲者…、そう易々と近づかせてはくれないでしょうが…」
「こら待て!」

 会話を他所にリオが走り出そうとするのを急いで止める。

「既にお前の存在は知られている、策は打ってあるだろうから行っても姉にはきっと会えんぞ?」
「どうしたらいい?」
「珍しく素直だな」
「姉さまを助けるためだ」
「一旦、策を練り直すためにも城へ戻りましょう」
「ああ、そうだな」
「って、あれ?…団長?」

 キャサドラがきょろきょろと見渡す。
 皆も見渡すもどこにも姿がない。

「っ、もしや」
「リディアの元に…って、こぉら、待て」
「離せ!!俺もいく!!!」
「無駄だと言っている、時間魔法で既に今頃教会だろう」
「なら教会に行く!」
「だから、あなたの事は対処済みだと言っているのです」
「とにかく、一旦戻るぞ!」






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