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さぁ、はじめようか

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「リディア!お昼に行きましょう」

 フェリシーが嬉しそうにリディアの元にやってくる。

「今日は庭園に行かない?今花が満開なんですって」

 そういうと腕を絡ませ庭園へと連れていかれる。

「す…ごい」
「ね、綺麗でしょ!リディアにも見せてあげたかったの」

 咲き乱れる美しい庭園に感嘆するリディアを嬉しそうに見るフェリシー。

「あそこに東屋が見えるわ、そこでお昼にしましょ」

 確かにこの花を眺めながら昼食をとるのはとてもいい案だと頷く。
 素直に頷くリディアに嬉しそうに顔を明らめるフェリシー。

「さぁ、行きましょう!」

 女の子らしくふわふわとフリルを揺らし歩くフェリシーの後に続く。
 聖女の様に優しく柔らかそうな淡いピンクの髪を靡かせ歩いていた背がピタッと止まる。

「?」

 不思議にフェリシーを見る。
 その背がわなわなと震えだした。

「なんて…事……」

 怒り震える声で呟く。

「オズワルド様!!」

 フェリシーが不意に駆け出す。
 背で見えなかった光景を目の当たりする。
 その光景に目を見開く。
 オズワルドを四つん這いにさせ、足を乗せるレティシアがそこに居た。

(おおおっ、オズ様だわっ!相変わらず素敵過ぎるぅ――っっオズ様に会えるなんて今日は何ていい日♪)

 暢気にそんな事を考えているリディアと一瞬目が合いキッと睨まれる。

(いけない、顔がにやけてしまっていたかしら、でも睨む顔もす・て・き♪)

 ゲス思考全開で魅入る。
 完全に見惚れデレ顔になっているリディアの耳に悲痛な声が響き渡る。

「酷いっ、こんな扱い酷過ぎます!」

 オズワルドに駆け寄るフェリシー。

「これは私の下僕、貴方にどうこう言われる筋合いはなくてよ」

 レティシアが平然と言うと、手に持っていた肉を落とす。

「あら、落としてしまいましたわ、床を汚してはいけませんわね」

 靴を履いたままオズワルドの頭を踏み躙る。

「丁度いいわ、昼食がまだでしょう?食べなさい」
「オズワルド様!ダメです!」

 フェリシーがオズワルドの頭を抱きしめ止める。

「レティシア様、こんなことをして人として恥ずかしくないのですか?!」

 キッと睨みつけるフェリシーを涼し気に流し目で見る。

「あら、私の下僕をどうしようとあなたに言われる筋合いはないと言ったの、もうお忘れかしら?…でもまぁそうまで仰るなら、貴方がこの下僕の代わりにお食べになってもよろしくってよ」
「なっ…」

 扇子を広げ口元を隠し、目だけでニンマリと楽し気に蔑む様に笑う。

「この下僕を庇うのならば、人として代わりに食べる覚悟ぐらいおありなのでしょう?」
「っ…」

 フェリシーがギュッとオズワルドを抱きしめる。

「下がっていろ」
「オズワルド様…」

 その胸元で低温ボイスが響く。

「そう言うわけには参りませんわ!オズワルド様にこのような事… やります!私が食べます!」
「!」

 レティシアの取り巻きや皆がニヤニヤ眺める中、フェリシーも四つん這いになる。
 そしてゆっくりと床に口元を持っていこうとした時、ぐっと大きな手が伸びる。

「やめろ」
「っ!オズワルド様?! …ぁっ」

 オズワルドに引っ張りあげられたと同時、その背が勢い余って近くに立っていたレティシアの執事デルフィーノに当たってしまう。それが不幸にもデルフィーノがよろけた先にイザークが立っていた。

「うわっ」

 デルフィーノがイザークとぶつかりレティシアに準備していたお茶が零れ落ちる。
 辺りが静まり返る。

「まぁ、魔物のしつけもなっていないなんて、安心してお茶も飲めませんわ」
「違います!今のは私がっ」
「お茶を零したのはあなたではなく、その魔物よ」
「イザークは魔物なんかじゃないわ!ちゃんとした人間よ!それに原因は私、私が責任を持って何でもするわ!」
「フェリシー様っっ」

 フェリシーの執事ユーグがフェリシーの前に庇う様に立つ。

「どうか、レティシア様お許しください、フェリシー様は私の主、私が主の代わりに何なりと罰をお与えください」
「ユーグ!貴方のせいではないわ!」
「フェリシー様、私は大丈夫です」
「でも!」
「まぁ、麗しい主従関係だ事…、言い争う必要はございません事よ」

 レティシアの言葉に顔を上げる。

「今問題なのは魔物のしつけですわ、私のように下僕にはしっかりしつけておかなければ怖くて聖女試験にも差し障りますわ、ねぇ」

 取り巻きに目配せする。

「ええ、今まで何も起こさなかったかもしれませんが、いつ暴れ出すかといつも恐恐としていますわ」
「今だってデルフィーノ殿の邪魔を…」
「サディアス様かオーレリー様に提言すべきですわね、しつけがなっていない魔物が近くに居るなんてとても恐ろしゅうございます」
「イザークはそんな人じゃないわ!彼はそこに立っていただけ!何もしてないわっっ、それに魔物扱いしないで!」

 フェリシーが声を上げる。

「現に、今デルフィーノの邪魔をしたではありませんか」
「それは私がっ」
「フェリシー嬢、貴方がどうのこうのではないの、そこの魔物の調教がなっていないという話よ」

 ぴしっとレティシアに言われ言葉を失う。

「ちょ、調教って…彼は人間―――」
「あー、えーと、ちゃんと調教している所を見せればいいのね」
「え…?」

 不意に呑気なリディアの声に皆が「え?」と振り向く。

「そうね、あなたのその魔物もお腹が空いているでしょう?私の下僕のように餌をあげるとこを見せて頂けるかしら」
「そんなっ、ダメよ!」

 フェリシーが慌ててリディア達を見る。

「わ、私のせいよ、私が食べるわ!」
「フェリシー様っそれは私がっ」
「イザーク」

 フェリシーとその執事ユーグを他所に、リディアに呼ばれたイザークはリディアのために椅子を引く。
 その椅子に優雅に座るリディア。
 机に昼食を用意始めるイザーク。

「よろしかったら、私の残りの肉をあげて下さっても構いません事よ?」

 昼食の用意が整った所で面白がるように言うレティシア。
 それを取り巻く者たちがクスクスと笑う。

「そんなもの、必要ありませんわ」
「?」
「リディア…」

 心配そうに見るフェリシーと、睨むレティシア、そして怪訝そうにみるギャラリー。
 皆が注目する中、厳しい口調で命令する。

「適当に誤魔化すなど許しませんわよ?ちゃんと床に落として食べさせなさい」
「全く、これだから素人は」
「は?」

 レティシアが眉間に皺をよせる。

「下僕の扱いもなっていないし色気もない、イケメンのポテンシャルに頼り過ぎよ、それがなかったら見てられないわ」

 リディアの言葉に何を言っているの?という様にレティシアの表情も怪訝に曇る。

「な、なら、あなたの下僕の扱いというのを見せなさい、しつけがなっている所を、こちらが不可とした場合、すぐにでもサディアスかオーレリーに言いつけますわよ」

 ちょっとでも妥協するような所があれば、その魔物執事を処分してやると言う様に睨みつける。
 そんなレティシアを鼻で笑う。
 すると、スープを手にする。

「え…」

 固形のモノを落とすだろうと思っていたリディアの手に液体のスープが入ったカップが傾く。

「!」

 スープがリディアの足を伝い靴へと掛かり滴る。
 その足をイザークに向かって差し出す。

「汚れてしまったわ、舐めなさい」

 皆が息を飲み込む。
 そんな皆の前でイザークが跪く。

「仰せのままに、マイレディ」

 リディアの足を腫物を扱う様に大事に手で包み込む。

「だ、ダメよ!そんなこ―――っっ」

 フェリシーが言葉を失う。
 躊躇もなくリディアの靴を舐め始める。
 それを頬杖付きながら眺め降ろすリディア。
 その瞳は真っすぐイザークを捉え続ける。

「‥‥」

 それは酷く冷酷で非道なはずなのに艶めかしく美しい光景で…
 唖然としてその様を言葉を失い眺め見る。
 そんな皆の前で靴の裏から床までも舐め上げると、リディアの美しい白い足の甲を両手で大事に包み込み愛おしそうに口付けた。そのまま熱に浮かされた紅い瞳で濡れた足に舌を這わせていく。その伝ったスープにその白い美しい脚に一心不乱に舌で舐めあげ舌を伝わせていく。
 その舌先が太ももまで来たところで、イザークの顎を掴む。

「全く卑しいわね、頬にも付けて」

 ペロッと頬に付いたスープを舐めとる。
 熱に浮かされた紅い瞳が大きく揺れる。
 その様に皆の頬が真っ赤に染まる。
 見た目は美しい聖女の姿のリディアと、人形の様に端正な顔立ちのイザークだ。
 覗いてはいけない一枚の艶っぽい絵を見てしまった様に皆の体が高揚する。
 そんな皆の目の前で熱く潤んだ紅い瞳を見つめたままイザークの顎を指先でなぞる様に伝わせ離すと、頬を真っ赤に染めたレティシアに振り返った。

「しつけは行き届いているでしょう?何か問題でもありまして?」

 ぽかんと口を開けていたレティシアがハッと口を閉じる。

「そ、そうね、問題ありませんわ、…何だか白けましたわ、場所を移しましょう」

 まだ頬を赤らめたまま世話しなくレティシアやその取り巻きが去っていく。
 去り際にオズワルドがリディアをチラッと見、何も言わずにレティシアの後に続いた。

「はぁ~やっと行ってくれたわね」
「ええ、さぁ、お茶をどうぞ」

 何事もなかったようにリディアの前にお茶が置かれる。

「ふぅ~~やっぱりイザークのお茶最高」
「ふふ、喜んで頂けて何よりです」
「お腹空いたわ」
「お疲れでしょう、今日は私が」

 イザークがおかずを手に取りリディアの口へと運ぶ。
 そんな呑気な二人を呆然と見つめるフェリシー。

「って、そうじゃないわ」

 呆気に取られていたフェリシーが意識を戻す。

「リディア、イザークになんて事をさせるの!あれでは本当に下僕扱いだわ!」

 怒りにフルフル震える。

「あ‥でも…そうよね、元は私のせいで…ごめんなさい」

 今度はしょぼんとするフェリシー。

「フェリシー様…」

 執事ユーグが心配そうにフェリシーを見る。

「で、でも、やっぱり私のせいだとしても、あれはやり過ぎよ!う、ううん、違うわね、私のためにそこまでしてくれたのよね…」

 もちろん違う、リディアにフェリシーなど眼中にない。
 これ以上問題が大きくなってイザークが消されてはぐーたら生活の夢が潰えてしまう。
 そこで冷酷非道な大芝居を打っただけだ。安定の自己中だ。
 ついでにイザークのお色気シーンを堪能しようとクズ志向がちょびっと働いただけだ。

(それにこれで触発されて違うシチュエーションのオズ様も見れるかもしれないしね…)

 あれだけいいシーンを見せつけてやったのだ、ちょっとは感化されてバリエーションが増えるかもしれない。と、相変わらずの下衆思想のリディアがそこに居た。
 一人で怒って一人で結論付ける彼女を他所にパクパクと昼食を取る。

「ありがとう…そして、ごめんなさい…、私があなたの味方だって守ろうと思っていたのに、私が足手まといな事をして…」

 今度は落ち込むフェリシー。

「でも、でもね、どうしてもオズワルド様の扱いが許せなくて‥‥、今度はリディアに迷惑かけないように頑張って見せるわ!…て、リディア?」

 ご飯も終わり立ち上がるリディアを見る。

「そろそろ昼の授業が始まりますわ、お先に失礼いたしますわね」
「あ!ご飯!」

 慌てるフェリシーを背に、リディアは教室へと向かった。


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