36 / 128
さぁ、はじめようか
35
しおりを挟む
「!」
そこで、ハッと思い出す。
(これは爆発イベント!)
脳裏に蘇る金太郎飴イベント。
この箱が仕掛けられていて割った途端爆発するのだ。
そして好感度の高い攻略男子が主人公を守るイベントだ。
(てことは、リオか、イザークか…それともジーク?サディアスはまだな気がする…)
ジークヴァルト以外は無事に終わるが、ジークヴァルトだけは主人公を守り重症を負うパターンだったと思い出す。
それで重傷を負ったジークヴァルトを甲斐甲斐しく看病し、その傷に心を痛めた主人公が犯人捜しをし出して、読み飛ばしたので覚えてないが、なんやかんやあって犯人を見つけジークヴァルトと主人公の距離が縮る展開になってたはずだ。
ジークヴァルト以外でもこの犯人探しが攻略男子と距離を縮めるためのシナリオだったはず。
(これは‥‥)
―――― チャーンス!?
(ここでサクッと犯人割り出せば、なんやかんやの最中のフラグを立てずしてチェックメイトに近づけるわ)
リディアの口元がニヤリと笑う。
既に犯人は解っている。
(いける、いけるわ!)
「それではリディア嬢」
オーレリーの声掛けに我に返る。
そして水槽を見る。
(待って…、これって爆発するのよね…)
しかもジークヴァルトが重傷を負うぐらいのヤバい爆発。
「準備はいいですか?」
「あの~~~ちょっといーですかー?」
不意にリディアが声を上げる。
「どうしましたか?」
「その、緊張でうまく呪文が唱えられそうにないので、代わりに殿下にしてもらってもいいですか?」
「?!」
「「 はぁ? 」」
皆がリディアの提案に驚き見る。
「おいっお前っっ」
(爆発するの解ってて、やるバカはいないっての)
「殿下が私の保証人なのでしょう?なら私の代わりにお願いします」
「何を言っているのです、あなたは、馬鹿ですか?」
サディアスがこめかみに怒りマークを付けて低く震えた声で言う。
「保証人なんだから、いいでしょう?」
「リディア嬢、それでもいいのですが、それではあなたは不合格必死、補習となりますがよろしいですか?」
「?」
オーレリーの言葉に首を傾げる。
「おや、保証人の事を何もご存知ないのですね」
「それは一体…」
「先ほども説明しましたように、属性以外は力は弱く全く出ない場合もあると言いましたね、殿下の属性は火、そして逆属性は水、殿下は水魔法が使えません」
皆が「あっ」と思い出したように口にすると急いで口元を隠す。
ジークヴァルトの機嫌を損ねる事を恐れ眼を背ける。
「は?」
リディアは眼を点にする。
記憶には水魔法を見事に使って爆発させた映像がしっかりと思い出している。
(もしかして水魔法使える事を隠してる?)
それなら隠した方がいいのだろうかと一瞬思うも、あの爆発シーンを思い出し瞬殺で消し去る。
(危険回避よ、自己防衛は大事よ、うん)
そしてとぼけた口調で口を開く。
「オーレリー様こそ何を言っているんです?ジークはバリバリ水魔法使えるじゃないですか」
「!」
「え?」
今度は何を言っているのかという様に怪訝にリディアを皆が見る。
「何を仰る、殿下は水魔法は…」
「てことで殿下、これお願いします」
「おいっ」
(私が離れれば守らずに済む分、重症負う率は下がるわよね…でも念のためも必要かしら…)
リディアが話を切り上げその場を離れようとしてサディアスに振り返る。
「そうそう、言い忘れていましたわ」
「?」
「軍師殿は隣で殿下をお守りください」
怪我されてストーリーが展開されても困るとサディアスに忠告する。
それを怪訝に睨みつける。
「その言い草、まるで水魔法を使った途端、この箱が爆発でもするというのですか?」
(ここは素直に言っちゃう方が得策ね)
爆発あるなし関わらず、不信要素があれば国の宝の聖女候補に無理矢理試験を行わせるわけにはいかなくなるし、聖女候補生も近づかせない事も出来るから爆発しても被害は最小限で済むはず。
「はい、なのでやはりここはジーク殿下がするべきかと、私には上手く魔法も防御も出来そうにありませんので」
「「 ! 」」
皆がリディアの発言に驚き騒めく。
「何を言っているのです?私に不備があるというのですか?」
「いえ、枢機卿のせいではありません、これは仕掛けられた罠」
「罠?」
「そんな事、どうでもいい事ですわ」
そこでレティシアが間に割って入る。
「罠とか爆発とか馬鹿馬鹿しい、ジークヴァルトでも、その偽聖女候補でもどちらでも、さっさと水魔法で箱を割れば真相が解るというものですわ」
「それもそうよね」
「それにそう言って怖がらせて自分が魔力がないのを隠そうとしているのかもしれませんわ」
大騒ぎして魔力がないのを隠そうとしているという方がこの場合しっくりとくる。
このリディアは魔物執事の紅い眼に口付けたお騒がせ女だ。
確かにそうだと皆がレティシアに賛同する。
「まぁ、割れるかどうかも怪しい事ですし」
嘲笑う様に言うレティシアに釣られて、アナベル派の皆もこれから起こる滑稽が見物とジークヴァルトとリディアを見下す。
「では、私はこれで…」
そんな事お構いなしにリディアがその場を離れようとしたその腕をジークヴァルトの大きな手が捕まえる。
「真実かどうか確かめるためにもお前はここに居ることを命じる」
「はぁ?」
「俺様にお前の代わりをしろと言ったのだ、その責任は果たしてもらうぞ」
「ジーク様!」
サディアスが慌てた様子でジークヴァルトを見る。
(おいおい、それではジークの重症負う率上がるでしょうがっっそれに私も危ない!)
ジークヴァルトの手を放そうと藻掻くもビクともしない。
「ここまで煽られちゃぁ、何もせぬわけにもいかんだろう」
「ですがっ‥‥」
「そろそろ俺様の力を見せつけてやるのもこれまた一興」
「っ‥‥」
ジークヴァルトの表情から見取ってかサディアスが黙る。
往生際悪く腕を離そうと藻掻くリディアを大きな男二人が見下ろす。
「俺様がこの箱を割ってやろう、その代わりお前はこの場を離れる事を禁ずる」
「ええ、虚言だと解った所で逃げられたとなっては私も殿下も顔が立ちませんからね」
「っ‥‥」
ジークヴァルトとサディアスの眼が逃さないぞという瞳でリディアを睨みつける。
(んなもんどうでもいい!離せ!ヤバすぎでしょうがっっ)
そんな瞳で見られようとこっちは身の危機が迫っているのだ。
暴れまくるも鉄かと思うぐらいにジークヴァルトの掴んだ手がビクともしない。
それとは別に、ジークヴァルトが水魔法を使うと言い放った事に皆が驚き見張っている。
「いいか?オーレリー」
「…解りました、では殿下、お願いします」
オーレリーの承認を得、ジークヴァルトがリディアを胸に抱き寄せる。
(この俺様殿下っ、私をあくまで巻き込む気ねっっ)
観念して睨み上げるリディアを可笑しそうにニヤ―っと口を引き上げる。
「隠していた水魔法を披露するのだ、しかとその目で見ておけ」
「どうでもいいけど、ちゃんと守って下さいまし、ジークと心中なんて御免ですから」
「まだ爆発すると言い張るのですね」
「そこの軍師もしっかりジークと私を守ってください、あとイザークは下がってていいわ」
「リディア様っ」
「大丈夫よ、この二人が居るなら、イザークは怪我しないように下がってて」
諭すようにジッとイザークを見る。
その瞳に逆らえないと解りすすまぬ顔で頷くと傍を離れる。
皆もまた念のため水槽から離れ教室の端に立つ。
「魔物執事には優しく、国王代理のジーク様を呼び捨てとは、本当にいい度胸をしていますね」
「無駄口叩く前に、さっさと防御壁作ったらどうです?軍師殿」
「この私に命令まで…まったく、本当にどこまで神経が図太いのやら」
そう言うと皆に爆発時に被害が及ばぬよう防御壁を水槽の周りに作り、そしていつでもジークヴァルトを守れるようにもう一つ水の防御壁を作る。
「では初披露と参ろうか」
ジークヴァルトがギラっと眼を輝かす。
「あれはっっ」
「本当に…」
皆が驚く中、ジークヴァルトは華麗に水玉を作り上げる。
「さぁ、お前の言葉が本当か、確かめてやろう」
水が形を変え線となって渦巻く。
それが一気に箱へと向かい進む。
瞬間―――――
大きな爆発音が鳴り響く。
ジークヴァルトの腕がリディアを抱き込む。
「「「!!」」」
爆音が鳴りやみ、教室が静まり返る。
「まさか…本当に‥‥」
皆が慄く中、リディアがジークヴァルトの腕の中から顔を覗かせた。
「ね、言ったでしょ」
「危機一髪でした…」
サディアスの腕が少し震えている。
これほど早く爆発するとは予想外だったらしい。
「そうか…、魔法石‥‥」
上級魔法石に罠を仕掛けていたために、通常よりも異常な速さで爆発したのだ。
皆が愕然とする中、のんびりした声が響く。
「あー、それで犯人はー、えーと、そうそう間抜けにも、いえいえ、魔法石の欠片に証拠があったはず…いえ、あります」
(確かこんな間抜けな展開と、ご都合主義に苦笑いしたっけか…)
リディアの言葉にサディアスが急いで魔法石を確認する。
「これはっ」
割れた魔法石の欠片を見、サディアスの眼が細まる。
「この術式、これを使える貴族は限られています」
サディアスの手の中の魔法石から術式が消えていく。
「なるほど、すぐに証拠隠滅されるようになっていましたか…」
(え?そんなにすぐに消えるものだったの?)
術式が消えた魔法石を見る。
(よかったー…すぐに言って)
間に合わなかったら面倒な事になっていたはずだ。
「サディアス殿」
「オーレリー枢機卿、今日の授業は取り止めを、聖女候補生は皆部屋に戻るように」
この状態では授業は無理と判断し、サディアスがオーレリーに指示を出す。
そうして皆が部屋に戻ることになる。
「お前は一体何者だ?」
皆が帰る中、リディアはジークヴァルトに止められる。
「あなたは敵ではないと言った、今回も犯人はアナベル派の貴族でした、という事は確かにジーク様を助けたことになります、ですが貴方はジーク派という感じには見受けられません、貴方の目的は何なのですか?」
サディアスもリディアを怪訝に見下ろす。
「別に何者でもありません、普通の男爵の家に生まれた娘に過ぎません」
「どうして罠だと解った?」
「何となく…、そう思っただけです」
「何となくとはなんです!そんな誤魔化しが効くとでも?」
(と言われても、答えられるはずないじゃないですか)
実は前世の記憶でー、しかもゲームの中の話でー何て言った日にゃ余計に疑われるっていうもの。
とはいえ、この状況どうしたものかと思っていると思わぬところから助け船が入る。
「それぐらいにしてあげてはどうでしょう」
「オーレリー枢機卿?」
「皆、無事であったのです、まずはそれに感謝することが大事ではありませんか」
「それはそうですが…」
「リディア嬢も緊張に呪文も唱えられない程の状態からこの状況です、国の宝である聖女候補生をまず労わり休ませてあげなくては」
(しめた!)
リディアはイザークに寄りかかる。
「リディア様っ」
「少し眩暈が…」
「ほら、お疲れのご様子です、大丈夫ですか?」
その様を疑いの眼差しで見る男を二人を他所に弱弱しい口調と上目遣いで見上げる。
見た目は華奢で聖女なリディアだ。
見事に弱っている様に見える。
「大丈夫です…、その‥、部屋に戻っても…?」
「ええ、お疲れでしょう、部屋で十分な休息を取ってください、リディア嬢を頼みましたよ」
「はい、では失礼致します」
イザークが一礼するとリディアを支え部屋へと歩き出す。
(ふふ、上手く抜け出せたわ)
忌まわしそうに睨む二人を背に、リディアは心の中でガッツポーズを見せた。
(これでフラグ立たせずに攻略成功よ!)
そこで、ハッと思い出す。
(これは爆発イベント!)
脳裏に蘇る金太郎飴イベント。
この箱が仕掛けられていて割った途端爆発するのだ。
そして好感度の高い攻略男子が主人公を守るイベントだ。
(てことは、リオか、イザークか…それともジーク?サディアスはまだな気がする…)
ジークヴァルト以外は無事に終わるが、ジークヴァルトだけは主人公を守り重症を負うパターンだったと思い出す。
それで重傷を負ったジークヴァルトを甲斐甲斐しく看病し、その傷に心を痛めた主人公が犯人捜しをし出して、読み飛ばしたので覚えてないが、なんやかんやあって犯人を見つけジークヴァルトと主人公の距離が縮る展開になってたはずだ。
ジークヴァルト以外でもこの犯人探しが攻略男子と距離を縮めるためのシナリオだったはず。
(これは‥‥)
―――― チャーンス!?
(ここでサクッと犯人割り出せば、なんやかんやの最中のフラグを立てずしてチェックメイトに近づけるわ)
リディアの口元がニヤリと笑う。
既に犯人は解っている。
(いける、いけるわ!)
「それではリディア嬢」
オーレリーの声掛けに我に返る。
そして水槽を見る。
(待って…、これって爆発するのよね…)
しかもジークヴァルトが重傷を負うぐらいのヤバい爆発。
「準備はいいですか?」
「あの~~~ちょっといーですかー?」
不意にリディアが声を上げる。
「どうしましたか?」
「その、緊張でうまく呪文が唱えられそうにないので、代わりに殿下にしてもらってもいいですか?」
「?!」
「「 はぁ? 」」
皆がリディアの提案に驚き見る。
「おいっお前っっ」
(爆発するの解ってて、やるバカはいないっての)
「殿下が私の保証人なのでしょう?なら私の代わりにお願いします」
「何を言っているのです、あなたは、馬鹿ですか?」
サディアスがこめかみに怒りマークを付けて低く震えた声で言う。
「保証人なんだから、いいでしょう?」
「リディア嬢、それでもいいのですが、それではあなたは不合格必死、補習となりますがよろしいですか?」
「?」
オーレリーの言葉に首を傾げる。
「おや、保証人の事を何もご存知ないのですね」
「それは一体…」
「先ほども説明しましたように、属性以外は力は弱く全く出ない場合もあると言いましたね、殿下の属性は火、そして逆属性は水、殿下は水魔法が使えません」
皆が「あっ」と思い出したように口にすると急いで口元を隠す。
ジークヴァルトの機嫌を損ねる事を恐れ眼を背ける。
「は?」
リディアは眼を点にする。
記憶には水魔法を見事に使って爆発させた映像がしっかりと思い出している。
(もしかして水魔法使える事を隠してる?)
それなら隠した方がいいのだろうかと一瞬思うも、あの爆発シーンを思い出し瞬殺で消し去る。
(危険回避よ、自己防衛は大事よ、うん)
そしてとぼけた口調で口を開く。
「オーレリー様こそ何を言っているんです?ジークはバリバリ水魔法使えるじゃないですか」
「!」
「え?」
今度は何を言っているのかという様に怪訝にリディアを皆が見る。
「何を仰る、殿下は水魔法は…」
「てことで殿下、これお願いします」
「おいっ」
(私が離れれば守らずに済む分、重症負う率は下がるわよね…でも念のためも必要かしら…)
リディアが話を切り上げその場を離れようとしてサディアスに振り返る。
「そうそう、言い忘れていましたわ」
「?」
「軍師殿は隣で殿下をお守りください」
怪我されてストーリーが展開されても困るとサディアスに忠告する。
それを怪訝に睨みつける。
「その言い草、まるで水魔法を使った途端、この箱が爆発でもするというのですか?」
(ここは素直に言っちゃう方が得策ね)
爆発あるなし関わらず、不信要素があれば国の宝の聖女候補に無理矢理試験を行わせるわけにはいかなくなるし、聖女候補生も近づかせない事も出来るから爆発しても被害は最小限で済むはず。
「はい、なのでやはりここはジーク殿下がするべきかと、私には上手く魔法も防御も出来そうにありませんので」
「「 ! 」」
皆がリディアの発言に驚き騒めく。
「何を言っているのです?私に不備があるというのですか?」
「いえ、枢機卿のせいではありません、これは仕掛けられた罠」
「罠?」
「そんな事、どうでもいい事ですわ」
そこでレティシアが間に割って入る。
「罠とか爆発とか馬鹿馬鹿しい、ジークヴァルトでも、その偽聖女候補でもどちらでも、さっさと水魔法で箱を割れば真相が解るというものですわ」
「それもそうよね」
「それにそう言って怖がらせて自分が魔力がないのを隠そうとしているのかもしれませんわ」
大騒ぎして魔力がないのを隠そうとしているという方がこの場合しっくりとくる。
このリディアは魔物執事の紅い眼に口付けたお騒がせ女だ。
確かにそうだと皆がレティシアに賛同する。
「まぁ、割れるかどうかも怪しい事ですし」
嘲笑う様に言うレティシアに釣られて、アナベル派の皆もこれから起こる滑稽が見物とジークヴァルトとリディアを見下す。
「では、私はこれで…」
そんな事お構いなしにリディアがその場を離れようとしたその腕をジークヴァルトの大きな手が捕まえる。
「真実かどうか確かめるためにもお前はここに居ることを命じる」
「はぁ?」
「俺様にお前の代わりをしろと言ったのだ、その責任は果たしてもらうぞ」
「ジーク様!」
サディアスが慌てた様子でジークヴァルトを見る。
(おいおい、それではジークの重症負う率上がるでしょうがっっそれに私も危ない!)
ジークヴァルトの手を放そうと藻掻くもビクともしない。
「ここまで煽られちゃぁ、何もせぬわけにもいかんだろう」
「ですがっ‥‥」
「そろそろ俺様の力を見せつけてやるのもこれまた一興」
「っ‥‥」
ジークヴァルトの表情から見取ってかサディアスが黙る。
往生際悪く腕を離そうと藻掻くリディアを大きな男二人が見下ろす。
「俺様がこの箱を割ってやろう、その代わりお前はこの場を離れる事を禁ずる」
「ええ、虚言だと解った所で逃げられたとなっては私も殿下も顔が立ちませんからね」
「っ‥‥」
ジークヴァルトとサディアスの眼が逃さないぞという瞳でリディアを睨みつける。
(んなもんどうでもいい!離せ!ヤバすぎでしょうがっっ)
そんな瞳で見られようとこっちは身の危機が迫っているのだ。
暴れまくるも鉄かと思うぐらいにジークヴァルトの掴んだ手がビクともしない。
それとは別に、ジークヴァルトが水魔法を使うと言い放った事に皆が驚き見張っている。
「いいか?オーレリー」
「…解りました、では殿下、お願いします」
オーレリーの承認を得、ジークヴァルトがリディアを胸に抱き寄せる。
(この俺様殿下っ、私をあくまで巻き込む気ねっっ)
観念して睨み上げるリディアを可笑しそうにニヤ―っと口を引き上げる。
「隠していた水魔法を披露するのだ、しかとその目で見ておけ」
「どうでもいいけど、ちゃんと守って下さいまし、ジークと心中なんて御免ですから」
「まだ爆発すると言い張るのですね」
「そこの軍師もしっかりジークと私を守ってください、あとイザークは下がってていいわ」
「リディア様っ」
「大丈夫よ、この二人が居るなら、イザークは怪我しないように下がってて」
諭すようにジッとイザークを見る。
その瞳に逆らえないと解りすすまぬ顔で頷くと傍を離れる。
皆もまた念のため水槽から離れ教室の端に立つ。
「魔物執事には優しく、国王代理のジーク様を呼び捨てとは、本当にいい度胸をしていますね」
「無駄口叩く前に、さっさと防御壁作ったらどうです?軍師殿」
「この私に命令まで…まったく、本当にどこまで神経が図太いのやら」
そう言うと皆に爆発時に被害が及ばぬよう防御壁を水槽の周りに作り、そしていつでもジークヴァルトを守れるようにもう一つ水の防御壁を作る。
「では初披露と参ろうか」
ジークヴァルトがギラっと眼を輝かす。
「あれはっっ」
「本当に…」
皆が驚く中、ジークヴァルトは華麗に水玉を作り上げる。
「さぁ、お前の言葉が本当か、確かめてやろう」
水が形を変え線となって渦巻く。
それが一気に箱へと向かい進む。
瞬間―――――
大きな爆発音が鳴り響く。
ジークヴァルトの腕がリディアを抱き込む。
「「「!!」」」
爆音が鳴りやみ、教室が静まり返る。
「まさか…本当に‥‥」
皆が慄く中、リディアがジークヴァルトの腕の中から顔を覗かせた。
「ね、言ったでしょ」
「危機一髪でした…」
サディアスの腕が少し震えている。
これほど早く爆発するとは予想外だったらしい。
「そうか…、魔法石‥‥」
上級魔法石に罠を仕掛けていたために、通常よりも異常な速さで爆発したのだ。
皆が愕然とする中、のんびりした声が響く。
「あー、それで犯人はー、えーと、そうそう間抜けにも、いえいえ、魔法石の欠片に証拠があったはず…いえ、あります」
(確かこんな間抜けな展開と、ご都合主義に苦笑いしたっけか…)
リディアの言葉にサディアスが急いで魔法石を確認する。
「これはっ」
割れた魔法石の欠片を見、サディアスの眼が細まる。
「この術式、これを使える貴族は限られています」
サディアスの手の中の魔法石から術式が消えていく。
「なるほど、すぐに証拠隠滅されるようになっていましたか…」
(え?そんなにすぐに消えるものだったの?)
術式が消えた魔法石を見る。
(よかったー…すぐに言って)
間に合わなかったら面倒な事になっていたはずだ。
「サディアス殿」
「オーレリー枢機卿、今日の授業は取り止めを、聖女候補生は皆部屋に戻るように」
この状態では授業は無理と判断し、サディアスがオーレリーに指示を出す。
そうして皆が部屋に戻ることになる。
「お前は一体何者だ?」
皆が帰る中、リディアはジークヴァルトに止められる。
「あなたは敵ではないと言った、今回も犯人はアナベル派の貴族でした、という事は確かにジーク様を助けたことになります、ですが貴方はジーク派という感じには見受けられません、貴方の目的は何なのですか?」
サディアスもリディアを怪訝に見下ろす。
「別に何者でもありません、普通の男爵の家に生まれた娘に過ぎません」
「どうして罠だと解った?」
「何となく…、そう思っただけです」
「何となくとはなんです!そんな誤魔化しが効くとでも?」
(と言われても、答えられるはずないじゃないですか)
実は前世の記憶でー、しかもゲームの中の話でー何て言った日にゃ余計に疑われるっていうもの。
とはいえ、この状況どうしたものかと思っていると思わぬところから助け船が入る。
「それぐらいにしてあげてはどうでしょう」
「オーレリー枢機卿?」
「皆、無事であったのです、まずはそれに感謝することが大事ではありませんか」
「それはそうですが…」
「リディア嬢も緊張に呪文も唱えられない程の状態からこの状況です、国の宝である聖女候補生をまず労わり休ませてあげなくては」
(しめた!)
リディアはイザークに寄りかかる。
「リディア様っ」
「少し眩暈が…」
「ほら、お疲れのご様子です、大丈夫ですか?」
その様を疑いの眼差しで見る男を二人を他所に弱弱しい口調と上目遣いで見上げる。
見た目は華奢で聖女なリディアだ。
見事に弱っている様に見える。
「大丈夫です…、その‥、部屋に戻っても…?」
「ええ、お疲れでしょう、部屋で十分な休息を取ってください、リディア嬢を頼みましたよ」
「はい、では失礼致します」
イザークが一礼するとリディアを支え部屋へと歩き出す。
(ふふ、上手く抜け出せたわ)
忌まわしそうに睨む二人を背に、リディアは心の中でガッツポーズを見せた。
(これでフラグ立たせずに攻略成功よ!)
0
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる