1 / 11
野球の道を諦めた、現在の俺(1)
しおりを挟む
これは、俺が小学四年生だった頃の記憶。
二分の一成人式の中で、当時担任だった若い女性教師が、俺たちに向かってこう言った。
「皆さんの誕生花の花言葉からテーマを決め、大人になった自分に向けて手紙を書いて、タイムカプセルに入れましょう」……と。
二分の一成人式。
成人の二分の一の年齢である十歳(プレティーン)を迎えたことを記念して行われる行事である。小学校中学年の四年生を参加者として、校長先生や保護者代表による祝いの言葉、「二分の一成人証書」の授与、等々が行われ、十年後の自分に向けて手紙を書いた。自分が将来なりたい職業について熱弁するかのごとく、書きなぐったことだけはよく覚えている。
当時十歳だった俺は、夢は叶えるものであり、同時に、叶えられるものだと信じて疑わなかった。
だが……どんなに努力をしても叶わなくなったとき、夢はどうなってしまうのだろう?
それはもはや、夢ではなくなってしまうのだろうか?
どう足掻いても叶わないと悟ったとき、人は夢を諦める。その時俺たちは、どのようにして生きていく為の折り合いをつければ良いのだろうか?
答えは今もまだ──見つかってはいない。
※
高校を卒業したあと、俺──進藤新は、地元の公立大学に進学していた。
将来の夢、なんてものは漠然としたイメージしかもっていなくて、大学を卒業したあとで東京に出たいのか。それとも地元に残るのか。それすらも決めかねていた。
IT関連の企業に勤めたい。漠然と、そんな考えを持って理工学部に進学したわけだが、将来設計の甘さについては自覚している。
幼少期から運動神経には自信があった。それなのに、大学では運動部にもスポーツ系のサークルにも所属することなく、図書委員会に入っていた。
図書委員会の業務というのは、委員会の中でも拘束時間が長い方だ。
人前に立つ必要がないので気楽なもんだが、本の貸し出しと返却の受付をするカウンター業務。本棚や返却本の整理整頓。小冊子やポスターの作成にホームページの更新等々……地味ながらも、仕事量は多い。
ところで、なぜ俺が運動部ではなく図書委員会に所属しているのか、であるが、そこにはやむにやまれぬ事情があった。
図書委員会に入ったこと、の方にではなく、俺が高校時代目指していた、野球選手への道を諦めたことにだ。
※
「ねえ、進藤君。そこにある棚の一番上の本を、一列全部入れ替えてくれないかしら」
脚立に乗った体勢で、下から声を掛けてきた図書委員の女子に「わかりました」と返答した。
チラッと足元に視線を落とすと、平積みにされた本の山が視界に入る。思ったよりも入れ替える本が多いんだなと、辟易してしまう。
書棚の一番上にある本を取ろうと左手を上げていき、思わず顔をしかめてしまった。
届かない。
上げていた左手を一旦下ろし、代わりに右手を伸ばして本を一冊ずつ抜き出していく。
俺が、上げかけていた左手を下ろして、右手で本を取った理由。
それは、俺が右利きだからでは決してない。俺の利き腕は、正真正銘最初に上げた『左』だ。では、どうしてなのかというと──。
俺の左腕は、肩より高い位置に上がらなくなってしまったのだ。
高校時代に遭遇した、交通事故の後遺症によって。
ふう、と溜め息が落ちる。
上段の本を全て床に下ろしたあと、自分の気持ちまでもが沈んでしまったように感じられていた。
※
二分の一成人式の中で、当時担任だった若い女性教師が、俺たちに向かってこう言った。
「皆さんの誕生花の花言葉からテーマを決め、大人になった自分に向けて手紙を書いて、タイムカプセルに入れましょう」……と。
二分の一成人式。
成人の二分の一の年齢である十歳(プレティーン)を迎えたことを記念して行われる行事である。小学校中学年の四年生を参加者として、校長先生や保護者代表による祝いの言葉、「二分の一成人証書」の授与、等々が行われ、十年後の自分に向けて手紙を書いた。自分が将来なりたい職業について熱弁するかのごとく、書きなぐったことだけはよく覚えている。
当時十歳だった俺は、夢は叶えるものであり、同時に、叶えられるものだと信じて疑わなかった。
だが……どんなに努力をしても叶わなくなったとき、夢はどうなってしまうのだろう?
それはもはや、夢ではなくなってしまうのだろうか?
どう足掻いても叶わないと悟ったとき、人は夢を諦める。その時俺たちは、どのようにして生きていく為の折り合いをつければ良いのだろうか?
答えは今もまだ──見つかってはいない。
※
高校を卒業したあと、俺──進藤新は、地元の公立大学に進学していた。
将来の夢、なんてものは漠然としたイメージしかもっていなくて、大学を卒業したあとで東京に出たいのか。それとも地元に残るのか。それすらも決めかねていた。
IT関連の企業に勤めたい。漠然と、そんな考えを持って理工学部に進学したわけだが、将来設計の甘さについては自覚している。
幼少期から運動神経には自信があった。それなのに、大学では運動部にもスポーツ系のサークルにも所属することなく、図書委員会に入っていた。
図書委員会の業務というのは、委員会の中でも拘束時間が長い方だ。
人前に立つ必要がないので気楽なもんだが、本の貸し出しと返却の受付をするカウンター業務。本棚や返却本の整理整頓。小冊子やポスターの作成にホームページの更新等々……地味ながらも、仕事量は多い。
ところで、なぜ俺が運動部ではなく図書委員会に所属しているのか、であるが、そこにはやむにやまれぬ事情があった。
図書委員会に入ったこと、の方にではなく、俺が高校時代目指していた、野球選手への道を諦めたことにだ。
※
「ねえ、進藤君。そこにある棚の一番上の本を、一列全部入れ替えてくれないかしら」
脚立に乗った体勢で、下から声を掛けてきた図書委員の女子に「わかりました」と返答した。
チラッと足元に視線を落とすと、平積みにされた本の山が視界に入る。思ったよりも入れ替える本が多いんだなと、辟易してしまう。
書棚の一番上にある本を取ろうと左手を上げていき、思わず顔をしかめてしまった。
届かない。
上げていた左手を一旦下ろし、代わりに右手を伸ばして本を一冊ずつ抜き出していく。
俺が、上げかけていた左手を下ろして、右手で本を取った理由。
それは、俺が右利きだからでは決してない。俺の利き腕は、正真正銘最初に上げた『左』だ。では、どうしてなのかというと──。
俺の左腕は、肩より高い位置に上がらなくなってしまったのだ。
高校時代に遭遇した、交通事故の後遺症によって。
ふう、と溜め息が落ちる。
上段の本を全て床に下ろしたあと、自分の気持ちまでもが沈んでしまったように感じられていた。
※
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
美しいお母さんだ…担任の教師が家庭訪問に来て私を見つめる…手を握られたその後に
マッキーの世界
大衆娯楽
小学校2年生になる息子の担任の教師が家庭訪問にくることになった。
「はい、では16日の午後13時ですね。了解しました」
電話を切った後、ドキドキする気持ちを静めるために、私は計算した。
息子の担任の教師は、俳優の吉○亮に激似。
そんな教師が
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる