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第六章「彼女がいなくなって」
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バスの車体が大きく揺れた。
体が投げ出されて、床に頭を打ち付けそうになって身構えたとき、立夏が私の体を抱き留めた。
悲鳴と、怒声と、さまざまな声が車内に満ちて、ガラスが砕け散る甲高い音が響いた。
赤なのか、黒なのか、視界がいろいろな色に染まって、痛みで意識が朦朧としていく中、私を呼ぶ声がした。温かくて大きな腕に包まれていた。
「乃蒼。大丈夫だ。……乃蒼」
揺れが収まるのと同時に、耳元でよく知っている人の声がした。
「乃蒼、しっかりしろ。もう大丈夫だから」
霞んでいく視界でとらえたのは、眉根を寄せて、優しげな顔で私を見下ろしている立夏だった。どうして、そんな顔をするんだろうと思った。
立夏を抱き返して、背中に回して手のひらがぬめりのある液体に触れた。私は驚いて、そのぬめりのある液体がなんであるのか理解したくなくて、それでも立夏から手を離して手のひらを視界にかざした。
血だった。
たくさんの血が私の手に付着していた。
手のひらが真っ赤に染まっていた。
立夏の背中に、無数のガラス片が刺さっていて、そこから流れ出しているものだった。
信じたくはない、衝撃的な光景を目の当たりにして、私は悲鳴を上げた。
痛みで薄れていく意識の中、私は必死に神に祈った。
彼のことを助けてくださいと。
私はどうなっても構わないから、と。
*
バスの車体が大きく揺れた。
体が投げ出されて、床に頭を打ち付けそうになって身構えたとき、立夏が私の体を抱き留めた。
悲鳴と、怒声と、さまざまな声が車内に満ちて、ガラスが砕け散る甲高い音が響いた。
赤なのか、黒なのか、視界がいろいろな色に染まって、痛みで意識が朦朧としていく中、私を呼ぶ声がした。温かくて大きな腕に包まれていた。
「乃蒼。大丈夫だ。……乃蒼」
揺れが収まるのと同時に、耳元でよく知っている人の声がした。
「乃蒼、しっかりしろ。もう大丈夫だから」
霞んでいく視界でとらえたのは、眉根を寄せて、優しげな顔で私を見下ろしている立夏だった。どうして、そんな顔をするんだろうと思った。
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血だった。
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手のひらが真っ赤に染まっていた。
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信じたくはない、衝撃的な光景を目の当たりにして、私は悲鳴を上げた。
痛みで薄れていく意識の中、私は必死に神に祈った。
彼のことを助けてくださいと。
私はどうなっても構わないから、と。
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