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ヒロイン(俺)のライバル

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俺、フランチェスカには、個性豊かな六人の兄がいる。上から、虫嫌いの潔癖症インテリ眼鏡のグスターヴォ、昼寝大好きやる気なし美人のガブリエーレ、熱血剣術馬鹿のイザイア、いたずら好きの自由人ヴィットーレ、空気を読まない芸術家気取りのランベルト、世話焼きの(これが一番まともな)レオーネだ。

我が家は伯爵家の中では最も歴史が長く、その間王家に忠実な臣下だったと、グスターヴォ兄上が何度も言っていた。代々美形ぞろいでありながら、才能の面でイマイチパッとしない人材ばかりだったので、政治の中枢を担うことはなかった。自力で権力を手にするのは無理だと考えたのは我が父上だけではなく、代々の先祖も同様で、女子が生まれたら王子の妃にしようと画策していたのだが、子供は殆どが男子で、女子が生まれても王子と年齢が合わなかった。そこで、『王妃になれる女の子』に恵まれなかった父・ヴィオリル伯爵フィリッポは、七番目の男の子である俺を女の子として育てた。
前回は俺・隼人の自我がギリギリまで目覚めなかったために、家族ぐるみで俺を騙していることに気づかず、うっかり王太子とベッドインしてしまったが、今回は絶対に失敗しない。

あの王太子のどこがいいんだ?
幼馴染の結衣に『やれ』と命令されて始めた、残酷なゲームの王子様、つまりメインヒーローのくせに、やることがえげつない。男としてどうなの?と思う。悪役令嬢のティツィアーナと婚約しておきながら、ヒロイン(プレイヤー)を選んで彼女を退け、なんだかんだで破滅させる自分勝手な悪い奴だ。ティツィアーナが可哀想だろ。見た目だって悪くないっていうか、ヒロイン(俺)より余程美人になりそうなのに。
悪役令嬢を破滅させるために、十中八九王太子が裏で糸を引いているのだ。国王暗殺を企んだとか、賄賂を受け取りまくったとか、ティツィアーナの父がそういう悪いことをしていたかどうかはこの際重要ではなく、王太子の権力で彼女の家は潰されたんだと思う。
危なく、あんな奴の妃になるところだった。

男らしくなろう。王太子に女だと欠片も思われない程度に。目指せゴリラ。
そして、何とかして父を説得するのだ。末っ子は男だと、国王陛下に訂正報告してくれるように。

でも、対外的には女の子が生まれたことになっているのを、後から訂正できるのか?
この国の慣習として、伯爵家以上の家柄に子供が生まれた場合、国王陛下から祝いの品を賜る名目で王宮に上がり、大神官から『祝福』を受けることになっている。この『祝福』が厄介だよな。
『祝福』は男女別にそれぞれ重要な意味がある。男の場合は、不穏分子の洗い出しが目的なのだ。その子が将来国を揺るがすと水鏡に映れば、親共々監視下に置かれるらしい。女の子は王妃になるかどうか占われている。父上の話だと、はっきり否定する結果が出なかったために、俺は王太子妃になる可能性があるとされているらしい。そもそも女じゃないし、水鏡も呆れて答えが出せなかったんじゃないかと思う。前回はそれを好意的に(?)取って、父は俺に王太子に近づくよう言い、素直に従った結果があれだ。
息子が可愛いからって、どうして嫁がせようなんて思うんだろう。
いくら王子が望んでも、最後の一線は超えさせちゃダメじゃん!
思い出すのもおぞましい初夜に、王太子は俺を可愛いと言った。妖精のような可愛い俺が男であるはずがないと。
だったら男らしくなってみせようじゃないか!

――と意気込んで、イザイア兄上と一緒に剣の先生に習うこと三年。
うん。俺が甘かった。
正直キツい。ろくに運動もしてこなかった身体が毎日悲鳴を上げている。
「はははは!すごいぞ、フラン!さすがは俺の妹だ!」
剣の手合わせをしながら、兄は豪快に笑った。俺の太刀筋がいいと褒めてくれる。
「だから、俺は弟だってば!」
何度男だと言っても、イザイアはなかなか信じてくれなかった。彼だけではなく、兄達は皆、俺が女の子だと信じていたからだ。
「この分なら、将来は騎士になれるんじゃないか?」
「本当?」
やった!
騎士になれば、王太子の好きな『可愛い女の子』じゃなくなる。
筋肉が思うようにつかないけど、成長期が来たらきっと兄上のようなゴリラになれる。このまま練習を頑張ろう。

   ◆◆◆

「練習について来ないか?」
練習開始から五年後、十歳になった俺をイザイア兄上が誘った。
兄上の提案はいつも唐突だった。何も手順を踏んで考えたことがないんだろう。
「どこに?」
「訓練場だよ。ほら、王宮の北にある」
「ああ、兄上が前に話していたところだね」
イザイア兄上は頷いて、傍にいた侍女に俺の剣を持ってくるように指示した。こうなるともう決定なのだ。
「友達何人かと手合わせをするんだ。弟を連れてくる奴もいるから、お前の相手に丁度いいだろう?」
筋肉鍛えすぎの兄とは、本気で手合わせしたことがない。兄上が手加減をするから、俺はいつもやる気の消化不良に陥っていた。同じくらいの年の子供が来るなら、練習相手になるだろう。俺は喜んで練習について行った。

「よう!遅かったじゃないか」
練習場に着くと、兄の友人達が寄ってきた。皆、鍛え上げられた肉体を持つ屈強な戦士だ。類は友を呼ぶというのは本当だな。皆俺より七歳くらい上で、見上げるほど大きい。
「こいつが俺のおと……妹のフランチェスカだ」
対外的にはまだ女の子の俺は、いやいやながら礼をした。ポニーテールにしている長い髪が落ちてきて邪魔だ。父上に泣いて頼まれ、長く伸ばしているのだ。
「フランチェスカです。フランと呼んでください」
「ほほー。これがイザイアの天使か」
「は?」
「バカ、何言ってる!」
イザイアは真っ赤になって友人をどついた。
兄上、まだ俺のこと、天使って呼んでたんだ……。本気でシスコンだったんだな。
「よろしくな、フラン。俺はバルトロ。で、こっちが弟の」
「パルミロだ。よろしくな!」
赤い髪のパルミロ?ああ、こいつ、攻略対象じゃないか。
「よろしく。パルミロは何歳なの?俺は十歳だよ」
「そっか。おんなじだな」
パルミロは俺の手を取って自分の手を重ねた。
「?」
「お前、手、小さいな。こんなんで剣が持てるのかよ」
「これから大きくなるところなんだよ!んなのいいから、練習しよう」

一頻り打ち合って、俺達は兄上たちの試合を見ることにした。
「兄上は無敵なんだぜ?」
「……」
「おい、聞いてんのか、フラン!」
「あー、ごめん。ちょっと考え事してた」
パルミロは脳筋キャラで、普通より発育がいいにしても、同じように毎日鍛えている俺に比べて随分大きい。頭一つ分違う。こんなに差があっていいものだろうか。神様は不公平だ。
うん。不公平すぎる。
初めから男として育つこいつと、ニセの女の子から大逆転劇を演じなければならない俺とはスタートラインが違う。せめて体格だけでも同等になりたい。
「なあ、パルミロ」
「ん?」
「どうやったらそんなにでかくなれるの?食事?筋肉トレーニング?」
「うーん。どっちもあるけど、お前だってやってるんだろ?」
「兄上と同じくらいにはね。でも、ほら、これ見てよ」
俺はシャツの袖を捲って腕を見せた。
「練習しても筋肉がつかなくてさ。お腹だって……」
裾を捲って腹筋を見せようとすると、パルミロが慌てて俺の手を掴んだ。
「あ、当たり前だろ!お前と俺は違うんだから」
そりゃあ、遺伝的に違うのは分かるけど。どうあがいても無理って言われたような気がして、俺は少し苛立った。
「違うとか言うな。俺だって、お前より強くなれるんだからな!」
「へ、へえ。そうかよ。じゃあ、賭けるか?」
「何を?」
「貴族学校の入学式の日、俺と勝負しろよ。で、負けた方が勝った方の言うことを聞くこと」
「いいじゃん。受けて立つよ。……そうだな、期限は『卒業するまでずっと』だ」
横目で見てにやりと笑うと、パルミロは明らかに動揺していた。貴族学校の三年間、俺の下僕になることを考えて鳥肌が立ったんだろうな。ふふん。
「わ、分かった。……絶対に負けないからな!」
こうして、俺に一人、ライバルができた。
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