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学院編 8 期末試験を乗り越えろ
229 悪役令嬢は勉強会に誘われる
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「ここで泣いていても何も変わらないわ、アリッサ」
「マリナちゃん?」
「レイモンドに話を聞きましょう?私も付き合うから」
「……ほんと?」
「ええ。アイリーンは素晴らしいとか、寝言言ってたら一発殴ってもいい?」
「レイ様が痛いのは可哀想……ぐすっ」
「アリッサ、あなた……」
ざわざわ。
教室に残っていた生徒がざわめく。試験前の放課後は、授業が終わるとすぐに帰る生徒が多いが、普通科一年二組は真面目な生徒が多く、半数くらいの生徒が残って互いに勉強を教え合っていた。
「マリナさん、お兄様がいらっしゃったわよ」
「……あ、ありがとう」
呼びに来た女子生徒に礼を言い、マリナは教室のドアを見る。
満面の笑みで美しい義兄がこちらを見ている。
――終わったわ。勉強会は断ったはずなのに。
重苦しい気持ちで、鉛のように重い足どりでハロルドの方へ向かう。
「どうなさいましたの、お兄様」
「勉強会に誘いに来ました。マリナ。あなたとアリッサを」
「……アリッサ?」
「はい。……レイモンドは別の皆さんと勉強をしているようでして。私が使用申請をした自習室の隣で、王太子殿下やアレックスと」
「アリッサは自分で勉強するように言われたと言っていました。あえて誘わなかったのは何故なのでしょう」
「……一団の中にアイリーン・シェリンズがいるからでしょうか。我々の敵である彼女を、レイモンドが仲間に加えた理由は分かりかねますが、アリッサと同席させないのはせめてもの配慮なのではありませんか」
マリナには胸の中のもやもやを言い表す言葉が見つからなかった。レイモンドがアイリーンを誘い、セドリックやアレックスと一緒に勉強をしている。つまり、またセドリックはアイリーンに『魅了』されるかもしれないのだ。
「……嫌だわ」
「マリナ?」
ハロルドがマリナの呟きを聞き取れず、首を傾げて聞き返した時、廊下の端から何かが猛スピードで近づいてくる気配がした。咄嗟に身体を寄せて避けると、それはドアの傍の壁に激突して止まった。
ドォン!
「……ったたた」
「ジュリア!廊下を走ったら危ないわよ」
「先に『大丈夫?』とかないの?お・ね・え・さ・ま?」
「誰が言うものですか。それより、急いでいたんでしょう?行かなくていいの?」
「いいの!私が用事があったのは、マリナとアリッサなんだから!」
壁に強打した顔面を摩り、ジュリアは眉を上げて怒りを露わにした。
「アレックスなんか知らない!あんな奴、解答欄間違えて追試になればいいんだ!」
◆◆◆
剣技科の教室で、すっかり逆ハーレム状態でアスタシフォン語を勉強していたエミリーは、時計を見て驚いた。
――こんな時間!?ジュリアを待って一時間近く経ってるし。
傍らに座るレナードの袖を引く。
「……ねえ」
「何かな?エミリーちゃん」
すぐに掌に赤い魔法球を発生させる。
「ちゃん、ってつけたら燃やすって言ったわよね?」
「あ、ごめんごめん。で、何?」
魔法球を消して、エミリーはレナードにだけ聞こえる声で言った。
「ジュリアが来ないから帰る」
ガタ。
席を立とうとすると、近くに座っていた剣技科の生徒と、講師役のリオネルが声を上げた。
「帰るの?エミリー」
「……そう。ジュリア来ないから」
「明日もやるからまた来てね。帰国の前の日までは、皆に教えてく」
「分かった。気が向いたら来る」
急いで魔法科の教室へ戻ろうと、エミリーは底冷えのする廊下に出た。
夕方の校舎内は流石に冷えるのだ。
「もう十二月か……」
歩き出すとローブの中の腕輪がぶつかり合って音を立てる。
――早く渡さなきゃ。
人がいないところで転移魔法を発動させようと、中央棟へ向かって何歩か進み、普通科の教室から怒鳴り声が聞こえるのに気がついた。
――聞いたことがある声……って、ジュリア?
短絡思考の脳筋姉が、また馬鹿なことをしているに違いない。しかも、自分の教室ではなく普通科の教室で、だ。関わりたくはないが、妹として見過ごすわけにはいくまい。さっさと静寂と麻痺の魔法をかけて、寮の部屋に転移してしまおう。
黒いローブを翻し、エミリーは普通科一年の教室を目指した。
◆◆◆
「アレックスの奴、謝ってもぜえったい許してやんない!」
「ジュリアちゃん……」
廊下で騒いでいたジュリアの剣幕に、教室で泣いていたアリッサも廊下へ出てきた。ハロルドはやれやれと肩を竦めた。
「殿下と自習室にいるって聞いたから、開けたら……何していたと思う?」
「勉強……?」
「アイリーンと笑顔で話していたの!レイモンドもいたよ。殿下も、キースも。あいつらまとめてダメだ。明日から一緒に登校しないことにしよう?」
「よく確認もしないでダメだと決めつけるのはよくないわ、ジュリア」
「マリナも悔しくないの?また殿下がアイリーンにデレて、変になってもいいの?」
「よくないわよ、でもね……」
言いかけて、隣にハロルドがいたことを思い出す。
彼のねっとりとした視線を感じ、マリナは言葉を選ばなくてはと必死になった。セドリックを愛していると言ってしまえば、義兄がどれだけ病むか分かったものではない。
「……ジュリア、あなたも勉強会に参加しますか?」
「私も?」
「レイモンドが王太子殿下と勉強会を開くと聞いて、私はマリナを誘いに来たのです。アリッサはレイモンドから誘われませんでしたから、三人で勉強会をしようかと思っていました」
「そりゃ、兄様は成績がいいし、教えてもらえたらとは思うよ?剣技科の皆と勉強するのも限度があるし」
ジュリアが参加を迷っていると、衣擦れの音と靴音が聞こえた。
黒いローブのエミリーが、瞼を半分落とした状態でジュリアを見ていた。
「煩い声が向こうの校舎まで聞こえた」
「マリナちゃん?」
「レイモンドに話を聞きましょう?私も付き合うから」
「……ほんと?」
「ええ。アイリーンは素晴らしいとか、寝言言ってたら一発殴ってもいい?」
「レイ様が痛いのは可哀想……ぐすっ」
「アリッサ、あなた……」
ざわざわ。
教室に残っていた生徒がざわめく。試験前の放課後は、授業が終わるとすぐに帰る生徒が多いが、普通科一年二組は真面目な生徒が多く、半数くらいの生徒が残って互いに勉強を教え合っていた。
「マリナさん、お兄様がいらっしゃったわよ」
「……あ、ありがとう」
呼びに来た女子生徒に礼を言い、マリナは教室のドアを見る。
満面の笑みで美しい義兄がこちらを見ている。
――終わったわ。勉強会は断ったはずなのに。
重苦しい気持ちで、鉛のように重い足どりでハロルドの方へ向かう。
「どうなさいましたの、お兄様」
「勉強会に誘いに来ました。マリナ。あなたとアリッサを」
「……アリッサ?」
「はい。……レイモンドは別の皆さんと勉強をしているようでして。私が使用申請をした自習室の隣で、王太子殿下やアレックスと」
「アリッサは自分で勉強するように言われたと言っていました。あえて誘わなかったのは何故なのでしょう」
「……一団の中にアイリーン・シェリンズがいるからでしょうか。我々の敵である彼女を、レイモンドが仲間に加えた理由は分かりかねますが、アリッサと同席させないのはせめてもの配慮なのではありませんか」
マリナには胸の中のもやもやを言い表す言葉が見つからなかった。レイモンドがアイリーンを誘い、セドリックやアレックスと一緒に勉強をしている。つまり、またセドリックはアイリーンに『魅了』されるかもしれないのだ。
「……嫌だわ」
「マリナ?」
ハロルドがマリナの呟きを聞き取れず、首を傾げて聞き返した時、廊下の端から何かが猛スピードで近づいてくる気配がした。咄嗟に身体を寄せて避けると、それはドアの傍の壁に激突して止まった。
ドォン!
「……ったたた」
「ジュリア!廊下を走ったら危ないわよ」
「先に『大丈夫?』とかないの?お・ね・え・さ・ま?」
「誰が言うものですか。それより、急いでいたんでしょう?行かなくていいの?」
「いいの!私が用事があったのは、マリナとアリッサなんだから!」
壁に強打した顔面を摩り、ジュリアは眉を上げて怒りを露わにした。
「アレックスなんか知らない!あんな奴、解答欄間違えて追試になればいいんだ!」
◆◆◆
剣技科の教室で、すっかり逆ハーレム状態でアスタシフォン語を勉強していたエミリーは、時計を見て驚いた。
――こんな時間!?ジュリアを待って一時間近く経ってるし。
傍らに座るレナードの袖を引く。
「……ねえ」
「何かな?エミリーちゃん」
すぐに掌に赤い魔法球を発生させる。
「ちゃん、ってつけたら燃やすって言ったわよね?」
「あ、ごめんごめん。で、何?」
魔法球を消して、エミリーはレナードにだけ聞こえる声で言った。
「ジュリアが来ないから帰る」
ガタ。
席を立とうとすると、近くに座っていた剣技科の生徒と、講師役のリオネルが声を上げた。
「帰るの?エミリー」
「……そう。ジュリア来ないから」
「明日もやるからまた来てね。帰国の前の日までは、皆に教えてく」
「分かった。気が向いたら来る」
急いで魔法科の教室へ戻ろうと、エミリーは底冷えのする廊下に出た。
夕方の校舎内は流石に冷えるのだ。
「もう十二月か……」
歩き出すとローブの中の腕輪がぶつかり合って音を立てる。
――早く渡さなきゃ。
人がいないところで転移魔法を発動させようと、中央棟へ向かって何歩か進み、普通科の教室から怒鳴り声が聞こえるのに気がついた。
――聞いたことがある声……って、ジュリア?
短絡思考の脳筋姉が、また馬鹿なことをしているに違いない。しかも、自分の教室ではなく普通科の教室で、だ。関わりたくはないが、妹として見過ごすわけにはいくまい。さっさと静寂と麻痺の魔法をかけて、寮の部屋に転移してしまおう。
黒いローブを翻し、エミリーは普通科一年の教室を目指した。
◆◆◆
「アレックスの奴、謝ってもぜえったい許してやんない!」
「ジュリアちゃん……」
廊下で騒いでいたジュリアの剣幕に、教室で泣いていたアリッサも廊下へ出てきた。ハロルドはやれやれと肩を竦めた。
「殿下と自習室にいるって聞いたから、開けたら……何していたと思う?」
「勉強……?」
「アイリーンと笑顔で話していたの!レイモンドもいたよ。殿下も、キースも。あいつらまとめてダメだ。明日から一緒に登校しないことにしよう?」
「よく確認もしないでダメだと決めつけるのはよくないわ、ジュリア」
「マリナも悔しくないの?また殿下がアイリーンにデレて、変になってもいいの?」
「よくないわよ、でもね……」
言いかけて、隣にハロルドがいたことを思い出す。
彼のねっとりとした視線を感じ、マリナは言葉を選ばなくてはと必死になった。セドリックを愛していると言ってしまえば、義兄がどれだけ病むか分かったものではない。
「……ジュリア、あなたも勉強会に参加しますか?」
「私も?」
「レイモンドが王太子殿下と勉強会を開くと聞いて、私はマリナを誘いに来たのです。アリッサはレイモンドから誘われませんでしたから、三人で勉強会をしようかと思っていました」
「そりゃ、兄様は成績がいいし、教えてもらえたらとは思うよ?剣技科の皆と勉強するのも限度があるし」
ジュリアが参加を迷っていると、衣擦れの音と靴音が聞こえた。
黒いローブのエミリーが、瞼を半分落とした状態でジュリアを見ていた。
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