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学院編 8 期末試験を乗り越えろ
228 悪役令嬢とオーダーメイドの腕輪
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「……よし、完成だ」
魔法科教官室のマシューの部屋では、部屋の主ができあがったばかりの魔導具を手に、薄い唇の端を上げて満足そうな表情を浮かべていた。傍らの長椅子には、エミリーが肘掛に足を乗せ横になって魔法書を読んでいる。
「終わったの?」
パタン。
本を閉じる微かな音がする。
「ああ。……同じものを七つも作るのは、俺でも骨が折れた」
「マシューじゃなきゃできない。やってもらわないと困る」
テーブルの上には、金属製の細身の腕輪がカシャリと音を立てて置かれた。
「こんなにたくさん、何に使うんだ?できあがったら教えてやると言ったな」
「うん。……分かると思うけど、護身用よ」
「依頼はアイリーンの放つ魔法だけを徹底的に防御するように、だったが……」
エミリーは腕輪の一つを手に取ると、掌の上に乗せてもう一方の手で転がした。
「……身に付けると消えるのよね?」
「ああ。『鍵』になる魔法をかけた術者が『鍵』を解かなければ現れない。お前の腕輪と違って、本人が魔法を発動させても、腕輪の形態に変化はない」
無言で頷き、エミリーはマシューの手を引いた。
「!!」
何か言おうと彼が口を開くより早く、手首に腕輪をはめて魔法をかける。
「おい!俺につけてどうする!」
「元々一つはマシューの分」
彼の方を向くことなく、エミリーは残りの腕輪をローブの内ポケットに入れる。
「俺には必要ないだろう?アイリーンの魔法など……」
「それでも!不安なの!」
キッと睨んでしまった。マシューはビクッと身体を揺らし、潤んで赤くなったエミリーの紫色の瞳に見入った。
「……エミリー」
「アレックスも王太子も、アイリーンの『魅了』の魔法にかかった。どんな手を使っても、アイリーンは四人の心を自分のものにしようとしてるの」
「俺はお前以外に心を奪われたりしない。嘘だと思うなら、俺に『隷属』の魔法をかけろ」
低く囁くマシューの瞳は真剣だった。
――どういう意味か分かって言ってるの?
彼はエミリーに、自分の生殺与奪権を持たせようと言っているのだ。ヒロインを奪われて魔王になるような男だ。愛情がいちいち重いのは織り込み済みだが、面と向かって言われるとエミリーの心臓がうるさく高鳴った。
「……いいの?」
「ああ」
右手に紫色の魔法球を発生させて消す。
「……やめた。それより、ほら」
「うん?」
カツ。
エミリーの靴音が静かな室内に響く。やがてマシューの前で背伸びをして、一瞬だけ唇が触れるキスをした。
「私の腕輪を消さないと」
瞠目したマシューがフッと笑い、
「この程度で消えると思うか」
とエミリーの痩せた身体を抱き寄せ、貪るように口づけた。
◆◆◆
剣技科の教室の前に転移したエミリーは、一年の教室をおそるおそる覗いた。
「……いない」
チッ。
内心舌打ちしてしまう。
銀髪のジュリアと赤い髪のアレックスは、クラスの中にいれば目立つだろう。そうでなくともジュリアは唯一の女子だ。いれば必ず目を引く。
また来ようと背を向けた時、
「あれー?ジュリアちゃんの妹ちゃんだよね?」
と軽いノリの声がかけられた。振り返ると、ドアの縁に手をかけてこちらを見つめる猫目の男が、エミリーに向かってウインクした。
――うわ。関わりたくないタイプだわ。
「……そうだけど」
「魔法科のエミリーちゃんだよね?ジュリアちゃんに用かな」
――ちゃん付けするな!キモい!
エミリーは鳥肌が立ち、震えが止まらない。怯えていると思ったレナードは、顔を近づけて耳元で
「大丈夫、ここの連中は君を取って食ったりしないって」
と優しく囁いた。
ぞわわわわわ。
「……ジュリアは?」
「アレックスを探しに行ったよ。放課後も一緒に勉強しようって約束だったのに、あいつ、一人でどっか行ったみたいでさ」
「サボったんじゃない?」
「そうかもね。……ね、君も一緒に勉強しない?」
「は?」
エミリーの無表情な顔に影ができる。眉間に皺が寄った。
「俺らはこれからアスタシフォン語の復習をするんだ。なんと、講師にリオネル王子殿下を招いてね」
「ふうん」
「……あれ?興味ない?」
レナードはパチパチと目を瞬かせた。
「誰かと勉強する約束でもしてた?」
「してない」
「それなら一緒に勉強しようよ。すぐにジュリアちゃん達も戻ってくるから」
猫目を細めて人好きのする笑顔を向けてくる。
――悪い奴ではなさそう、よね。ジュリアの友達だし……。
何より、リオネルが教えるのなら、本場のアスタシフォン語だろう。試験でキースに負けない点数が取れるかもしれない。
「……」
「ね?」
エミリーが頷くと、レナードは思わずガッツポーズをした。
「ありがとう!これで皆の士気が上がるよ」
――勉強しながら待っててもいいかも。
安易に考えたエミリーは、教室に入ってあまりの男臭さに卒倒しそうになった。
◆◆◆
普通科の教室では、マリナがエミリーの涙を拭っていた。涙で目を真っ赤にし、鼻をぐずぐずさせているアリッサは、マリナの予備のハンカチも全て使ってしまった。
「えっ、ひっく、うう……」
「昼休みから泣き通しじゃないの。そろそろ落ち着いた?」
「無理ぃ……」
「何も、レイモンドがアイリーンに取られたと決まったわけでは」
「決まってるもん!ヒロインなんだよ?好きになっちゃうんだよ?」
「……レイモンドに直接確かめてもいないのに?」
「うう……レイ様ぁ……」
レイモンドの名前を聞いて再び泣き出したアリッサの背中を撫でながら、マリナはこっそり溜息をついた。
魔法科教官室のマシューの部屋では、部屋の主ができあがったばかりの魔導具を手に、薄い唇の端を上げて満足そうな表情を浮かべていた。傍らの長椅子には、エミリーが肘掛に足を乗せ横になって魔法書を読んでいる。
「終わったの?」
パタン。
本を閉じる微かな音がする。
「ああ。……同じものを七つも作るのは、俺でも骨が折れた」
「マシューじゃなきゃできない。やってもらわないと困る」
テーブルの上には、金属製の細身の腕輪がカシャリと音を立てて置かれた。
「こんなにたくさん、何に使うんだ?できあがったら教えてやると言ったな」
「うん。……分かると思うけど、護身用よ」
「依頼はアイリーンの放つ魔法だけを徹底的に防御するように、だったが……」
エミリーは腕輪の一つを手に取ると、掌の上に乗せてもう一方の手で転がした。
「……身に付けると消えるのよね?」
「ああ。『鍵』になる魔法をかけた術者が『鍵』を解かなければ現れない。お前の腕輪と違って、本人が魔法を発動させても、腕輪の形態に変化はない」
無言で頷き、エミリーはマシューの手を引いた。
「!!」
何か言おうと彼が口を開くより早く、手首に腕輪をはめて魔法をかける。
「おい!俺につけてどうする!」
「元々一つはマシューの分」
彼の方を向くことなく、エミリーは残りの腕輪をローブの内ポケットに入れる。
「俺には必要ないだろう?アイリーンの魔法など……」
「それでも!不安なの!」
キッと睨んでしまった。マシューはビクッと身体を揺らし、潤んで赤くなったエミリーの紫色の瞳に見入った。
「……エミリー」
「アレックスも王太子も、アイリーンの『魅了』の魔法にかかった。どんな手を使っても、アイリーンは四人の心を自分のものにしようとしてるの」
「俺はお前以外に心を奪われたりしない。嘘だと思うなら、俺に『隷属』の魔法をかけろ」
低く囁くマシューの瞳は真剣だった。
――どういう意味か分かって言ってるの?
彼はエミリーに、自分の生殺与奪権を持たせようと言っているのだ。ヒロインを奪われて魔王になるような男だ。愛情がいちいち重いのは織り込み済みだが、面と向かって言われるとエミリーの心臓がうるさく高鳴った。
「……いいの?」
「ああ」
右手に紫色の魔法球を発生させて消す。
「……やめた。それより、ほら」
「うん?」
カツ。
エミリーの靴音が静かな室内に響く。やがてマシューの前で背伸びをして、一瞬だけ唇が触れるキスをした。
「私の腕輪を消さないと」
瞠目したマシューがフッと笑い、
「この程度で消えると思うか」
とエミリーの痩せた身体を抱き寄せ、貪るように口づけた。
◆◆◆
剣技科の教室の前に転移したエミリーは、一年の教室をおそるおそる覗いた。
「……いない」
チッ。
内心舌打ちしてしまう。
銀髪のジュリアと赤い髪のアレックスは、クラスの中にいれば目立つだろう。そうでなくともジュリアは唯一の女子だ。いれば必ず目を引く。
また来ようと背を向けた時、
「あれー?ジュリアちゃんの妹ちゃんだよね?」
と軽いノリの声がかけられた。振り返ると、ドアの縁に手をかけてこちらを見つめる猫目の男が、エミリーに向かってウインクした。
――うわ。関わりたくないタイプだわ。
「……そうだけど」
「魔法科のエミリーちゃんだよね?ジュリアちゃんに用かな」
――ちゃん付けするな!キモい!
エミリーは鳥肌が立ち、震えが止まらない。怯えていると思ったレナードは、顔を近づけて耳元で
「大丈夫、ここの連中は君を取って食ったりしないって」
と優しく囁いた。
ぞわわわわわ。
「……ジュリアは?」
「アレックスを探しに行ったよ。放課後も一緒に勉強しようって約束だったのに、あいつ、一人でどっか行ったみたいでさ」
「サボったんじゃない?」
「そうかもね。……ね、君も一緒に勉強しない?」
「は?」
エミリーの無表情な顔に影ができる。眉間に皺が寄った。
「俺らはこれからアスタシフォン語の復習をするんだ。なんと、講師にリオネル王子殿下を招いてね」
「ふうん」
「……あれ?興味ない?」
レナードはパチパチと目を瞬かせた。
「誰かと勉強する約束でもしてた?」
「してない」
「それなら一緒に勉強しようよ。すぐにジュリアちゃん達も戻ってくるから」
猫目を細めて人好きのする笑顔を向けてくる。
――悪い奴ではなさそう、よね。ジュリアの友達だし……。
何より、リオネルが教えるのなら、本場のアスタシフォン語だろう。試験でキースに負けない点数が取れるかもしれない。
「……」
「ね?」
エミリーが頷くと、レナードは思わずガッツポーズをした。
「ありがとう!これで皆の士気が上がるよ」
――勉強しながら待っててもいいかも。
安易に考えたエミリーは、教室に入ってあまりの男臭さに卒倒しそうになった。
◆◆◆
普通科の教室では、マリナがエミリーの涙を拭っていた。涙で目を真っ赤にし、鼻をぐずぐずさせているアリッサは、マリナの予備のハンカチも全て使ってしまった。
「えっ、ひっく、うう……」
「昼休みから泣き通しじゃないの。そろそろ落ち着いた?」
「無理ぃ……」
「何も、レイモンドがアイリーンに取られたと決まったわけでは」
「決まってるもん!ヒロインなんだよ?好きになっちゃうんだよ?」
「……レイモンドに直接確かめてもいないのに?」
「うう……レイ様ぁ……」
レイモンドの名前を聞いて再び泣き出したアリッサの背中を撫でながら、マリナはこっそり溜息をついた。
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