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学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
158 悪役令嬢の作戦会議 11
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「やっばいよね……」
ジュリアの一言から、今日の作戦会議が始まった。
「お兄様ぐいぐい来てたね。マリナちゃんと殿下と一緒に登校なんて」
「暴走超特急」
「確かにね。暴走した原因は何なの?マリナ」
ジュリアが洗い髪をバサバサさせてマリナを見る。リリーに整えてもらうのも面倒なのだ。
「劇の出演者を変えたことと、男女入れ替えたことをお兄様に説明して、私達の作戦も少し教えて……」
「……バラした?」
「ダメだよマリナちゃん。あれはリオネル様と私達の秘密なんだから」
「そーそー。秘密の作戦を知らされて、ハリー兄様は喜んじゃったわけか」
「何で?」
「『私だけに打ち明けてくれたのですね、マリナ』とか言ったんだろうね。『二人だけの秘密ですね、ふふっ』とかさー」
ジュリアの物真似が予想以上に上手で、エミリーが腹を抱えて息を殺していた。
「ちょっと違うわ」
「同じようなもんでしょ?」
「否定はできないけど……」
義兄を遠ざけたつもりが、回りまわって親密さが増してしまった気がする。
「マリナちゃんを守らなきゃって思ったのかも。私みたいに、階段から突き落とされたら大変だって」
「どうせ兄様じゃ支えられなくない?脚が」
「それなんだけど、どうやらロン先生に治してもらえたらしいの」
「……意外とやるな」
「光魔法で一度治療した怪我は、それ以上よくならないのが普通なんでしょう?先生はすごいのね」
アリッサは本当に感心しているようだ。エミリーは怪訝そうに眉を顰める。
「何か、新しい魔術なのか……」
後でマシューに聞いてみよう、と一度納得した。
◆◆◆
「ねえ、皆、聞いてくれる?」
アリッサはか細い声で言い、姉妹を見た。
「ジュリアさんにどーんと相談してよ」
「……不安」
「どうしたの?」
「皆は、友達と好きな人が同じだったことってある?」
おずおずと話し出すと、ジュリアがきょとんとして首を傾げる。
「何。レイモンドに浮気でもされた?」
「ち、違うもん。レイ様は今日も優しかったもの」
「……フローラのことか」
ボソッとエミリーが呟くと、マリナが驚いた顔をする。
「フローラがレイモンドを好きだったの?知らなかったわ」
「直接聞いたわけではないの。でもね、二組の人が、フローラちゃんがレイ様を呼び出して告白してるって言ってたから……」
「へー」
「……どうでもいいなら話に噛んでくるな」
「ううん、ちょっとびっくり。ああいう子が、レイモンドみたいな腹黒が好きだなんてさ」
「私も驚いたわ。だってあのツンデレのレイモンドよ?」
「……ムッツリスケベの」
「三人とも酷いっ」
アリッサは目に涙を溜めた。愛しのレイモンドが酷い言われようだ。
「や、とにかくさ。レイモンドとフローラに直接聞いてみなって」
「……流石ジュリアはアホだな。気まずくて聞けるか」
「少なくともフローラには聞きにくいわよね。ジュリアはいつも単刀直入すぎるのよ」
「そうかなあ?」
「アレックスにペンダントもらって、腑抜けてるんじゃない?」
ジュリアの胸元には、赤い石が輝いている。
「どうでもいいけど、デザインが……」
「昔っぽいでしょ?」
「レトロすぎて突っ込めないわ。大げさな装飾も気になるし」
「これね。新しく宝石商から買ったんじゃないって。アレックスの家に伝わるものらしくてさ」
軽く胸を張る。三人はお互いに顔を見合わせた。
「失くさないように気をつけてね」
「分かってるって」
「アイリーンはどんな手で盗むか分からないわよ」
「ジュリア様が返り討ちにしてくれるわ!ははははは!」
ベッドに立ち上がり、剣で切り付ける真似をする。毎日鍛えているだけに、切れ味のいい動きである。
「ジュリアは絶対落としてくる……」
エミリーは窓の外を見て、魔力の気配を感じ、
「はあ」
と溜息を一つついた。またアイリーンは男子寮に魔法をかけるのだろうか。そこまでして事前投票で一位になりたいのか。信じられない。
「学院祭の『みすこん』は、今日の夜中に事前投票が締め切られるんだよね」
「ええ。そうよ。今日はかなり票が入ったようね」
「……大多数が、アイリーンに魔法で書かされていたの」
眉間に皺を寄せたエミリーが呟く。
「またなの?」
ジュリアは声を上げて、その場にうつ伏せに倒れた。
「選挙の時みたいな騒ぎは勘弁してよ」
「今回のは、全体にかけたから効果が薄い。効かない人も結構いる」
「そうね。レイ様や殿下は普通だったもの」
「あのアレックスでさえ、魔法にかからなかったのよ。恐れることはないわ」
あの、って何だ?とジュリアはマリナを横目で睨んだ。
「確かにアレックスの魔法耐性がものすごく弱いのは分かってることだけど、何か……簡単に魔法にかかる奴のダイメイジンみたいに言わなくてもいいじゃん」
「それを言うなら代名詞じゃない?」
「名人ってなあに?釣り名人とかキノコ採り名人とか?」
「アレックスなら野生の勘でキノコが採れるところに行けそうよね」
「……毒キノコか」
ジュリアを放置して三人は『アレックスがキノコ採りをしたら』という話題で盛り上がっていた。
「絶対赤に緑のぶち模様みたいな気持ち悪いのを採ってきそうよね」
「……分かる。焼いて食べそう」
「笑いが止まらなくなったりしてね、ふふ」
「ちょっと、皆っ!いい加減にしてよ!」
楽しい会話に夢中になったアリッサは、三角関係の不安をどこかへ飛ばしてしまい、エミリーはアイリーンの魔法の発動を気にも留めなくなっていた。
ジュリアの一言から、今日の作戦会議が始まった。
「お兄様ぐいぐい来てたね。マリナちゃんと殿下と一緒に登校なんて」
「暴走超特急」
「確かにね。暴走した原因は何なの?マリナ」
ジュリアが洗い髪をバサバサさせてマリナを見る。リリーに整えてもらうのも面倒なのだ。
「劇の出演者を変えたことと、男女入れ替えたことをお兄様に説明して、私達の作戦も少し教えて……」
「……バラした?」
「ダメだよマリナちゃん。あれはリオネル様と私達の秘密なんだから」
「そーそー。秘密の作戦を知らされて、ハリー兄様は喜んじゃったわけか」
「何で?」
「『私だけに打ち明けてくれたのですね、マリナ』とか言ったんだろうね。『二人だけの秘密ですね、ふふっ』とかさー」
ジュリアの物真似が予想以上に上手で、エミリーが腹を抱えて息を殺していた。
「ちょっと違うわ」
「同じようなもんでしょ?」
「否定はできないけど……」
義兄を遠ざけたつもりが、回りまわって親密さが増してしまった気がする。
「マリナちゃんを守らなきゃって思ったのかも。私みたいに、階段から突き落とされたら大変だって」
「どうせ兄様じゃ支えられなくない?脚が」
「それなんだけど、どうやらロン先生に治してもらえたらしいの」
「……意外とやるな」
「光魔法で一度治療した怪我は、それ以上よくならないのが普通なんでしょう?先生はすごいのね」
アリッサは本当に感心しているようだ。エミリーは怪訝そうに眉を顰める。
「何か、新しい魔術なのか……」
後でマシューに聞いてみよう、と一度納得した。
◆◆◆
「ねえ、皆、聞いてくれる?」
アリッサはか細い声で言い、姉妹を見た。
「ジュリアさんにどーんと相談してよ」
「……不安」
「どうしたの?」
「皆は、友達と好きな人が同じだったことってある?」
おずおずと話し出すと、ジュリアがきょとんとして首を傾げる。
「何。レイモンドに浮気でもされた?」
「ち、違うもん。レイ様は今日も優しかったもの」
「……フローラのことか」
ボソッとエミリーが呟くと、マリナが驚いた顔をする。
「フローラがレイモンドを好きだったの?知らなかったわ」
「直接聞いたわけではないの。でもね、二組の人が、フローラちゃんがレイ様を呼び出して告白してるって言ってたから……」
「へー」
「……どうでもいいなら話に噛んでくるな」
「ううん、ちょっとびっくり。ああいう子が、レイモンドみたいな腹黒が好きだなんてさ」
「私も驚いたわ。だってあのツンデレのレイモンドよ?」
「……ムッツリスケベの」
「三人とも酷いっ」
アリッサは目に涙を溜めた。愛しのレイモンドが酷い言われようだ。
「や、とにかくさ。レイモンドとフローラに直接聞いてみなって」
「……流石ジュリアはアホだな。気まずくて聞けるか」
「少なくともフローラには聞きにくいわよね。ジュリアはいつも単刀直入すぎるのよ」
「そうかなあ?」
「アレックスにペンダントもらって、腑抜けてるんじゃない?」
ジュリアの胸元には、赤い石が輝いている。
「どうでもいいけど、デザインが……」
「昔っぽいでしょ?」
「レトロすぎて突っ込めないわ。大げさな装飾も気になるし」
「これね。新しく宝石商から買ったんじゃないって。アレックスの家に伝わるものらしくてさ」
軽く胸を張る。三人はお互いに顔を見合わせた。
「失くさないように気をつけてね」
「分かってるって」
「アイリーンはどんな手で盗むか分からないわよ」
「ジュリア様が返り討ちにしてくれるわ!ははははは!」
ベッドに立ち上がり、剣で切り付ける真似をする。毎日鍛えているだけに、切れ味のいい動きである。
「ジュリアは絶対落としてくる……」
エミリーは窓の外を見て、魔力の気配を感じ、
「はあ」
と溜息を一つついた。またアイリーンは男子寮に魔法をかけるのだろうか。そこまでして事前投票で一位になりたいのか。信じられない。
「学院祭の『みすこん』は、今日の夜中に事前投票が締め切られるんだよね」
「ええ。そうよ。今日はかなり票が入ったようね」
「……大多数が、アイリーンに魔法で書かされていたの」
眉間に皺を寄せたエミリーが呟く。
「またなの?」
ジュリアは声を上げて、その場にうつ伏せに倒れた。
「選挙の時みたいな騒ぎは勘弁してよ」
「今回のは、全体にかけたから効果が薄い。効かない人も結構いる」
「そうね。レイ様や殿下は普通だったもの」
「あのアレックスでさえ、魔法にかからなかったのよ。恐れることはないわ」
あの、って何だ?とジュリアはマリナを横目で睨んだ。
「確かにアレックスの魔法耐性がものすごく弱いのは分かってることだけど、何か……簡単に魔法にかかる奴のダイメイジンみたいに言わなくてもいいじゃん」
「それを言うなら代名詞じゃない?」
「名人ってなあに?釣り名人とかキノコ採り名人とか?」
「アレックスなら野生の勘でキノコが採れるところに行けそうよね」
「……毒キノコか」
ジュリアを放置して三人は『アレックスがキノコ採りをしたら』という話題で盛り上がっていた。
「絶対赤に緑のぶち模様みたいな気持ち悪いのを採ってきそうよね」
「……分かる。焼いて食べそう」
「笑いが止まらなくなったりしてね、ふふ」
「ちょっと、皆っ!いい加減にしてよ!」
楽しい会話に夢中になったアリッサは、三角関係の不安をどこかへ飛ばしてしまい、エミリーはアイリーンの魔法の発動を気にも留めなくなっていた。
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