上 下
209 / 794
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会

60 ヒロインは小躍りしたくなる

しおりを挟む
【アイリーン視点】

学院長の頭が固いのには、怒りを通り越して呆れたわ。
悪いのはハーリオンだって何度言っても、私を生徒会会計にするって決めないのよ。
投票をしていないから結果がわからないだの何だのって。
騒動を巻き起こしたハーリオンが不適格なのは誰が見たって分かるはず。
あの爺さんにも魅了の魔法をかけておけばよかったわ。

演説は我ながら完璧だった。
それより完璧だったのは、アレックスの演説よ。
魅了の魔法の発動も、タイミングがよかったもの。
アレックスが「ジュリア・ハーリオンに一票を!」って言った時には、思わず顔がにやけてしまったわ。単純馬鹿だから、原稿を一字一句間違えずに丸暗記してきたのね。
彼には後でお礼をしないといけないかしら?

ジュリアとエミリーが先生に呼ばれた。
エミリーはドウェイン先生が尋問したと聞いて、何もかも狙い通りすぎて小躍りしそうだった。
三属性しか持たないモブ男のくせに、マシューに勝手に敵対心を持っているドウェイン先生が、ライバルを蹴落とすために愛弟子であるエミリーの失態を利用するのは明らかだったもの。マシューが放った魔法が無効化の闇魔法だと気づいていても、光魔法を使えないエミリーを問い詰めたんでしょうね。
ああ、あの能面女が泣きべそでもかいたのかと思うと、胸がすっとするわ。
「マシュー先生がエミリーさんを特別扱いするんですぅ」
って泣きついておいて正解だったわね。

   ◆◆◆

演説の翌朝、エミリーは何事もなかったかのように、キースを侍らせて教室に現れた。
――あら?
微かにエミリーから異質な魔力の波動を感じる。
「つらくありませんか、エミリーさん」
キース・エンウィが何かと世話を焼きたがっている。
「問題ない」
言ってる傍から顔色が真っ青よ。……具合が悪いなら帰って寝てろっての!
「こんな様子では、一時間目の魔法実技は乗り切れないかもしれませんね」
「……実技が、一時間目?」
エミリーが瞠目して固まった。

そうか、先生に呼ばれて教室にいなかったから、知らなかったのね。
昨日の帰りに時間割の変更が告げられていたのに。
他の教科の教科書も忘れてきたんでしょうね。いい気味だわ。

景色を見るふりをして観察していると、エミリーは細かく震えているようだった。
実技の時間以外は寝ているくせに、実技も嫌になったんなら、退学したほうがあんたのためよ?

「ねえ、キース。私、具合が悪いから、教室に残る……」
「分かりました。先生には僕から言っておきます」
「ありがとう」
ふーん。
いいこと聞いちゃった。
今日は邪魔者がいないってことよね?
思う存分マシューを独占して、私の虜にしてやるんだから。
何と言ったって、私が「永遠に枯れない薔薇を君に」、通称「とわばら」の主人公なんだもの。
魅了の魔法が使えない相手だって、絶対攻略できるはずよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

処理中です...