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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!

57 悪役令嬢は美女に尋問される

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ドン!
ノックの代わりにドアに何かがぶつかる音がし、マリナ達ははっと目を向けた。
アレックスがドアを壊さんばかりの勢いで生徒会室に飛び込んできた。続いて、倒れこむようにしてキースが入ってくる。普段体力をつけていない彼は、アレックスに引きずられて走らされたらしい。
「大変だ!ジュリアが!」
「知っている。少し落ち着け」
レイモンドが冷たく言い放つ。
「気ばかり焦っても何の解決にもならないぞ」
「レイモンドさんは、アリッサが先生に連れて行かれても、同じことを言えるんですか!」
「アリッサは先生に呼ばれるような問題を起こさないからな」
くっ、とアレックスが俯いた。
「ジュリアとエミリーが今回の件に関与していないと、僕達からも説明はしたんだよ。……聞き入れてもらえなかったけれどね」
セドリックが優しく宥めるように言うと、アレックスは渋々頷いた。
「申し訳ありません、殿下」
「何を謝ることがあるんだい?」
「あの時、舞台に押し寄せてきた奴らは、俺の言葉に反応していたんです。ハーリオンに一票を、と」
がっくりと肩を落とすアレックスの背中をキースが撫でた。
「あれは防ぎようがありません。君でなくても、誰かが同じセリフを言えば、それが合図となって彼らは動き出したでしょう」
全員がキースに注目した。
「何か知ってるの?キース君」
アリッサが首を傾げる。無垢な可愛らしさに、隣にいたレイモンドが緩んだ口元を手で覆っている。
「……魅了の魔法を、本で調べて使っていました」
「何だって?使う?」
セドリックがこれでもかというほど食いついた。
「魅了の魔法と言ったな。それはどんな魔法なんだ?誰でも使えるのか?」
「で、殿下!?……魅了の魔法と申しますのは……」

続きを急かされながらキースは説明を終えた。
目を輝かせて聞いていたセドリックと、魔法の話がよく分からないアレックス以外は、実に淡々とした反応だった。
「魅了の魔法には、相手を暗示にかける効果があるのね」
「はい。術者を気に入る他に、彼または彼女の言うことは絶対だと信じてしまうのです」
「そっか……だから俺もジュリアを悪い奴だと思い込んでいたんだな」
アレックスが独り言を言った。彼なりに納得がいったらしい。
「彼らに魔法をかけ、『ハーリオンに一票を』と言ったら動き出すよう指示をしていたに違いありません。選挙の演説で投票を求めるのは自然なことですから」
「ジュリアやエミリーが魔法を使ったように見せかけ、陥れて得をする人物は、俺が考えるに一人しかいないが」
レイモンドが中指で眼鏡を押し上げた。
「決まってるじゃないか。彼女だよ、魔法科のピンクの髪の」
「俺に魔法をかけた女か……」
「アイリーン・シェリンズ。あの女は危険だな」
「私達だけではなくて、全校生徒にとってもよ」

   ◆◆◆

「ふう……あなたは本当に知らないのね」
フィービー先生は長い脚を組み換えジュリアを見つめた。鋭い視線が嘘を見抜こうとしている。他の先生に頼まれて、尋問を繰り返していたものの、完全に疲れきっている。
「嘘じゃないです。私、魔法は全然ダメで、家庭教師にも見放されてました」
「だから、あなたがエミリーに頼んだのかと思ったのよ?……あ、私じゃなく、他の先生方はね」
「頼むにしても、もう少しうまいやり方があると思うんです」
五属性を操る魔導士のエミリーは、魔法科以外の教師にも知られている。計り知れない能力を持つと恐れられている。
「投票させるだけなら、舞台の前に集まらなくてもいいかな、と思いませんか」
先生は何度も頷いている。一応理解はしてもらえているようだ。
「確かにね。あれではただ混乱するだけよね。私も意味が分からないなとは思ったのよ」
「ですよね」
「……ねえ、ジュリアさん」
「はい」
返事をするとフィービー先生はずいっとジュリアに顔を近づけた。
「あなたは真犯人の心当たりはないの?」
部屋の外に聞こえないように小さな声で尋ねられる。
「私だけに教えてくれないかしら?」

   ◆◆◆

「失礼します」
「どーぞ」
ノックの音と落ち着きはらった声に、医務室の魔導士ロンが返事をした。
静かに開いたドアから、マクシミリアンが入ってくる。
「あら、生徒会の子じゃないの」
「書記で二年のベイルズです。コーノック先生がこちらに運ばれたと聞いて」
ロンがカーテンで囲われたベッドを振り返る。
「まだ寝てるよ。全校生徒相手に魔法を使ったのは、相当こたえたみたい」
「魔力の消耗が回復するには、かなり時間がかかるでしょうか」
「んー。どうだろうねえ。何、用事があるの?」

マクシミリアンが選挙の顛末を話し、ロンは黙って聞いていた。
「生徒達が操られた魔法が何なのか、あんたたち生徒会はマシューに訊ねたいと」
「はい。コーノック先生が放った魔法で混乱が収まりました。つまり、先生はあの場で魔法が何か気づいておられたと思うのです」
「さっきのあんたの話だと、マシューは闇魔法を使ったようね。闇魔法で相殺できるとなると、多分、生徒達は光属性の魔力に操られていたってことに……」
「おい」
ベッドのカーテンが揺れて、合わせ目から黒いローブが見えた。
「起きたの?マシュー」
「今の話、本当か?」
「話、と言いますと?」
聞き返したマクシミリアンを赤い瞳が睨んだ。誰が見ても苛立っているのが分かる。
「エミリーが生徒指導室へ連れて行かれたと」
「はい。レイモンド副会長によりますと、魔法科のドウェイン先生が話を聞いているそうです」
「……あいつか」
「生徒会ではコーノック先生にお話を……あっ、お待ちを!」
ローブを翻して医務室を出て行くマシューをマクシミリアンが追いかけた。二人の背中に手を振りながら、ロンは愉しそうに口を歪めた。

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