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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
23 悪役令嬢の作戦会議 4
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ジュリアが寮の部屋に入ると、マリナはリリーが淹れた紅茶を飲み、窓の外を見てぼんやりしていた。
「ただいまっ」
「早かったのね、ジュリア」
「今日は練習しなかったの。アレックスが生徒会室で捕まってさ」
「そう」
マリナはまるで興味がなさそうだ。
「ねえ、休み時間にセドリック殿下と熱烈なキスしたって本当なの?」
紅茶を一口飲み、マリナは大きく息を吐き出した。
「本当よ。その後殿下の部屋に消えたっていうのは嘘だけどね」
「ねえ、何で?殿下の教室に行って何があったのさ」
「ジュリアは昨日の魔法事故の噂を聞いた?」
「エミリーの件?」
「普通科一年の隣のクラスでは、エミリーがアイリーンを魔法で襲ったことにされているのよ」
「嘘に決まってるじゃん!」
ジュリアはテーブルを叩いた。美しい模様が描かれたティーセットがカシャンと音を立てる。
「嘘よ。誰かが意図的に流した、ハーリオン家令嬢の悪い噂よ」
「……アイリーンが?」
「分からないわ。ヒロインは魔法科だもの。フローラも噂の発生源は突き止められなかったって。それで、噂を消すには噂を作るしかないと思ったのよ」
「程度ってものがあるでしょ」
「私だって、キスされるとは思っていなかったわよ!」
マリナは真っ赤になって拗ね始めた。
「腰が砕けたって本当?よっぽど凄かったんだねー」
「うるさい!」
バシッ。
腕を平手打ちされ、ジュリアはキャッキャッと喜んだ。
「ねえ、マリナ」
姉の方へ身体を向け、ジュリアは真剣な眼差しで話し出した。
「ゲームの物語はどこまで再現されると思う?私達はゲームの悪役令嬢とは違う。あんな嫌な女にならないように努力してきたよね。それでも、誰かが私達を悪役にしようと企んでいたら、バッドエンドは回避できないのかな」
少しの沈黙が流れた。マリナは下を向いたままだ。
「……私も、少し思い始めていたわ」
「マリナも?」
「エミリーの悪い噂といい、私をふしだらだと言う噂といい、単純なゴシップじゃないわ。必ず悪意のある誰かによって、細部が書き換えられているようね。アイリーンが全てを握っているとは思えないし、協力者がいる可能性も考えられるわ」
「ハーリオン侯爵令嬢を貶めるために?」
「ええ。敵は多分、アイリーン一人じゃないわ。アリッサとエミリーが戻ったら、一度四人で作戦を立てましょう」
マリナが考え込んでいる隣で、ジュリアはケーキに手を伸ばした。
食堂で夕食を取った四人は、一人ぼっちで歩くアイリーンを遠くから眺め、関わらないようにゆっくりと部屋に戻った。
「はー。今日も終わったねー」
ジュリアがベッドに身体を投げ出した。
「ベッドに入るのは入浴してからにしなさいよ」
「ジュリア、汗臭い」
エミリーが嫌そうな顔をし、瞬間移動して離れる。
「魔法使って離れることないじゃんか」
「身だしなみは大切だよ?……あ、ここ髪ほつれてるよ」
「アリッサ、エミリー、ちょっといいかしら?」
テーブルセットの天板を叩き、三人の注目を集める。
「寝る準備ができたら、本気で作戦会議をしたいと思うんだけど、どう?」
「いいね」
「……賛成」
「ジュリアもいいわよね?」
「勿論。言いたいことがいっぱいあるよ」
小さく笑ってマリナは三人と順に視線を合わせた。
◆◆◆
「今日の議題は、私達を貶める悪意ある噂について。それから、この先起こるイベントで注意しなければいけないことについて」
「エミリーちゃんは噂を知ってるの?」
「誰の?」
「エミリーちゃんがヒロインを魔法でやっつけようとした話と、マリナちゃんが王太子殿下にキスをおねだりした話?」
「ねだってないわよ」
マリナのこめかみに青筋が走る。
「魔法……結界張っただけ。マシューが止めた」
エミリーの眉間に皺が寄る。
「変ね?マリナちゃん、気づいた?」
「何に?」
「エミリーちゃんは自分の噂を知らなかったでしょう?てことは、噂の元は魔法科じゃないってことだよね」
「ああ、そっかー!」
激しく頷いたジュリアが、アリッサの肩を掴む。
「噂を流してるのは普通科ってことか。剣技科は男ばかりで噂話が伝わらないから」
「ヒロインじゃ、ない?」
テーブルに肘をつき口元に手を当てて、エミリーがぼそりと呟く。
「そうなんでしょうね。アイリーンがどの程度関わっているかは別にして、普通科の、フローラがいるクラスに噂の発生源がある、と思うわ」
「今のところ、ハーリオン侯爵令嬢を貶める噂しか流れていないよね」
「アイリーンを持ち上げる噂が流れたら、奴の仕業だって証拠になるんだけどなー。犯人だって証拠に欠けるから、こっちから手が打てないよ」
頭を掻きむしり、ジュリアの髪が爆発している。折角リリーが整えたのに台無しである。
「二組のフローラちゃんが犯人を見つけてくれると思う」
「そのコ、信用して大丈夫?」
「こっちが信じないと、相手にも信じてもらえないもの。私はフローラちゃんを悪い人だって思えないし、マリナちゃんに新しい噂のネタを作るように言ったのも、悪気があってのことじゃないと思う」
「……結果は最悪」
「ええ、その通りよ。殿下は頭に花が咲いたままだし、生徒会の仕事はおろか授業もまともにできないでしょうね。副会長の仕事についてレイモンドから説明を受けたけど、明日からが思いやられるわ」
「副会長?」
「ジュリアちゃん知らなかったの?生徒会長を務めている殿下の推薦で、マリナちゃんは副会長になることが決まってるの」
「マジで?まだ一年でしょうが」
「殿下も一年生から会長だったからって押し切られて、ね?」
「それで、殿下が卒業された後は、私が会長になるんですってよ」
諦めたように言い、マリナが肩を竦める。
「ヒロインが生徒会に入るチャンスを根こそぎ奪ってるんじゃ……」
「……恨まれる」
「危険なことには変わりないよね。ゲームの中でも一年生で生徒会に入るには、王太子殿下かレイ様の好感度がある程度ないとダメなの」
「入学して一か月でそこまで上げるの、無理じゃね?」
「うん。普通は難しいんだけど、ゲームではエンディングを何度か見ると、スタート時のパラメーターが上がるような設定になっているの。殿下のエンディングなら全パラメーターが少しずつ、レイ様なら学力、アレックス君なら運動、マシュー先生なら魔法ね。それで、好感度の初期値もクリア回数によって上がっていて……」
「二回目以降の攻略難易度が下がっていく、と……」
マリナが神妙な顔で呟いた。
「レイ様は一年しか学院にいないでしょう?その間にエンディングを迎えるには生徒会に入っておかないといけないの。好感度が急上昇する重要なイベントを取りこぼしちゃうのよ。ノーマルエンドでも何でもいいから、レイ様のルートに入ってエンディングを迎えて、初期値を上げていくと一年生でも生徒会に入れるわ。そうでもなければ、とにかくレイ様に会ってお話しするしかなくて」
アリッサはレイモンドルートを熟知している。彼の推薦で生徒会に入るために、何度もリロードして傾向と対策を練ったものだった。
「今回で一回目じゃん。好感度なんでゼロみたいなもんでしょ?」
楽勝、とジュリアがガッツポーズをする。
「会って、話す?」
アイリーンは何度レイモンドに会っているのだろうか。
「ストーカー?」
「だよね。付きまとわなきゃ話すチャンスなんてないよね、三年生だもん」
アリッサは首を振った。
「ううん。付きまとわなくてもいいの。私も何回かやってて気づいたんだけど、昼休みと放課後にレイ様が現れる場所には規則性があってね、無駄足にならないように動けたの」
「ヒロインが知っている可能性は?」
「あると思うわ。四人いるハーリオン侯爵令嬢を見て驚いたり、紹介されていないマシューを知っていたり、元の話を知らなければ考えられないことよ。それなりにやりこんできたと見て間違いないわ……ねえ、アリッサ」
「なあに?」
「昼休みと放課後、レイモンドから離れないようにしてね。アイリーンが付け入る隙を与えてはいけないわ」
「うん!頑張る!」
両手を握りこぶしにして、アリッサは深く頷いた。
「……噂の話は?」
エミリーが眠そうにしている。話を戻さないと寝てしまいそうだ。
「噂の元は私とアリッサで突き止めるわ」
「これから起こるイベントって言うと、とりあえず、生徒会の選挙かなあ?」
「キースが立候補する」
「そうなの?」
「……レイモンドが出ろって言った」
「残りの役職は書記一名と会計一名だけよ」
「一人はキースで決まり。じゃあ、残り一人にヒロインが入ってくるわけ?」
「当選するように何か仕掛けてくるでしょうね」
「誰か立候補させないと、無投票で決まっちゃうよ」
「アレックスはやりたくないってさ。放課後は練習だもん。どうしたもんか……」
腕組みをしたジュリアの横で、エミリーがはっとする。
「……あ」
「何か思い出したの?」
「マシューが言ってた。アイリーンが魅了の魔法を使ってるって」
「本当に?」
マリナが掴みかかる。エミリーが少し仰け反って戻る。
「何人か魔法にかかってる。マシューが無効化しても間に合うか……」
「魅了の魔法ねえ……かかった生徒は間違いなくアイリーンに投票するでしょうね」
「そんなのずるいよぉ」
「……生徒会選挙法違反で捕まればいいのに」
「私達が表立って糾弾すると、悪役令嬢そのものだもんね」
「しばらく様子を見ましょうか。情勢が怪しくなったら、魔法科の先生方にご相談するとして」
にこっ。
ゾクッ。
「……悪寒が」
「どうしたの、エミリーちゃん」
「魅了の魔法について詳しいのはマシュー先生でしょう?エミリーが聞けば教えてくれるわよね」
にこっ。
ビクッ。
「……笑顔で凄まないで」
「魅了の魔法の調査は任せたわよ、エミリー。逆ハーレム狙いのアイリーンを、生徒会に入れないように頑張りましょう。レイモンドを一年で攻略できなかったら、ヒロインの目論見は崩れるわ」
「よおし、皆頑張ってね!」
「ジュリアも」
「私?」
「魅了の魔法、アレックスがかけられるかも」
そう言ってエミリーがフッと笑うと、ジュリアの顔色が変わった。
「ただいまっ」
「早かったのね、ジュリア」
「今日は練習しなかったの。アレックスが生徒会室で捕まってさ」
「そう」
マリナはまるで興味がなさそうだ。
「ねえ、休み時間にセドリック殿下と熱烈なキスしたって本当なの?」
紅茶を一口飲み、マリナは大きく息を吐き出した。
「本当よ。その後殿下の部屋に消えたっていうのは嘘だけどね」
「ねえ、何で?殿下の教室に行って何があったのさ」
「ジュリアは昨日の魔法事故の噂を聞いた?」
「エミリーの件?」
「普通科一年の隣のクラスでは、エミリーがアイリーンを魔法で襲ったことにされているのよ」
「嘘に決まってるじゃん!」
ジュリアはテーブルを叩いた。美しい模様が描かれたティーセットがカシャンと音を立てる。
「嘘よ。誰かが意図的に流した、ハーリオン家令嬢の悪い噂よ」
「……アイリーンが?」
「分からないわ。ヒロインは魔法科だもの。フローラも噂の発生源は突き止められなかったって。それで、噂を消すには噂を作るしかないと思ったのよ」
「程度ってものがあるでしょ」
「私だって、キスされるとは思っていなかったわよ!」
マリナは真っ赤になって拗ね始めた。
「腰が砕けたって本当?よっぽど凄かったんだねー」
「うるさい!」
バシッ。
腕を平手打ちされ、ジュリアはキャッキャッと喜んだ。
「ねえ、マリナ」
姉の方へ身体を向け、ジュリアは真剣な眼差しで話し出した。
「ゲームの物語はどこまで再現されると思う?私達はゲームの悪役令嬢とは違う。あんな嫌な女にならないように努力してきたよね。それでも、誰かが私達を悪役にしようと企んでいたら、バッドエンドは回避できないのかな」
少しの沈黙が流れた。マリナは下を向いたままだ。
「……私も、少し思い始めていたわ」
「マリナも?」
「エミリーの悪い噂といい、私をふしだらだと言う噂といい、単純なゴシップじゃないわ。必ず悪意のある誰かによって、細部が書き換えられているようね。アイリーンが全てを握っているとは思えないし、協力者がいる可能性も考えられるわ」
「ハーリオン侯爵令嬢を貶めるために?」
「ええ。敵は多分、アイリーン一人じゃないわ。アリッサとエミリーが戻ったら、一度四人で作戦を立てましょう」
マリナが考え込んでいる隣で、ジュリアはケーキに手を伸ばした。
食堂で夕食を取った四人は、一人ぼっちで歩くアイリーンを遠くから眺め、関わらないようにゆっくりと部屋に戻った。
「はー。今日も終わったねー」
ジュリアがベッドに身体を投げ出した。
「ベッドに入るのは入浴してからにしなさいよ」
「ジュリア、汗臭い」
エミリーが嫌そうな顔をし、瞬間移動して離れる。
「魔法使って離れることないじゃんか」
「身だしなみは大切だよ?……あ、ここ髪ほつれてるよ」
「アリッサ、エミリー、ちょっといいかしら?」
テーブルセットの天板を叩き、三人の注目を集める。
「寝る準備ができたら、本気で作戦会議をしたいと思うんだけど、どう?」
「いいね」
「……賛成」
「ジュリアもいいわよね?」
「勿論。言いたいことがいっぱいあるよ」
小さく笑ってマリナは三人と順に視線を合わせた。
◆◆◆
「今日の議題は、私達を貶める悪意ある噂について。それから、この先起こるイベントで注意しなければいけないことについて」
「エミリーちゃんは噂を知ってるの?」
「誰の?」
「エミリーちゃんがヒロインを魔法でやっつけようとした話と、マリナちゃんが王太子殿下にキスをおねだりした話?」
「ねだってないわよ」
マリナのこめかみに青筋が走る。
「魔法……結界張っただけ。マシューが止めた」
エミリーの眉間に皺が寄る。
「変ね?マリナちゃん、気づいた?」
「何に?」
「エミリーちゃんは自分の噂を知らなかったでしょう?てことは、噂の元は魔法科じゃないってことだよね」
「ああ、そっかー!」
激しく頷いたジュリアが、アリッサの肩を掴む。
「噂を流してるのは普通科ってことか。剣技科は男ばかりで噂話が伝わらないから」
「ヒロインじゃ、ない?」
テーブルに肘をつき口元に手を当てて、エミリーがぼそりと呟く。
「そうなんでしょうね。アイリーンがどの程度関わっているかは別にして、普通科の、フローラがいるクラスに噂の発生源がある、と思うわ」
「今のところ、ハーリオン侯爵令嬢を貶める噂しか流れていないよね」
「アイリーンを持ち上げる噂が流れたら、奴の仕業だって証拠になるんだけどなー。犯人だって証拠に欠けるから、こっちから手が打てないよ」
頭を掻きむしり、ジュリアの髪が爆発している。折角リリーが整えたのに台無しである。
「二組のフローラちゃんが犯人を見つけてくれると思う」
「そのコ、信用して大丈夫?」
「こっちが信じないと、相手にも信じてもらえないもの。私はフローラちゃんを悪い人だって思えないし、マリナちゃんに新しい噂のネタを作るように言ったのも、悪気があってのことじゃないと思う」
「……結果は最悪」
「ええ、その通りよ。殿下は頭に花が咲いたままだし、生徒会の仕事はおろか授業もまともにできないでしょうね。副会長の仕事についてレイモンドから説明を受けたけど、明日からが思いやられるわ」
「副会長?」
「ジュリアちゃん知らなかったの?生徒会長を務めている殿下の推薦で、マリナちゃんは副会長になることが決まってるの」
「マジで?まだ一年でしょうが」
「殿下も一年生から会長だったからって押し切られて、ね?」
「それで、殿下が卒業された後は、私が会長になるんですってよ」
諦めたように言い、マリナが肩を竦める。
「ヒロインが生徒会に入るチャンスを根こそぎ奪ってるんじゃ……」
「……恨まれる」
「危険なことには変わりないよね。ゲームの中でも一年生で生徒会に入るには、王太子殿下かレイ様の好感度がある程度ないとダメなの」
「入学して一か月でそこまで上げるの、無理じゃね?」
「うん。普通は難しいんだけど、ゲームではエンディングを何度か見ると、スタート時のパラメーターが上がるような設定になっているの。殿下のエンディングなら全パラメーターが少しずつ、レイ様なら学力、アレックス君なら運動、マシュー先生なら魔法ね。それで、好感度の初期値もクリア回数によって上がっていて……」
「二回目以降の攻略難易度が下がっていく、と……」
マリナが神妙な顔で呟いた。
「レイ様は一年しか学院にいないでしょう?その間にエンディングを迎えるには生徒会に入っておかないといけないの。好感度が急上昇する重要なイベントを取りこぼしちゃうのよ。ノーマルエンドでも何でもいいから、レイ様のルートに入ってエンディングを迎えて、初期値を上げていくと一年生でも生徒会に入れるわ。そうでもなければ、とにかくレイ様に会ってお話しするしかなくて」
アリッサはレイモンドルートを熟知している。彼の推薦で生徒会に入るために、何度もリロードして傾向と対策を練ったものだった。
「今回で一回目じゃん。好感度なんでゼロみたいなもんでしょ?」
楽勝、とジュリアがガッツポーズをする。
「会って、話す?」
アイリーンは何度レイモンドに会っているのだろうか。
「ストーカー?」
「だよね。付きまとわなきゃ話すチャンスなんてないよね、三年生だもん」
アリッサは首を振った。
「ううん。付きまとわなくてもいいの。私も何回かやってて気づいたんだけど、昼休みと放課後にレイ様が現れる場所には規則性があってね、無駄足にならないように動けたの」
「ヒロインが知っている可能性は?」
「あると思うわ。四人いるハーリオン侯爵令嬢を見て驚いたり、紹介されていないマシューを知っていたり、元の話を知らなければ考えられないことよ。それなりにやりこんできたと見て間違いないわ……ねえ、アリッサ」
「なあに?」
「昼休みと放課後、レイモンドから離れないようにしてね。アイリーンが付け入る隙を与えてはいけないわ」
「うん!頑張る!」
両手を握りこぶしにして、アリッサは深く頷いた。
「……噂の話は?」
エミリーが眠そうにしている。話を戻さないと寝てしまいそうだ。
「噂の元は私とアリッサで突き止めるわ」
「これから起こるイベントって言うと、とりあえず、生徒会の選挙かなあ?」
「キースが立候補する」
「そうなの?」
「……レイモンドが出ろって言った」
「残りの役職は書記一名と会計一名だけよ」
「一人はキースで決まり。じゃあ、残り一人にヒロインが入ってくるわけ?」
「当選するように何か仕掛けてくるでしょうね」
「誰か立候補させないと、無投票で決まっちゃうよ」
「アレックスはやりたくないってさ。放課後は練習だもん。どうしたもんか……」
腕組みをしたジュリアの横で、エミリーがはっとする。
「……あ」
「何か思い出したの?」
「マシューが言ってた。アイリーンが魅了の魔法を使ってるって」
「本当に?」
マリナが掴みかかる。エミリーが少し仰け反って戻る。
「何人か魔法にかかってる。マシューが無効化しても間に合うか……」
「魅了の魔法ねえ……かかった生徒は間違いなくアイリーンに投票するでしょうね」
「そんなのずるいよぉ」
「……生徒会選挙法違反で捕まればいいのに」
「私達が表立って糾弾すると、悪役令嬢そのものだもんね」
「しばらく様子を見ましょうか。情勢が怪しくなったら、魔法科の先生方にご相談するとして」
にこっ。
ゾクッ。
「……悪寒が」
「どうしたの、エミリーちゃん」
「魅了の魔法について詳しいのはマシュー先生でしょう?エミリーが聞けば教えてくれるわよね」
にこっ。
ビクッ。
「……笑顔で凄まないで」
「魅了の魔法の調査は任せたわよ、エミリー。逆ハーレム狙いのアイリーンを、生徒会に入れないように頑張りましょう。レイモンドを一年で攻略できなかったら、ヒロインの目論見は崩れるわ」
「よおし、皆頑張ってね!」
「ジュリアも」
「私?」
「魅了の魔法、アレックスがかけられるかも」
そう言ってエミリーがフッと笑うと、ジュリアの顔色が変わった。
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