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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
16 悪役令嬢は指導教官を発表される
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「まだ具合が悪そうですよ。今日は休んだほうが良かったのでは……」
一時間目の後の休み時間。キースは心配してエミリーの席にやってきた。
「大丈夫。さっきの時間寝てたから」
「うーん……」
それでいいのだろうかとキースは困った顔をしている。
「魔力が回復したように見えません。次の魔法実技の時間は欠席してもいいと思いますよ。先生も分かってくださいます」
「嫌。出る」
エミリーは魔法実技の時間が最も楽しみだった。魔法実技の授業に全力を注ぐため、他の授業中は回復時間になっており全く身が入らない。
「……強情な人だ。訓練場に移動ですよ。行きましょう」
魔法科訓練場は、昨日の魔法事故騒ぎが嘘のように、整然と元の形に戻っていた。アイリーンの光の大蛇とマシューの闇の魔物の一戦で、壁が壊されたところも多かったのだ。
「きれいに修復されていますね」
キースが驚きの声を上げた。壁を触ってみてもしっかりと堅い。幻影ではないようだ。
「先生方が直したみたい」
エミリーはキースと初めて会った時のことを思い出した。王宮の四阿を破壊し、二人の魔力で修復した。土属性の魔力があれば、このように元の形に戻すことも可能だ。
「何だか、思い出しませんか?あなたと僕が初めて会った日のこと」
同じことを彼も思っていたようだ。キースは軽く頬を染めている。
「四阿を壊して、二人で直して……」
楽しそうに話すキースの傍らで、エミリーは微かな胸に触られた記憶に顔を顰めた。
「その時から、あなたの転移魔法は上達していないわね」
「うっ……」
パン、パン!
「皆さん、静かに!」
メーガン先生がむちむちした手を叩き、生徒達に呼びかけた。
「昨日の魔力測定の結果から、今日は皆さんの指導を担当する教官を発表します。学院には皆さんの実力を伸ばすのに最適な先生が揃っていますからね」
――嫌な予感……。
「担当教官の発表……楽しみで仕方がなかったんですよ、僕」
「それはよかったね」
「あなたは乗り気じゃなさそうですね」
「ええ」
――だって知ってるもの。私の指導のために、彼が呼ばれたことをね。
「キース、パトリシア、ヒューゴ。あなた達の担当はこの私ね」
「やった、メーガン先生だ。優しそうでよかったなあ」
キースは茶色の瞳を細めて、幸せそうに笑っている。
「そうね」
――はあ……。憂鬱。
マシューに礼は言いたいが、この先三年間彼に師事するのは、乙女ゲームの物語上ヒロインと揉めそうな材料だ。できれば関わり合いたくなかったが。
「アイリーン、それからエミリー」
――来た。
「あなた達二人は、マシュー先生の……ってあら?マシュー先生は?」
「先ほどまでそこに」
気の弱そうな男の先生が誰もいない入口を指さした。
「転移したのかしら。気まぐれで仕方がない人ねえ……では」
メーガン先生はエミリーとアイリーンに向き直った。
「あなた達は、マシュー先生を探すこと」
「ええっ?」
アイリーンがわざとらしく聞き返す。
「そんなの、どうやったらいいか分かんないですぅ」
両手をグーにして顎に当てる。ブリッコはアリッサで見慣れているが、わざとらしいのはイライラする。
「分かりました。探しに行きます」
エミリーはアイリーンを無視して練習場の外へ出た。
◆◆◆
二時間目が終わり、マリナとアリッサはダンスホールへ移動しようとしていた。次の時間はダンスレッスンである。隣の二組と合同の授業だ。
「アリッサ様」
フローラがスカートを蹴散らしながら走ってくる。令嬢らしからぬ機動力が彼女の持ち味である。
「フローラちゃん、おはよう」
「おはようございます。……で、すぐにもお耳に入れたいことが」
後半はわずかに小声に変わった。
「何かあったの?」
マリナは囁くような声でフローラに尋ねた。彼女の後ろを、隣のクラスの令嬢達がひそひそと噂話をしながら通って行く。
「はい。昨日の魔法事故のことですの」
「エミリーちゃんは大変だったのよ」
昨晩のぐったりしたエミリーの様子を思い出し、アリッサの心が痛んだ。
「そうでしょうね。金色の大蛇と黒い竜の対決だったと聞きましたわ」
「黒い竜はマシュー先生よ」
「……やはり、そうでしたか。わたくしもおかしいとは思っていたのですけれど」
フローラの声が一段と低くなる。
「噂では、魔法科のピンクの髪の……アイリーンが、エミリー様に魔法で襲われたことになっています」
「何ですって?」
マリナが気色ばんだ。
「被害者はエミリーのほうよ。アイリーンが光魔法でエミリーを襲ったのよ」
「マシュー先生が闇魔法で光魔法を吸収して、エミリーちゃんは助かったけど」
「倒れたのは闇魔法を暴走させたからだと、うちのクラスでは噂が広まっています。発生源はどこか確認はとれていませんが、全校に広まるのも時間の問題でしょう」
「とんでもない嘘だわ」
マリナが胸元で拳を握りしめる。
「酷い。私達、何も悪いことはしていないのに」
アリッサが泣きそうな顔をする。
「わたくしも噂の拡大を防ぎます。ただ……こういう噂は噂で消すのが一番なのです」
「噂で、消す?」
マリナとアリッサが目を丸くしてフローラを見た。
「魔法事故より、ずーっと衝撃的な噂を流せばいいのです。でなければ、噂になるようなことをするとか」
「例えば?」
「マリナちゃん!?」
「エミリーが困っているのよ。私達にできることがあるなら、しておきたいわ」
「流石はマリナ様ですわ」
両手を重ねて胸の前で傾け、フローラは緑色の瞳をキラキラさせてマリナを見ている。
「私達は何をすればいいのかしら」
「そうですわねえ……では、普通科二年の教室まで行っていただけます?それで……」
フローラに耳打ちされ、マリナは「ええーそれダメ絶対無理!」と首を振った。
一時間目の後の休み時間。キースは心配してエミリーの席にやってきた。
「大丈夫。さっきの時間寝てたから」
「うーん……」
それでいいのだろうかとキースは困った顔をしている。
「魔力が回復したように見えません。次の魔法実技の時間は欠席してもいいと思いますよ。先生も分かってくださいます」
「嫌。出る」
エミリーは魔法実技の時間が最も楽しみだった。魔法実技の授業に全力を注ぐため、他の授業中は回復時間になっており全く身が入らない。
「……強情な人だ。訓練場に移動ですよ。行きましょう」
魔法科訓練場は、昨日の魔法事故騒ぎが嘘のように、整然と元の形に戻っていた。アイリーンの光の大蛇とマシューの闇の魔物の一戦で、壁が壊されたところも多かったのだ。
「きれいに修復されていますね」
キースが驚きの声を上げた。壁を触ってみてもしっかりと堅い。幻影ではないようだ。
「先生方が直したみたい」
エミリーはキースと初めて会った時のことを思い出した。王宮の四阿を破壊し、二人の魔力で修復した。土属性の魔力があれば、このように元の形に戻すことも可能だ。
「何だか、思い出しませんか?あなたと僕が初めて会った日のこと」
同じことを彼も思っていたようだ。キースは軽く頬を染めている。
「四阿を壊して、二人で直して……」
楽しそうに話すキースの傍らで、エミリーは微かな胸に触られた記憶に顔を顰めた。
「その時から、あなたの転移魔法は上達していないわね」
「うっ……」
パン、パン!
「皆さん、静かに!」
メーガン先生がむちむちした手を叩き、生徒達に呼びかけた。
「昨日の魔力測定の結果から、今日は皆さんの指導を担当する教官を発表します。学院には皆さんの実力を伸ばすのに最適な先生が揃っていますからね」
――嫌な予感……。
「担当教官の発表……楽しみで仕方がなかったんですよ、僕」
「それはよかったね」
「あなたは乗り気じゃなさそうですね」
「ええ」
――だって知ってるもの。私の指導のために、彼が呼ばれたことをね。
「キース、パトリシア、ヒューゴ。あなた達の担当はこの私ね」
「やった、メーガン先生だ。優しそうでよかったなあ」
キースは茶色の瞳を細めて、幸せそうに笑っている。
「そうね」
――はあ……。憂鬱。
マシューに礼は言いたいが、この先三年間彼に師事するのは、乙女ゲームの物語上ヒロインと揉めそうな材料だ。できれば関わり合いたくなかったが。
「アイリーン、それからエミリー」
――来た。
「あなた達二人は、マシュー先生の……ってあら?マシュー先生は?」
「先ほどまでそこに」
気の弱そうな男の先生が誰もいない入口を指さした。
「転移したのかしら。気まぐれで仕方がない人ねえ……では」
メーガン先生はエミリーとアイリーンに向き直った。
「あなた達は、マシュー先生を探すこと」
「ええっ?」
アイリーンがわざとらしく聞き返す。
「そんなの、どうやったらいいか分かんないですぅ」
両手をグーにして顎に当てる。ブリッコはアリッサで見慣れているが、わざとらしいのはイライラする。
「分かりました。探しに行きます」
エミリーはアイリーンを無視して練習場の外へ出た。
◆◆◆
二時間目が終わり、マリナとアリッサはダンスホールへ移動しようとしていた。次の時間はダンスレッスンである。隣の二組と合同の授業だ。
「アリッサ様」
フローラがスカートを蹴散らしながら走ってくる。令嬢らしからぬ機動力が彼女の持ち味である。
「フローラちゃん、おはよう」
「おはようございます。……で、すぐにもお耳に入れたいことが」
後半はわずかに小声に変わった。
「何かあったの?」
マリナは囁くような声でフローラに尋ねた。彼女の後ろを、隣のクラスの令嬢達がひそひそと噂話をしながら通って行く。
「はい。昨日の魔法事故のことですの」
「エミリーちゃんは大変だったのよ」
昨晩のぐったりしたエミリーの様子を思い出し、アリッサの心が痛んだ。
「そうでしょうね。金色の大蛇と黒い竜の対決だったと聞きましたわ」
「黒い竜はマシュー先生よ」
「……やはり、そうでしたか。わたくしもおかしいとは思っていたのですけれど」
フローラの声が一段と低くなる。
「噂では、魔法科のピンクの髪の……アイリーンが、エミリー様に魔法で襲われたことになっています」
「何ですって?」
マリナが気色ばんだ。
「被害者はエミリーのほうよ。アイリーンが光魔法でエミリーを襲ったのよ」
「マシュー先生が闇魔法で光魔法を吸収して、エミリーちゃんは助かったけど」
「倒れたのは闇魔法を暴走させたからだと、うちのクラスでは噂が広まっています。発生源はどこか確認はとれていませんが、全校に広まるのも時間の問題でしょう」
「とんでもない嘘だわ」
マリナが胸元で拳を握りしめる。
「酷い。私達、何も悪いことはしていないのに」
アリッサが泣きそうな顔をする。
「わたくしも噂の拡大を防ぎます。ただ……こういう噂は噂で消すのが一番なのです」
「噂で、消す?」
マリナとアリッサが目を丸くしてフローラを見た。
「魔法事故より、ずーっと衝撃的な噂を流せばいいのです。でなければ、噂になるようなことをするとか」
「例えば?」
「マリナちゃん!?」
「エミリーが困っているのよ。私達にできることがあるなら、しておきたいわ」
「流石はマリナ様ですわ」
両手を重ねて胸の前で傾け、フローラは緑色の瞳をキラキラさせてマリナを見ている。
「私達は何をすればいいのかしら」
「そうですわねえ……では、普通科二年の教室まで行っていただけます?それで……」
フローラに耳打ちされ、マリナは「ええーそれダメ絶対無理!」と首を振った。
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