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学院編 1 魔力測定で危機一髪

07 ヒロインは魔力測定を受ける

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【ヒロイン視点】

ちょっと、何なのよ、あれ!
ハーリオン侯爵令嬢が四人なのも驚いたけど、毎朝王太子が寮に迎えに来るってどういうこと?公式設定では、王太子は侯爵令嬢と仕方なく婚約しているはずでしょう?
なのに、今朝は幸せそうな顔しちゃって、挙句の果てには抱きついてたし。

おかしい。
いろいろとおかしいわよ。
そもそも、出会いイベントで王太子が私に興味を持たないのもおかしいのよ。
こんなに可愛い女子を前に、声をかけないなんて男として終わってる。

レイモンドだってそうよ。
アリッサ?とかいうハーリオンの一人に、デレまくりじゃないの。
クールな美形、ツンデレはどこに行ったわけ?
口元も緩んでるし、デレすぎよ、あれは!

今朝はハーリオン侯爵令嬢が生徒会に入った噂でもちきりだった。
生徒会長の王太子と副会長のレイモンドが、自分達の推薦枠を使って婚約者を生徒会に入れたと。生徒会に入るべきは、ヒロインの私なのに!

学院ではハーリオン侯爵令嬢の話題ばかりで嫌になるわ。
入学式の翌日なのに、一年だけじゃなく上級生も噂しているみたい。
魔法科のエミリー・ハーリオンがミニスカートを穿いていたから。
私だってそれより短かったのに!

教室に行って驚いたわ。
エミリーが黒いローブを着てきたんだもの。
中に制服を着ていれば校則違反ではないとは言っても、あれはちょっとね。可愛くない。
あ、そう言えば。
今日は魔法力測定の日だったわね。
恰好だけでもそれらしくしてきたってことかしらね。

   ◆◆◆

魔法科の訓練場で、新入生は魔法力測定を受ける。
どの属性の魔力がどれくらいあるか、それによって受け持ちの教官が決まるらしいんだけど、入学式の日も今日も、攻略対象者のマシューの姿が見えないのよね。
適当な先生に訊いてみようかしら。あ、メーガン先生だ。
「すみません、先生」
「どうしましたか」
「あのう、魔法科にマシュー先生っていらっしゃいますよね。父の知り合いで……」
「マシュー?ああ、マシュー・コーノック先生は辞めましたよ」
辞めたぁ!?
どういうことなの?
「二年前くらいでしたかね。王宮で魔法事故が起こりましてね。魔導士の魔力に反応して爆発する兵器を作動させてしまったとか」
「そんな……」
マシュー対策で魔法科に入ったのに、肝心のマシューがいないのでは困る。
というより、攻略対象者が揃っていないと、逆ハーレムの発生要件が満たせない。
「どうして、そんなことになったのでしょう?」
「細かいところは私も知らないのよ。あなたの同級生のほうが詳しいかもしれないわ」
「同級生?」
「ええ。エミリー・ハーリオン。事故の時、一緒にいたと聞いていますよ」
何ですってえええええ!?
ハーリオンのせいで、マシューが学院からいなくなったっていうの?

測定試験の順番は、受けたいと挙手して指名された順だった。
手を挙げなければいつまでも見ているだけ、楽でいいわ。
マシューがいない魔法科の授業なんて、真面目にやる意味がないもの。
「あなたの番よ」
先生に促されて、渋々測定器の前に立つ。魔法事故に備えて、メーガン先生の他にも数名の魔法科教師が立っている。その中にマシューはいない。
光魔法のイメージを描いて、測定器に手をかざす。
視界の隅にエミリー・ハーリオンの黒いローブと銀の髪が見える。
――こいつさえいなければ、今頃マシューと……。
魔力測定ではマシューのイベントが起こるはずだったのに!

ヒロインの光魔法があまりに強く、素質があると気づいたマシューが、ヒロインに興味を持っていくの。最初の大切なイベントなのよ。
いつもムスッとしている無口なマシューが、ヒロインの魔法に感嘆し、目を見張る……。そんなイベントだったと思うんだけど。
肝心の本人がいないんじゃね。
マシューを学院から追放したハーリオン侯爵令嬢、エミリー・ハーリオン。
――こいつさえいなければ!

念じる気持ちがいつしか魔力にすりかわっていたらしい。私の光魔法が大蛇に形を変えていた。
「エミリー!危ない!」
金色の大蛇が大きな口を開けて、エミリーを飲みこもうとした。大蛇に気づいたキースが結界を張るものの、光魔法に同属性の結界では効果があまりない。
うねる魔力の波が加わり、爆風と共にエミリーに襲いかかる。先生の結界も間に合わないわ。
――だって私、全力で放ったんだもの。

そう。これは単なる魔法事故よ。
魔法に不慣れな学生が起こした、不幸な事故なのよ。
つい、手元が狂っただけの、ね。

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