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学院編 1 魔力測定で危機一髪
04 悪役令嬢は生徒会に勧誘される
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入学式の後、生徒会室へ引き上げたセドリックとレイモンドは、戸惑うアレックスとキースを拉致同然に連れて来ていた。
「生徒会に入れ、アレックス」
レイモンドは二人を椅子に座らせ、書類を目の前の机に置いた。
「何なんですか、いきなり。俺、今日入ったばかりですよ?」
「僕は入学式の日から生徒会長だけど?」
セドリックは首を傾げる。
「殿下はそういうきまりだから」
王族は入学時から生徒会へ入ることが決められている。副会長でも書記でも会計でもよかったのだが、レイモンドがしきりに薦めるのでセドリックは会長の座に就いた。会長として皆の前で挨拶をすることが多く、公務の練習になるからと。
「本来ならば選挙で決めるところだが、幸い会長と副会長には一人ずつ、生徒会に入れたい生徒を選挙なしに入れられる特別枠がある。アレックスには書類を書けとは言わない。雑用として入れてやるから入れ。キース、君は書記だ。」
「レイモンドさん……俺、放課後は用事があって」
アレックスが申し訳なさそうに呟く。
「用事?」
「放課後は毎日、剣の自主練習をしようって、ジュリアと決めて……」
「ほう。俺や殿下が学院のために仕事をしている時間に、婚約者と親交を深めようとは」
レイモンドの眼鏡が光った。王立学院入学後さらに視力が落ち、モノクルではなく普通の眼鏡をかけている。冷たく鋭い視線が注がれ、アレックスはいよいよ委縮した。
「お、俺達、まだ婚約してません」
「まだ、ってところが泣かせるね。これから何とかしたいって感じかな」
「黙ってろセドリック」
王太子を呼び捨てにするレイモンドの様子を見たキースがおろおろしている。
「ああ、レイはいつもこんなだから。僕達はハトコ同士だし」
「アレックスは生徒会に入りたくないんだな、ジュリアといちゃつくために」
「いちゃ……そ、ち、ちが……イっ」
真っ赤になって顔の間で手を振る。アレックスは慌てるあまり舌を噛んだ。
「入りたくないって言ってません。……そんなに言うなら、マリナやアリッサを生徒会に入れたらいいじゃないですか。俺よりずっと戦力になりますよ」
「名案だな、アレックス!」
セドリックの表情がぱあっと輝く。
「マリナが生徒会に入れば、仕事が残っている限りずっと一緒だよね」
「アリッサを生徒会に入れれば、少なくとも放課後に他の男が言い寄る心配はない、か……」
推薦枠は会長も副会長も一つずつ持っている。アレックスは雑用として引き入れればいいし、キースは立候補しても間違いなく当選できそうだ。レイモンドは考えた。
「明日の朝、寮へ迎えに行った時にでも打診してみるか。構わないか、セドリック?」
「勿論。ああ、楽しみだなあ……」
王太子はマリナと過ごす生徒会の時間を想像して夢見心地のようだ。マリナが生徒会に入ったら、王太子は仕事をしないのではないかと三人は思った。
「キースには来月の生徒会役員選挙に立候補してもらう。投票日の二週間前から選挙活動に入るが、演説は投票日だけだ。魔法科から立候補する奴は少ないから、出るだけで票が取れる」
「新入生の僕でも当選できるでしょうか」
「不安なら、廊下で会った女子生徒に片っ端から声をかけて、投票を頼むんだな」
「そんな……」
「キースが泣きそうになってるよ?脅かしちゃダメだ。……君が当選するように、僕が後押しするから、ね?」
「あ、ありがとうございます、セドリック殿下!」
◆◆◆
「生徒会?」
「うん。マリナに生徒会に入って欲しいんだよ」
入学二日目、例によって女子寮の前である。
今日も人だかりができ、王太子・レイモンド・アレックス・キースが四姉妹を迎えに来たのだ。そして、朝の挨拶もそこそこに生徒会に勧誘されている。
「私、一年生で、昨日入ったばかりですよ?」
「知っているよ。僕も入学式の翌日には会長になっていたよ。お揃いだね」
セドリックはキラキラと眩しい微笑でマリナの手を取る。一年以上会わない間に背が伸びて外見は随分男らしくなったものだが、中身はさほど変わっていないようだ。
「お揃いって……」
「王太子妃になったら、人前で話す機会も多くなるよ?今のうちに練習だと思って、ね?」
入学時に自分がレイモンドに説得された通り、セドリックはマリナを口説き落とそうとする。
「マリナちゃん!」
振り返るとレイモンドと手を繋いだアリッサが、頬を赤く染めている。
「私、生徒会に入るね。マリナちゃんも入るんでしょう?」
「まだ決めていないわ」
「そんなぁ。一緒に入ろうよ?」
レイモンドに手を取られ、視線だけマリナに向けて、アリッサは悲しそうな顔をしている。
「私、一人じゃ心細くて……」
「……どうする?マリナ。優しい君なら、妹を見捨てるようなことはしないよね」
まさかアリッサを囲い込まれるとは思っていなかった。
マリナは観念して両手を上げた。
「分かったわよ。生徒会に入るわ」
「本当かい?うれしいよ、マリナ!」
感極まって抱きついてきた王太子を押し返し、マリナはにやにや笑っているジュリアを見た。
「たまにはアレックスもいいことを言うな」
「いえ、あの……」
何かこいつが余計なことを?マリナはきつい瞳でアレックスを睨み、アレックスはビクッとその場に立ち竦んだ。
「どうしたの?」
「何でもない。行こうぜ、ジュリア」
アレックスが手を差し出す。
「手?」
「あっ、こ、これは、うん。何でもねえよ」
セドリックがマリナの手を取り、アリッサはレイモンドの腕に絡みついている。アレックスはつい手を繋ぎそうになってしまったのだが、ジュリアは不思議そうに彼を見るだけである。赤くなりながら準備体操のように手をぶらぶらさせて誤魔化す。
「あ、あの、エミリー?」
キースは真っ黒い長いローブを着こんだエミリーを凝視していた。昨日見た短いスカート姿は幻だったのだろうか。
「魔導士だもの。ローブ着るでしょ」
無表情に言い放ち、エミリーは姉達の後を追った。
「生徒会に入れ、アレックス」
レイモンドは二人を椅子に座らせ、書類を目の前の机に置いた。
「何なんですか、いきなり。俺、今日入ったばかりですよ?」
「僕は入学式の日から生徒会長だけど?」
セドリックは首を傾げる。
「殿下はそういうきまりだから」
王族は入学時から生徒会へ入ることが決められている。副会長でも書記でも会計でもよかったのだが、レイモンドがしきりに薦めるのでセドリックは会長の座に就いた。会長として皆の前で挨拶をすることが多く、公務の練習になるからと。
「本来ならば選挙で決めるところだが、幸い会長と副会長には一人ずつ、生徒会に入れたい生徒を選挙なしに入れられる特別枠がある。アレックスには書類を書けとは言わない。雑用として入れてやるから入れ。キース、君は書記だ。」
「レイモンドさん……俺、放課後は用事があって」
アレックスが申し訳なさそうに呟く。
「用事?」
「放課後は毎日、剣の自主練習をしようって、ジュリアと決めて……」
「ほう。俺や殿下が学院のために仕事をしている時間に、婚約者と親交を深めようとは」
レイモンドの眼鏡が光った。王立学院入学後さらに視力が落ち、モノクルではなく普通の眼鏡をかけている。冷たく鋭い視線が注がれ、アレックスはいよいよ委縮した。
「お、俺達、まだ婚約してません」
「まだ、ってところが泣かせるね。これから何とかしたいって感じかな」
「黙ってろセドリック」
王太子を呼び捨てにするレイモンドの様子を見たキースがおろおろしている。
「ああ、レイはいつもこんなだから。僕達はハトコ同士だし」
「アレックスは生徒会に入りたくないんだな、ジュリアといちゃつくために」
「いちゃ……そ、ち、ちが……イっ」
真っ赤になって顔の間で手を振る。アレックスは慌てるあまり舌を噛んだ。
「入りたくないって言ってません。……そんなに言うなら、マリナやアリッサを生徒会に入れたらいいじゃないですか。俺よりずっと戦力になりますよ」
「名案だな、アレックス!」
セドリックの表情がぱあっと輝く。
「マリナが生徒会に入れば、仕事が残っている限りずっと一緒だよね」
「アリッサを生徒会に入れれば、少なくとも放課後に他の男が言い寄る心配はない、か……」
推薦枠は会長も副会長も一つずつ持っている。アレックスは雑用として引き入れればいいし、キースは立候補しても間違いなく当選できそうだ。レイモンドは考えた。
「明日の朝、寮へ迎えに行った時にでも打診してみるか。構わないか、セドリック?」
「勿論。ああ、楽しみだなあ……」
王太子はマリナと過ごす生徒会の時間を想像して夢見心地のようだ。マリナが生徒会に入ったら、王太子は仕事をしないのではないかと三人は思った。
「キースには来月の生徒会役員選挙に立候補してもらう。投票日の二週間前から選挙活動に入るが、演説は投票日だけだ。魔法科から立候補する奴は少ないから、出るだけで票が取れる」
「新入生の僕でも当選できるでしょうか」
「不安なら、廊下で会った女子生徒に片っ端から声をかけて、投票を頼むんだな」
「そんな……」
「キースが泣きそうになってるよ?脅かしちゃダメだ。……君が当選するように、僕が後押しするから、ね?」
「あ、ありがとうございます、セドリック殿下!」
◆◆◆
「生徒会?」
「うん。マリナに生徒会に入って欲しいんだよ」
入学二日目、例によって女子寮の前である。
今日も人だかりができ、王太子・レイモンド・アレックス・キースが四姉妹を迎えに来たのだ。そして、朝の挨拶もそこそこに生徒会に勧誘されている。
「私、一年生で、昨日入ったばかりですよ?」
「知っているよ。僕も入学式の翌日には会長になっていたよ。お揃いだね」
セドリックはキラキラと眩しい微笑でマリナの手を取る。一年以上会わない間に背が伸びて外見は随分男らしくなったものだが、中身はさほど変わっていないようだ。
「お揃いって……」
「王太子妃になったら、人前で話す機会も多くなるよ?今のうちに練習だと思って、ね?」
入学時に自分がレイモンドに説得された通り、セドリックはマリナを口説き落とそうとする。
「マリナちゃん!」
振り返るとレイモンドと手を繋いだアリッサが、頬を赤く染めている。
「私、生徒会に入るね。マリナちゃんも入るんでしょう?」
「まだ決めていないわ」
「そんなぁ。一緒に入ろうよ?」
レイモンドに手を取られ、視線だけマリナに向けて、アリッサは悲しそうな顔をしている。
「私、一人じゃ心細くて……」
「……どうする?マリナ。優しい君なら、妹を見捨てるようなことはしないよね」
まさかアリッサを囲い込まれるとは思っていなかった。
マリナは観念して両手を上げた。
「分かったわよ。生徒会に入るわ」
「本当かい?うれしいよ、マリナ!」
感極まって抱きついてきた王太子を押し返し、マリナはにやにや笑っているジュリアを見た。
「たまにはアレックスもいいことを言うな」
「いえ、あの……」
何かこいつが余計なことを?マリナはきつい瞳でアレックスを睨み、アレックスはビクッとその場に立ち竦んだ。
「どうしたの?」
「何でもない。行こうぜ、ジュリア」
アレックスが手を差し出す。
「手?」
「あっ、こ、これは、うん。何でもねえよ」
セドリックがマリナの手を取り、アリッサはレイモンドの腕に絡みついている。アレックスはつい手を繋ぎそうになってしまったのだが、ジュリアは不思議そうに彼を見るだけである。赤くなりながら準備体操のように手をぶらぶらさせて誤魔化す。
「あ、あの、エミリー?」
キースは真っ黒い長いローブを着こんだエミリーを凝視していた。昨日見た短いスカート姿は幻だったのだろうか。
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