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学院編 14
555 悪役令嬢は秘密の会議を持つ
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「お嬢様、お邸より急ぎの魔法伝令便が届いております」
フィランダーが早足でマリナの元に手紙を渡した。何の装飾もない白い封筒に、封蝋が押してあり、そこには魔法伝令便の印が見える。
「マリナ、何て書いてあるの?」
「急かさないでよジュリア。……アリッサからだわ。陛下の御使者がいらっしゃって、明日の朝までに王宮へ参るようにと……」
「明日の朝だって?」
「ここにはそう書いてあるわ」
「だって、お父様は……」
「続きを読むわね。神殿の鐘が鳴るまでに謁見の間に現れない時は」
「時は?」
「謀反の企てありと見做すと」
「げ。いくらなんでもいきなりすぎない?」
「使者が言うことには、フロードリンなどでは騎士団の調査によってハーリオン家に不利な証拠が数多く見つかっていて、全て陛下はご存知のようよ」
はあ、と溜息をつかずにはいられない。完全に『詰んだ』のである。
「そこへ、お父様とお母様が帰国したらしいという知らせを受け、領地の混乱をよそにエスティアに向かった。ハーリオン家に代わって事態収拾に当たった王家はないがしろにされたも同然よね」
「メンツ丸つぶれってこと?」
「ええ。反省の色が見えない、とでも言うのかしら?」
「それくらいで、謀反がどうとか言う?やっぱ、話が飛びすぎてるように思うんだけど」
「アリッサもそう思ったようね。それで、少し調べてみると書いてあるわ。次の手紙を待ちましょう?」
魔法伝令便はあまり長い文面を送ることができない。また、伝令所にハーリオン家を見張る者がいないとも限らない。アリッサは必要最低限の内容だけを送って来たのだ。
「あの……」
「どうしました、アデラ?」
緊張した様子で部屋に入って来た侍女にフィランダーが声をかけた。新しく雇った町の娘の一人だ。年の頃はマリナ達と同じくらいで、オレンジ色の癖のある髪を三つ編みにしている。
「お伝えすべきかどうか迷ったのですが……」
「いいわ、話してみて?」
「実は……私……、お邸の外に出る度に、知らない人にその……しつこくされていて」
「ストーカー?」
「ス……?」
フィランダーが首を傾げた。ジュリアは慌てて言い直した。
「言い寄られてるの?相手は町の人?」
「知らない人です。私、生まれも育ちもエスティアで、両親が食料品店を営んでいるので、だいたいの人は顔見知りなんです。でも、その人は最近町に来たって」
「旅行者かな?」
「違うと思います。お嬢様方がいらっしゃるより前から、私がお邸に勤めるようになってすぐの頃から、買い物に出る度につきまとわれていて。エスティアに長期滞在する旅行者なんて聞いたことはありません。行商人だって、一週間もいればいいほうなんです」
「怪しい奴ってことか」
「そうね。その人以外に、町に滞在している不審者……コホン、こう言っては失礼かもしれないけれど、怪しい人物はいるのかしら?」
「最近、得体の知れない男達が出入りしていると聞きました。宿屋に泊まっているのではなくて、どこかに拠点を持っていてそこから来ているんじゃないかって、母が言っていました。母は宿屋の女将さんと仲がいいから、本当のことだと思います。あ、勿論、私は何も話していませんよ!ああいう強そうな男の人は怖くて……」
「強そう?」
ジュリアが耳ざとく反応する。
「はい。腰に剣をつけていました。どこかの用心棒みたいな」
「用心棒か……流れ者の傭兵くずれかもね。だいたいそういうのは碌なのがいないって。帯剣できるってことは、一応剣士ではあるのかな」
「そうだとすれば、王立学院の剣技科の卒業生かもしれないわね」
「ええっ?やだなあ、ならず者が先輩とか、勘弁してほしいなー。ん……よし!」
いきなり立ち上がったジュリアの横で、マリナが嫌な予感に顔を引き攣らせる。
「ジュリア?」
「アデラが次に町に行くのはいつ?」
「ちょっと、何を……」
「決まってんじゃん!私が用心棒でついていくんだよ。ついでに、そのストーカー、じゃなかった怪しい奴を追い払ってやる!」
銀髪のポニーテールを揺らして意気揚々と言い放つ妹に、マリナは本日二回目の大きなため息をつかずにはいられなかった。
◆◆◆
「……突然お邪魔してごめんなさい」
視線を逸らして俯くアリッサに、スタンリーは動揺して丈の短い上着を盛んと引っ張った。
「い、いえ……。私でよければ、いくらでもお力になりたいと……び、微力ですが」
もじもじしている二人の会話は一向に進まない。王都中央劇場の奥、スタンリーが私室にしている半物置部屋に通され、アリッサは辺りを見回す。何に使うのか分からない小道具がたくさん置かれている。
「ここしか……皆さんが集まれる場所を思いつかなかったものですから」
外で物音がして、スタンリーが立ち上がってドアに向かう。
「いらっしゃったようですね……ぶっ」
勢いよく開いたドアに顔面を強打し、スタンリーは鼻を押さえて壁際によろけた。
「アリッサ!」
「レイ様!」
周りが全く見えていない恋人達が感激して抱擁する脇で、魔導士のローブを着て頭からフードを取った王太子はスタンリーに手を差し出した。
「大丈夫?」
「めめめ、滅相もございません!わわ、私の不注意ですから」
「レイモンドさん、ここに着いてからすごかったもんなー」
後ろにいたアレックスが呟く。劇場に馬車がついてからのレイモンドは、普段の行動力に輪をかけててきぱきと、アレックスに発破をかけてこの部屋まで急いだのだ。
「……ああ、スタンリー。そこにいたのか」
「いたのかって……レイ、アリッサに会いたかったのは分かるけど、それはあんまりじゃないかな?彼がこうして間に立ってくれたからこそ、僕達は集まることができるのだからね。僕がここに来ていることは内緒だし、ね?」
レイモンドは不機嫌な顔を隠そうともせず、アリッサにだけ極上の笑みを向けると、前髪の上から額に口づけた。アリッサの頬が薔薇色に染まったのを見て満足げに目を細める。
「さあ、情報交換を始めようか。一番情報が少なそうなアレックスから話してもらおうかな」
「え、俺ですか?」
「勿体ぶるほどの情報もないだろう?さっさと話せ」
「分かりましたよ。……ええと、騎士団は山に向かいました。父上のところに報告が来ていて」
「山?」
セドリックが聞き返した。レイモンドが隣で笑いを押し殺している。
「ハーリオン侯爵はエスティアに傭兵を集めているらしいからな。謹慎中の騎士団長に代わり、宰相が指揮権を持つ。我が父上は王都にいる部隊を差し向けたのだ」
「あのぅ……王都に騎士がいなくなっちゃうのではありませんか?それでなくても、フロードリンやコレルダードに行っている方も多いと聞いています。王都の守りが手薄になってはよくないと思うんです」
「魔導師団はハーリオン家の不正の証拠を探しにビルクールに行っているね。王都の守りは確かに手薄だ。僕が反乱を起こすなら、今が絶好の機会だと思うだろうね」
王太子はにこにこと笑って言うものの、目が笑っていないのは何故だろう。アリッサは天真爛漫な次期国王が実は腹黒いのではないかとさえ思えてきた。生まれながらの為政者はどこか常人とは違うのかもしれないと。
「父上は分かっていて騎士団を王都から出したのだ。敵はこの好機を見逃すはずはない。必ず次の一手を打ってくるだろうと。それを見越して、王都のあらゆる場所に見張りを置いた」
「うん。宰相……オードファン家だけではなくて、王家もだけどね。……次は僕の番だね。王都にかなりの数の傭兵が集まっている。近いうちに、ひと騒動あるだろう」
「お父様は王都にいないのに……」
「ハーリオン侯爵がいなくても挙兵するのかは今のところ不明だ。全てを侯爵の罪にするなら、彼が不在では意味がないよ」
「うーん……俺、全然分かんねえ……」
アレックスが腕組みをして眉間に皺を寄せる。
「皆さん、お茶はいかがですか。アスタシフォンで公演の時に、母が買ってきたものですが」
スタンリーがカートの上に置いたティーカップをテーブルの上に差し出した時だった。
ドォオオン!
劇場が揺れる程の爆発音がした。
「何だ!?」
「魔法事故か?」
「俺、見てきます!」
アレックスがドアを開け放ち、全速力で廊下を走っていく。
「私も、様子を確認してきます。危険だと判断したら、抜け道から王宮へお戻りください」
「大丈夫だ。アリッサ。俺がついている」
「レイ様……」
部屋を出て行ったスタンリーと入れ違いに、アレックスが血相を変えて戻ってきた。
「その顔は……よくない報せだね?」
「中央神殿が反乱軍に占拠されたって。それで、その……」
「首謀者は?」
レイモンドの眼鏡の奥の緑の瞳が鋭く輝いた。
「反乱軍の旗を見ました。黒地に銀の刺繍で……あれは……」
一度目を閉じ、アレックスは息を呑みこんだ。
「ハーリオン家の紋章でした」
「まさか!」
廊下から足音がして、部屋の前で誰かが転んだ。アレックスがドアを開けると、スタンリーが膝に手を当ててよろよろと立ち上がった。
「神殿の近くから逃げてきた人に聞いたんですが、神殿の二階バルコニーに兵を率いていると思われる人物がいたそうです。その人は、金髪の、遠目にも美男子と分かる風貌の若い男で……」
「金髪……」
アリッサの唇が震える。
「兵士達は彼を称えて、その名を何度も呼んでいたそうです。――ハロルド・ハーリオン。彼こそが王であると」
レイモンドは一瞬気が遠くなったアリッサを支え、セドリックに視線を送った。
「そうか。ありがとう。……レイ。僕は王宮に戻る。悠長に構えている時間はなさそうだ」
ローブのフードを被り、セドリックは隠し通路に姿を消した。
フィランダーが早足でマリナの元に手紙を渡した。何の装飾もない白い封筒に、封蝋が押してあり、そこには魔法伝令便の印が見える。
「マリナ、何て書いてあるの?」
「急かさないでよジュリア。……アリッサからだわ。陛下の御使者がいらっしゃって、明日の朝までに王宮へ参るようにと……」
「明日の朝だって?」
「ここにはそう書いてあるわ」
「だって、お父様は……」
「続きを読むわね。神殿の鐘が鳴るまでに謁見の間に現れない時は」
「時は?」
「謀反の企てありと見做すと」
「げ。いくらなんでもいきなりすぎない?」
「使者が言うことには、フロードリンなどでは騎士団の調査によってハーリオン家に不利な証拠が数多く見つかっていて、全て陛下はご存知のようよ」
はあ、と溜息をつかずにはいられない。完全に『詰んだ』のである。
「そこへ、お父様とお母様が帰国したらしいという知らせを受け、領地の混乱をよそにエスティアに向かった。ハーリオン家に代わって事態収拾に当たった王家はないがしろにされたも同然よね」
「メンツ丸つぶれってこと?」
「ええ。反省の色が見えない、とでも言うのかしら?」
「それくらいで、謀反がどうとか言う?やっぱ、話が飛びすぎてるように思うんだけど」
「アリッサもそう思ったようね。それで、少し調べてみると書いてあるわ。次の手紙を待ちましょう?」
魔法伝令便はあまり長い文面を送ることができない。また、伝令所にハーリオン家を見張る者がいないとも限らない。アリッサは必要最低限の内容だけを送って来たのだ。
「あの……」
「どうしました、アデラ?」
緊張した様子で部屋に入って来た侍女にフィランダーが声をかけた。新しく雇った町の娘の一人だ。年の頃はマリナ達と同じくらいで、オレンジ色の癖のある髪を三つ編みにしている。
「お伝えすべきかどうか迷ったのですが……」
「いいわ、話してみて?」
「実は……私……、お邸の外に出る度に、知らない人にその……しつこくされていて」
「ストーカー?」
「ス……?」
フィランダーが首を傾げた。ジュリアは慌てて言い直した。
「言い寄られてるの?相手は町の人?」
「知らない人です。私、生まれも育ちもエスティアで、両親が食料品店を営んでいるので、だいたいの人は顔見知りなんです。でも、その人は最近町に来たって」
「旅行者かな?」
「違うと思います。お嬢様方がいらっしゃるより前から、私がお邸に勤めるようになってすぐの頃から、買い物に出る度につきまとわれていて。エスティアに長期滞在する旅行者なんて聞いたことはありません。行商人だって、一週間もいればいいほうなんです」
「怪しい奴ってことか」
「そうね。その人以外に、町に滞在している不審者……コホン、こう言っては失礼かもしれないけれど、怪しい人物はいるのかしら?」
「最近、得体の知れない男達が出入りしていると聞きました。宿屋に泊まっているのではなくて、どこかに拠点を持っていてそこから来ているんじゃないかって、母が言っていました。母は宿屋の女将さんと仲がいいから、本当のことだと思います。あ、勿論、私は何も話していませんよ!ああいう強そうな男の人は怖くて……」
「強そう?」
ジュリアが耳ざとく反応する。
「はい。腰に剣をつけていました。どこかの用心棒みたいな」
「用心棒か……流れ者の傭兵くずれかもね。だいたいそういうのは碌なのがいないって。帯剣できるってことは、一応剣士ではあるのかな」
「そうだとすれば、王立学院の剣技科の卒業生かもしれないわね」
「ええっ?やだなあ、ならず者が先輩とか、勘弁してほしいなー。ん……よし!」
いきなり立ち上がったジュリアの横で、マリナが嫌な予感に顔を引き攣らせる。
「ジュリア?」
「アデラが次に町に行くのはいつ?」
「ちょっと、何を……」
「決まってんじゃん!私が用心棒でついていくんだよ。ついでに、そのストーカー、じゃなかった怪しい奴を追い払ってやる!」
銀髪のポニーテールを揺らして意気揚々と言い放つ妹に、マリナは本日二回目の大きなため息をつかずにはいられなかった。
◆◆◆
「……突然お邪魔してごめんなさい」
視線を逸らして俯くアリッサに、スタンリーは動揺して丈の短い上着を盛んと引っ張った。
「い、いえ……。私でよければ、いくらでもお力になりたいと……び、微力ですが」
もじもじしている二人の会話は一向に進まない。王都中央劇場の奥、スタンリーが私室にしている半物置部屋に通され、アリッサは辺りを見回す。何に使うのか分からない小道具がたくさん置かれている。
「ここしか……皆さんが集まれる場所を思いつかなかったものですから」
外で物音がして、スタンリーが立ち上がってドアに向かう。
「いらっしゃったようですね……ぶっ」
勢いよく開いたドアに顔面を強打し、スタンリーは鼻を押さえて壁際によろけた。
「アリッサ!」
「レイ様!」
周りが全く見えていない恋人達が感激して抱擁する脇で、魔導士のローブを着て頭からフードを取った王太子はスタンリーに手を差し出した。
「大丈夫?」
「めめめ、滅相もございません!わわ、私の不注意ですから」
「レイモンドさん、ここに着いてからすごかったもんなー」
後ろにいたアレックスが呟く。劇場に馬車がついてからのレイモンドは、普段の行動力に輪をかけててきぱきと、アレックスに発破をかけてこの部屋まで急いだのだ。
「……ああ、スタンリー。そこにいたのか」
「いたのかって……レイ、アリッサに会いたかったのは分かるけど、それはあんまりじゃないかな?彼がこうして間に立ってくれたからこそ、僕達は集まることができるのだからね。僕がここに来ていることは内緒だし、ね?」
レイモンドは不機嫌な顔を隠そうともせず、アリッサにだけ極上の笑みを向けると、前髪の上から額に口づけた。アリッサの頬が薔薇色に染まったのを見て満足げに目を細める。
「さあ、情報交換を始めようか。一番情報が少なそうなアレックスから話してもらおうかな」
「え、俺ですか?」
「勿体ぶるほどの情報もないだろう?さっさと話せ」
「分かりましたよ。……ええと、騎士団は山に向かいました。父上のところに報告が来ていて」
「山?」
セドリックが聞き返した。レイモンドが隣で笑いを押し殺している。
「ハーリオン侯爵はエスティアに傭兵を集めているらしいからな。謹慎中の騎士団長に代わり、宰相が指揮権を持つ。我が父上は王都にいる部隊を差し向けたのだ」
「あのぅ……王都に騎士がいなくなっちゃうのではありませんか?それでなくても、フロードリンやコレルダードに行っている方も多いと聞いています。王都の守りが手薄になってはよくないと思うんです」
「魔導師団はハーリオン家の不正の証拠を探しにビルクールに行っているね。王都の守りは確かに手薄だ。僕が反乱を起こすなら、今が絶好の機会だと思うだろうね」
王太子はにこにこと笑って言うものの、目が笑っていないのは何故だろう。アリッサは天真爛漫な次期国王が実は腹黒いのではないかとさえ思えてきた。生まれながらの為政者はどこか常人とは違うのかもしれないと。
「父上は分かっていて騎士団を王都から出したのだ。敵はこの好機を見逃すはずはない。必ず次の一手を打ってくるだろうと。それを見越して、王都のあらゆる場所に見張りを置いた」
「うん。宰相……オードファン家だけではなくて、王家もだけどね。……次は僕の番だね。王都にかなりの数の傭兵が集まっている。近いうちに、ひと騒動あるだろう」
「お父様は王都にいないのに……」
「ハーリオン侯爵がいなくても挙兵するのかは今のところ不明だ。全てを侯爵の罪にするなら、彼が不在では意味がないよ」
「うーん……俺、全然分かんねえ……」
アレックスが腕組みをして眉間に皺を寄せる。
「皆さん、お茶はいかがですか。アスタシフォンで公演の時に、母が買ってきたものですが」
スタンリーがカートの上に置いたティーカップをテーブルの上に差し出した時だった。
ドォオオン!
劇場が揺れる程の爆発音がした。
「何だ!?」
「魔法事故か?」
「俺、見てきます!」
アレックスがドアを開け放ち、全速力で廊下を走っていく。
「私も、様子を確認してきます。危険だと判断したら、抜け道から王宮へお戻りください」
「大丈夫だ。アリッサ。俺がついている」
「レイ様……」
部屋を出て行ったスタンリーと入れ違いに、アレックスが血相を変えて戻ってきた。
「その顔は……よくない報せだね?」
「中央神殿が反乱軍に占拠されたって。それで、その……」
「首謀者は?」
レイモンドの眼鏡の奥の緑の瞳が鋭く輝いた。
「反乱軍の旗を見ました。黒地に銀の刺繍で……あれは……」
一度目を閉じ、アレックスは息を呑みこんだ。
「ハーリオン家の紋章でした」
「まさか!」
廊下から足音がして、部屋の前で誰かが転んだ。アレックスがドアを開けると、スタンリーが膝に手を当ててよろよろと立ち上がった。
「神殿の近くから逃げてきた人に聞いたんですが、神殿の二階バルコニーに兵を率いていると思われる人物がいたそうです。その人は、金髪の、遠目にも美男子と分かる風貌の若い男で……」
「金髪……」
アリッサの唇が震える。
「兵士達は彼を称えて、その名を何度も呼んでいたそうです。――ハロルド・ハーリオン。彼こそが王であると」
レイモンドは一瞬気が遠くなったアリッサを支え、セドリックに視線を送った。
「そうか。ありがとう。……レイ。僕は王宮に戻る。悠長に構えている時間はなさそうだ」
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