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学院編 13 悪役令嬢は領地を巡る

441 悪役令嬢は常に100%を求める

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「レイモンド!よかった、探してたんだよ」
ジュリアに肩を叩かれ、彼ははっとした様子でこちらを振り返った。
「あ、ああ。すまなかった、手間をかけさせたな」
薄く笑った口元、焦点の定まらない瞳。
「ん?……ま、いいや」
僅かな違和感を覚えたが、何がいつもの彼と違うのか、ジュリアは説明できなかった。ただ漠然と、何かおかしいと思うものの、問いかけることもできない。
「ジュリア!」
「あ、アレックスがね、怪我人を連れてるんだ。塀の外にどこかいい場所ないかな?」
「さあ……俺も街の中を見て回ったわけではないからな。できれば他の、腕の良い治癒魔導士がいる町へ連れて行くべきだろう」
「やっぱりそうかぁ。……ユリシーズさん?大丈夫?少し休もうか?」
「……」
ユリシーズは無言で頷いた。
「ユリシーズ……?彼が領地管理人なのか?」
「あれ、レイモンド、知り合いだったの?」
「彼を探していたんだ。騒動を収められるのは彼しかいないだろう」
「無理だと思うなあ。ハーリオン侯爵の代理人を名乗る奴に魔法で襲われたらしくて、自分で歩けないほど酷い怪我なんだ」
「つまり、俺達が憎むべきはその代理人というわけか」
「私が……いけな……かったのです。王都の侯爵家に伺い、直接侯爵様にお話ししていれば……申し訳、ございません。申し訳……」
ユリシーズはぽろぽろと涙を零した。ジュリアはレイモンドに近づき、諦めた表情で首を振った。
「これ以上責めても仕方がないよ。皆のところに行こう」

   ◆◆◆

「はあ……」
若い神官は三人を前に溜息をついた。
「あなた方で二組目ですよ。魔法陣を突破してきたのは」
「……皆が集まる場所に、物騒なもの仕掛けてる方が悪い」
エミリーが鋭く睨んだ。眠そうな瞳が笑っていない。
「自衛手段ですよ。町の皆さんには発動しません」
「旅人には厄介だよね。……それで、魔法陣は使わせてもらえるのかな?」
徐に手の甲を見せて、セドリックは指輪を強調した。
「王都に行きたいのです。どうか、お願いいたしますわ」
「フロードリンで火の手が上がったから、自分達は安全な場所へ逃げるのですか?成程、貴族が考えそうなことだ。……いいでしょう。魔法陣をお使いください」
「……なんか、嫌な感じ」
「期待するのはやめたんです」
神官は向こうを向いて呟いた。
「……待っていたって王都から助けは来ない。フロードリンは見捨てられたんです」
「聞き捨てならないね」
セドリックが肩に手をかけ振り返らせる。
「侯爵様には王宮しか、貴族の世界しか見えていないんですよ。領民のことなんて……」
「違いますわ!」
突然叫んだマリナの声に、三人はビクンと身体を跳ねさせた。
「ちょ……何?」
「エミリー、セドリック様を王都までお送りして。私は」
「却下」
「言い終わらないうちに却下しないで」
「残って解決しようとか言い出すんでしょ。……マリナがいたら余計に話がこじれる。行くよ」
「放して、エミリー!」

王都の市場へ転移したマリナは、憮然としてエミリーを睨んだ。
「……文句ある?」
「もっとうまくできたはずよ。あの神官の言うことももっともだわ」
頭を抱えてぶつぶつ呟くマリナの額に、エミリーが容赦なくデコピンをくらわした。
「痛」
「マリナの悪い癖。何でも完璧にやろうとする」
「レイの言う通り、引くことも必要なんだ。騎士団が踏み込んできて、その場に僕と君がいたら……」
「そう……ですわね」
「……ジュリアとアリッサがいるんだし、どうにかなるわよ。少しは信じたら?」
自分がいても何もできないと言われているようで、マリナは納得がいかないままだった。

「ああ、そうだ。エミリー」
「……何?」
「マリナにかかっていた魔法だけれど……効果はなくなったと考えていいよね」
「愛する人の傍で死にたいというのが願いなら、死にそうな目には遭ったわ」
「目的は達成されたのかな」
口元に指先を当て、セドリックは天井を見た。
「かもね。……帰って術を研究しないと、何とも言えない」
魔法陣がある部屋からふいっと出て行こうとするエミリーの前に、大きな壁が現れた。
「うぶぅっ……」
「す、すまん!前をよく……って、殿下!?」
ヴィルソード騎士団長は、王太子の姿を見るなりその場に跪いた。
「恐れながら……お忍びで市場に来られるなど、危険でございます」
「う、うん……気をつけるよ」
背中にマリナを隠し、セドリックは生返事をした。
「え、と……騎士団長はどうしてここに?」
「はっ!」
ヴィルソード騎士団長は答えに窮した。自分の命令を待たずに、騎士達がフロードリンに行ってしまったなどと、王太子の前では言えない。
「フロードリンに行くのでしょう?」
「はい……と、ぉう?な、な……」
跪く侯爵の視界に銀色の髪が飛び込んでくる。
「君は……マリナ?」
「お久しぶりです、小父様。お願いです、フロードリンを救ってくださいませ!」
強く訴えるアメジストの瞳に、ヴィルソード騎士団長はたじろいだ。白い指先が無骨な手を取った瞬間、エミリーはやれやれと肩をすくめた。

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