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学院編 13 悪役令嬢は領地を巡る

434 悪役令嬢はホースをぶっちぎる

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「んっ……しょっ!」
ブチ。メキ。
「あ、ちょっと曲がった?ま、いっか」
ジュリアは魔動織機に繋がっている魔力供給管を繋ぎ目から引きちぎった。前世でよく見たホースのようなものだ。機械との繋ぎ目には金属製の輪がはめられ釘で留められていたが、勢いよく引っ張ったせいで釘もろとも外れて床に落ちた。
「これを……。エルマー、そっちの端持ってきて!」
隣室からエルマーが反対側の端を持ってきて、ジュリアが外した側を受け取る。管を反対向きに機械に取り付けてみた。管に描かれていた蛇腹模様が浮き出て、機械からブルーノのいる寝台へと光が流れ始める。
「やった!思った通りだ」
「すげえ……」
隣の部屋でエルマーが感動の声を漏らした。ブルーノの顔に赤みが差し、死んだ魚のようだった瞳に力が宿る。

魔動織機とブルーノの間には光る管と一つの箱があった。箱の両端に伸びている管がそれぞれ機械と寝台に繋がっていて、魔力を消費しても機械自体には吸い上げる力はなさそうに見えた。魔力がなければ止まってしまう仕組みだとすれば、何かが彼の魔力を吸いあげて機械へ流している。
答えは簡単だ。間にある箱状のものがポンプの役割をしているに違いない。反対向きにつなげば、魔動織機に集められた魔力をブルーノに戻すことができる。
「……あ、ああ……」
ブルーノは指先を動かし、自分の力で動ける喜びを噛みしめた。
「あなたがブルーノ?私、アントニアの知り合いのジュリアって言います。えっと、簡単に言うと、この町の人を助けに来たの。あなたも動けるようなら手伝って欲しいんだ」
「俺に……?」
「そう。魔導士じゃないけど、魔力があるみたいだし?……でも、この手首の輪を外せないと……」
「俺自身では外せないんだ」
「これ、鍵はどこにあるの?」
エルマーが辺りを探した。
「目に見える鍵はない。誰かが魔法を当ててくれれば……」
「じゃ、ジュリア、頑張って」
「無茶だよ。私、魔力なんかこれっぽっちもないもん。エルマーは何かできる?」
「全然。……あ、そうだ!」
腰に回した小さなウエストバッグ型の鞄から、エルマーは巾着袋を取り出した。
「光魔法球、火魔法球、水魔法球……どれにする?」
「火以外で頼むよ」
「だよねえ」
指先で小さなビー玉大の玉を掴み、ぷにょぷにょと何回か刺激すると、光魔法球は鶏の卵の大きさになって光り出した。ブルーノを拘束している金属の輪に、一つ一つ当てていくと、パチンパチンと弾けるように拘束が解けていった。
「いいねえ、エルマー!やるう!」
ジュリアが手を叩いて喜ぶ。ブルーノの背中を支えて起こし、エルマーが肩を貸して寝台から立たせた。
「歩けそう?」
「ああ、何とか。……っつ」
「ん?ブルーノ、足怪我してんの?町を出た時はそんなじゃなかっただろ?」
「これは……一度逃げ出そうとした時に……走れないが歩く分には問題ない。行こう。町を救うんだろう?」
「ありがとう、ブルーノ。……じゃあ手始めに、この建物をぶっ飛ばしていこうか!」
思いがけない言葉に彼がぽかんと口を開け、ジュリアはからからと笑った。

   ◆◆◆

ドオオオオオン!
町はずれの空き家で爆発を起こしたセドリック少年は、自分の魔法の威力にうっとりしていた。
「すげえ……」
魔導士であることを隠して生きてきて、家の中でも思う存分魔法を使ったことはなかった。ただ、騎士団を惹きつけるためだけに、今日は派手に魔法を使っていいのだ。日頃の鬱憤が魔力に凝縮されている。
「天井、吹っ飛んだな。屋根も……うわ、空がすっかり見えてるや」
どこか晴れ晴れとした気持ちで冬の晴天を見上げた。

「こっちですっ!」
遠くで叫ぶ声がした。
「え?アレックス?来るの早すぎだろ?」
騎士達が入ってくる前に隠れなければ、騒ぎを起こした罪で捕まってしまう。転移魔法をすぐに唱えて裏の森へと逃げた。

アレックスは一番先に建物に入り、
「危険です、少し待って……」
少年魔導士がいないのを確認してから騎士を招き入れるつもりだったが、彼らは制止を振り切って入って来た。
「ここが?」
「隊長、天井に穴が!」
「こっちの部屋は床がありません!」
「ここの住民はどうしたのだろう。アレックス、何か知らないか」
フロードリンへ来た部隊は、レナードが駆け込んだ訓練所で日頃鍛錬をしている騎士で作られた即席部隊だった。隊長の男は隊員を指揮することに慣れておらず、何か報告があるたびに狼狽えているのだ。困ってアレックスに助け舟を求めてきた。
「さあ……俺もよく分かりません」
助け舟は出なかった。アレックスもこの後のことなど何も考えていない。とにかく、セドリックとアリッサとエミリーが、塀の中の事件を解決するまでこの場に騎士団を留めるのだ。
「あー、と。この家、前はもう少し綺麗だったような気がするんです」
「ということは、犯人によってこんなに荒れたのか?」
「……多分?」
「住んでいた家族は?」
「俺も来たばかりで知らないんです。近所に聞いて回ったらい……いいえ、もしかしたら、森の中に逃げたかも!」
近所を歩かせれば、ここが空き家だったと知られてしまう。それより森の捜索をさせる方が、より時間を稼げるとアレックスは判断した。
「森か……」
隊長は判断を迷っているようだった。隊員はこの町の外に広がる森に入ったことはなく、王都の傍でも森には魔物が住んでいる。下手に踏み込んだら襲われる恐れがある。
「そうですよね。魔物がいたら怖いですよね」
「何?騎士団に怖いものなどない!」
「そうですか?俺の父上は怖いものがありますけど」
「あのヴィルソード団長に怖いものがあるとは……!」
騎士団は森へ捜索に行かず、アレックスの話に食いついてきた。予想外の展開である。
「……皆さん、調査はどうしたんですか?」
興味津々といった眼差しで彼を見つめる騎士達を前に、アレックスは苦笑いをして赤い髪をわしわしと掻いた。
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