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学院編 13 悪役令嬢は領地を巡る

432 悪役令嬢は地図が読めない

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「俺に考えがあります!」
俄然やる気を出したアレックスに、エミリーは苦笑しっぱなしだった。
「騎士団が来たら、俺が食い止めます」
「どうやって?」
「アレックス君は騎士団の皆さんとお知り合いだから……」
「……だから?」
三人に詰め寄られて、アレックスは半歩下がった。エミリーの眠そうな瞳が怖かった。
「戦うのかい?」
「無茶言わないでくださいよ。知ってる騎士に話して、フロードリンは大丈夫だからって、王都に帰ってもらいます」
「……絶対無理そう」
「ごめんなさい。私もそう思うなあ……」
セドリックも頷いた。すると、四人の話を黙って聞いていたセドリック少年が、アレックスの袖をぐいぐいと引っ張った。
「なあ、赤い髪の兄ちゃん」
「アレックスだ」
「アレックス。あのさ、俺と組まない?」
「組む?」
「俺が塀の中じゃなくて、ずーっと向こうのほうで魔法爆発を起こすからさ。兄ちゃんは騎士をそっちに引っ張って来ればいいよ」
「いい案だね」
王太子に褒められ、少年は胸を張った。エミリーがアリッサに耳打ちすると、アリッサは荷物の中から地図帳を取り出した。
「フロードリンの地図があったはず……」
「逆さまよ」
「し、知ってるもん!……ええと、今いるのはこの辺りかしら?」
「ここだよ」
地図をなぞるアリッサの指先を掴み、セドリックが隣のページに誘導した。場所を間違えたのと不意に手を掴まれた動揺で、アリッサは地図帳を落としてしまった。
「何やってんのよ」
「ごめんねぇ。……セドリック君、場所分かる?」
「そうだな、この道を行って……」
「隣町へ行く手前に古い家があった。周りも草が生えていて、誰も住んでいないと思う。そこでどうだ?」
アレックスの提案に少年が頷き、二人はそれぞれ逆方向へと走り出した。

「さて、どうする?僕達は中に入るべきだと思うけれど」
「アレックス君、壁に手をついて歩いていたわ。脚でも痛いのかしら」
「元気に走って行ったから心配ない。……それは、多分……」
エミリーは目の前の高い塀を上から下までじっくりと眺めた。
「……ふぅん。よくできてる」
目を細めて無詠唱で手をかざすと、一瞬で目の前の塀が消えて空間が現れた。
「なっ……何だい、今のは……」
青い瞳が零れ落ちそうなほど驚き、セドリックは何度も目を擦った。アリッサも両手で頬を覆い、信じられないと呟く。
「光魔法、無効化しただけよ。……見張りはいないけど、どうするの?行くの?行かないの?」
「も、もちろん行くよ!アレックスが一人で行動しているってことは、マリナに何かがあったんだ」
「マリナちゃん、道に迷っちゃったのかしら」
「……あんたじゃあるまいし」
「ひどぉい!」
アリッサが唇を尖らせた瞬間、三人の耳に教会の鐘の音が響いた。

   ◆◆◆

広場に集められた町の人々は、皆げっそりとやつれており、あちこち擦り切れた粗末な服を着ていた。黒服の男達に連行されながら、レイモンドは異様な風景に目を疑った。
「……何て有様だ」
「いい暮らしをしていると聞いたんだがな」
隣を歩く男が呟き、無駄口を叩くなと鞭で打たれた。
「ここで並んで待て」
広場に面したところには、尖塔が建つ赤レンガ造りの教会があった。皆が膝をついてその場に座ると、頭上の塔の鐘が重い音を立て始めた。
「時報にしては中途半端だな」
コレルダードの仲間と共に首を傾げているレイモンドの後ろでは、町の人々がざわめいている。皆怯えた表情で顔を見合わせ、半分泣きそうになっている者もいる。
「今度は誰が……」
「嫌だよ、もう見たくない」
小耳に挟んだ会話は決して穏やかではない。正面の尖塔に目を凝らし、壁を撫でるように視線を落とすと、塔の真下に槍を持った兵士風の男達が立っていた。しきりに塔の上を気にしているようだ。

「静かにしろ!」
傍に立っていた『塀の中の犬』の一人が叫んだ。
周囲の人々が息を呑み、揺らぐ視線が一か所に集まる。塔の上、窓辺に数名の人影が見える。視力が悪いレイモンドにはそれがだれであるかはっきりとは見えなかったが、手前にいる一人は銀髪のように見える。奥にはピンク色の髪の女がいる。
「……!」
塔の窓辺で、黒服の一人がマリナの肩を押して進ませた。
「この者は町を混乱に陥れようとした。よって只今より処刑する。全て侯爵様の御意志である!」
「馬鹿な!彼女は……」
叫んで立ち上がったレイモンドを黒服の男が鞭で打ち据える。塔の上にいるマリナと一瞬視線が合った気がした。

   ◆◆◆

忍び込んだ建物には、魔動織機が並んでいる部屋と、できあがった反物を置いている倉庫があった。他には何もなさそうだ。
「この機械、どうやって動いてるんだろうね」
「俺も初めて見た……すごいや」
魔法に疎い二人は、機械の周りを歩き回った。
「これに火をつけるのは勿体ない気がするけど……」
ジュリアはエルマーを振り返った。……はずだった。
「あれ?エルマー?どこ?」
――まずい、はぐれたらあの子が危ない!
隣にある大型の機械の向こうに回り込んだ時、ジュリアは光る物体を見た。
「……エルマー?」
「ジュリアさん、これ、これ!」
太いパイプ状のものが機械に繋がっていて、魔力に満ちて輝いている。機械とは反対側の端を辿ると壁に消えた。
「隣の部屋?」
「部屋なんてあったかな?」
壁に手を当て力を入れると、柔らかい板が少したわんだ。
「向こうに何かある!」
言うが早いが近くにあった梯子を持ってきて、ジュリアは壁に向かって打ち付けた。
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