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学院編 12 悪役令嬢は時空を超える
354 悪役令嬢は時間通りに待ち合わせ場所へ行く
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ジュリアの熱意に押され、三人は作戦を立てることに同意した。
「ジュリア、あなたはアレックスとレナードにきちんと事情を説明して。約束していた練習に参加できないと謝ってくるのよ」
「分かった。明日は約束してるから、行って……うーん、明日だけ練習してきてもいい?」
「いいよ?ジュリアちゃんが練習に行っている間に、私達で準備をしておくね?」
机の上にノートを広げ、アリッサがメモを取り始めた。
「何書いてんの?」
「領地を調べに行くのに、下調べが必要でしょう?持っていく物も書きだしておかないと」
「……ぬかりがないな」
エミリーはベッドに寝転がり、天井に向けて魔法を放っている。
「エミリーちゃん、明日、図書館に付き合ってくれる?」
「……面倒」
「お願いよ。それと、出かける時に魔法で変装させてほしいの。髪の色を変えるとか……」
「光魔法なら手っ取り早いか。……クリスに頼んでよ」
「ええーっ?」
「迷子対策?……一緒に行ってあげる。アリッサも私の買い物に付き合って」
◆◆◆
四人の役割は決まった。
翌朝目覚めてすぐに、行動開始である。
マリナは邸の使用人に説明をし、四人がいない間も邸にいるかの如く振る舞うように言った。執事のジョンから、父と領地管理人がやり取りした書簡を見せてもらい、不審な点がないか洗い出す作業を始めた。
ジュリアは馬車を用意し、わざと目立つように大通りへ向かった。邸の近くに待ち構えていた下っ端の騎士達は、こぞってジュリアの後をつけて行った。
「……やったわ」
窓から見ていたエミリーが口の端を上げてにやりと笑った。ジュリアの派手な出立のおかげで、見張りの騎士が一掃されたのである。
「すごいわね……ジュリアちゃんはただでさえ派手好きで人目を引くもんね」
「選んだ馬車も、うちで一番豪華……目立つ」
「変装のこと、クリスに魔法を使わせるの?」
「……やめた」
「そうね。昨日は興奮しすぎて、今朝は少し熱を出したって、ジョンが言ってたものね」
「私がやる」
エミリーは手を振り上げた。辺りに紫色の霧が漂う。
「なあに、これ?」
「闇魔法」
霧が晴れると、アリッサのドレスはチャコールグレーに、エミリーのドレスはベージュに変わっている。極力目立たないようにデザインも控えめだ。
「あああっ!お気に入りのパステルグリーンのドレスがぁ」
「……心配いらない。そう見えてるだけだから」
「どういうことなの?」
アリッサが小さく首を傾げた。明るい茶色の髪がふわりと揺れた。
「髪の色も?」
「後で鏡を見ておいて。アリッサは茶色い髪に茶色い目だから。ついでに、伊達眼鏡でもかけていこうか。三つ編みに結うのもいいわ」
「エミリーちゃんは……えっと……」
目の前の妹のヘアスタイルがとんでもないことになっている。直径五十センチはあろうかというアフロヘアだ。しかも真っ赤だ。
「大きなアフロになってるけど、いいの?」
「いいの。どう見えるかはその人次第だから」
見た目を変える魔法は、光魔法では光の加減により錯覚を起こさせるが、闇魔法では周りの人間の精神に作用して錯覚を起こさせる。効果はどちらも同じである。
「もう少しボリュームを抑えたほうがいいかも」
「そう?」
広がらないワンピースを着たエミリーは、まるでハンドマイクのようになりながら、アリッサの手を引いた。
◆◆◆
約束の場所、初代国王の像の前に着いたジュリアは、既に赤い髪の人影があるのに気づいた。滑るように馬車を下りる。
「おはよー、アレックス!早いね」
「ジュリアこそ早いじゃないか。え、と、俺は今来たとこ」
「ん?」
彼の頬も耳も赤い。それなりに長いこと外で待っていたのではないだろうか。ジュリアは不思議に思った。
「ホントに?結構待ってたんじゃない?」
「う……い、いいだろ!」
「アレックスも楽しみにしてたんだね、レナードん家に行くの」
「あ、ああ……」
アレックスは殊の外歯切れが悪かった。ジュリアが視線を合わせようとしても、顔を背けてしまうのだ。
「ねえ、どしたの?」
「覗き込むなよ」
「こっち見て!」
「嫌だ」
「……分かった。何か隠してるんでしょ?」
ぎく。
とアレックスの顔に書いてある。
彼の表情は分かり易いと思った。確信して頬を引っ張る。
「やめれ」
「アレックスはやたら早く来てるし、レナードは遅刻だし……どうなってんの?」
「ジュリア……お、怒らないで聞いてくれるか?」
前置きしないと怒るような話なのだろうか。ジュリアは既に目が据わっている。
「うん。……で、何かあったの?レナードがお父さんに叱られたとか?」
前世の経験で、家に勝手に大勢の友人を呼び、親に怒られたことがあるジュリアは、豪邸ではないことが予想されるレナードの家に突然自分達が行くのは、受け入れ態勢ができなかったのだろうと推測するに至った。
「昨日、三人で練習しようなって約束したよな?」
「うん。レナードん家で」
「ああ。俺もそのつもりだったんだが……」
アレックスは躊躇っていた。
「俺が寮から家に帰る直前に、レナードから連絡があったんだ。明日から遠征に行くからって、今日突然兄さん達が戻ってくることになって、俺達を呼べないって」
「騎士のお兄さん達か」
「問答無用でしごかれるって言ってたから、多分、俺達の相手なんかしてらんないだろ?」
「だよねえ。じゃあ、今日の練習は中止?」
「ああ。兄さん達は明日にはいなくなるから、明後日から練習することにしたんだ」
「りょーかい」
「で……今日なんだけど、その……レナードがさ、言ってたんだ」
背の高い彼の喉が上下した。
「自分が待ち合わせに行かなかったら、俺達が……」
ジュリアの手にアレックスのごつごつした指が触れる。
「まるで俺達が、デートの待ち合わせをしているみたいだなって」
「デート?」
「だ、ダメか?……うん、ジュリアはそういうつもり全然なかったよな?剣持ってきてるし、送ってくから家まで……むむ」
口を白い手が塞ぐ。
王太子の誕生日は祝日だったが、アレックスが追試の勉強をするはめになり、デートの約束は反故になってしまったのだ。冷え切った彼の頬を両手で包み、ジュリアは笑った。
「デートしよ?私達、こういうの初めてだよね?」
「ジュリア、あなたはアレックスとレナードにきちんと事情を説明して。約束していた練習に参加できないと謝ってくるのよ」
「分かった。明日は約束してるから、行って……うーん、明日だけ練習してきてもいい?」
「いいよ?ジュリアちゃんが練習に行っている間に、私達で準備をしておくね?」
机の上にノートを広げ、アリッサがメモを取り始めた。
「何書いてんの?」
「領地を調べに行くのに、下調べが必要でしょう?持っていく物も書きだしておかないと」
「……ぬかりがないな」
エミリーはベッドに寝転がり、天井に向けて魔法を放っている。
「エミリーちゃん、明日、図書館に付き合ってくれる?」
「……面倒」
「お願いよ。それと、出かける時に魔法で変装させてほしいの。髪の色を変えるとか……」
「光魔法なら手っ取り早いか。……クリスに頼んでよ」
「ええーっ?」
「迷子対策?……一緒に行ってあげる。アリッサも私の買い物に付き合って」
◆◆◆
四人の役割は決まった。
翌朝目覚めてすぐに、行動開始である。
マリナは邸の使用人に説明をし、四人がいない間も邸にいるかの如く振る舞うように言った。執事のジョンから、父と領地管理人がやり取りした書簡を見せてもらい、不審な点がないか洗い出す作業を始めた。
ジュリアは馬車を用意し、わざと目立つように大通りへ向かった。邸の近くに待ち構えていた下っ端の騎士達は、こぞってジュリアの後をつけて行った。
「……やったわ」
窓から見ていたエミリーが口の端を上げてにやりと笑った。ジュリアの派手な出立のおかげで、見張りの騎士が一掃されたのである。
「すごいわね……ジュリアちゃんはただでさえ派手好きで人目を引くもんね」
「選んだ馬車も、うちで一番豪華……目立つ」
「変装のこと、クリスに魔法を使わせるの?」
「……やめた」
「そうね。昨日は興奮しすぎて、今朝は少し熱を出したって、ジョンが言ってたものね」
「私がやる」
エミリーは手を振り上げた。辺りに紫色の霧が漂う。
「なあに、これ?」
「闇魔法」
霧が晴れると、アリッサのドレスはチャコールグレーに、エミリーのドレスはベージュに変わっている。極力目立たないようにデザインも控えめだ。
「あああっ!お気に入りのパステルグリーンのドレスがぁ」
「……心配いらない。そう見えてるだけだから」
「どういうことなの?」
アリッサが小さく首を傾げた。明るい茶色の髪がふわりと揺れた。
「髪の色も?」
「後で鏡を見ておいて。アリッサは茶色い髪に茶色い目だから。ついでに、伊達眼鏡でもかけていこうか。三つ編みに結うのもいいわ」
「エミリーちゃんは……えっと……」
目の前の妹のヘアスタイルがとんでもないことになっている。直径五十センチはあろうかというアフロヘアだ。しかも真っ赤だ。
「大きなアフロになってるけど、いいの?」
「いいの。どう見えるかはその人次第だから」
見た目を変える魔法は、光魔法では光の加減により錯覚を起こさせるが、闇魔法では周りの人間の精神に作用して錯覚を起こさせる。効果はどちらも同じである。
「もう少しボリュームを抑えたほうがいいかも」
「そう?」
広がらないワンピースを着たエミリーは、まるでハンドマイクのようになりながら、アリッサの手を引いた。
◆◆◆
約束の場所、初代国王の像の前に着いたジュリアは、既に赤い髪の人影があるのに気づいた。滑るように馬車を下りる。
「おはよー、アレックス!早いね」
「ジュリアこそ早いじゃないか。え、と、俺は今来たとこ」
「ん?」
彼の頬も耳も赤い。それなりに長いこと外で待っていたのではないだろうか。ジュリアは不思議に思った。
「ホントに?結構待ってたんじゃない?」
「う……い、いいだろ!」
「アレックスも楽しみにしてたんだね、レナードん家に行くの」
「あ、ああ……」
アレックスは殊の外歯切れが悪かった。ジュリアが視線を合わせようとしても、顔を背けてしまうのだ。
「ねえ、どしたの?」
「覗き込むなよ」
「こっち見て!」
「嫌だ」
「……分かった。何か隠してるんでしょ?」
ぎく。
とアレックスの顔に書いてある。
彼の表情は分かり易いと思った。確信して頬を引っ張る。
「やめれ」
「アレックスはやたら早く来てるし、レナードは遅刻だし……どうなってんの?」
「ジュリア……お、怒らないで聞いてくれるか?」
前置きしないと怒るような話なのだろうか。ジュリアは既に目が据わっている。
「うん。……で、何かあったの?レナードがお父さんに叱られたとか?」
前世の経験で、家に勝手に大勢の友人を呼び、親に怒られたことがあるジュリアは、豪邸ではないことが予想されるレナードの家に突然自分達が行くのは、受け入れ態勢ができなかったのだろうと推測するに至った。
「昨日、三人で練習しようなって約束したよな?」
「うん。レナードん家で」
「ああ。俺もそのつもりだったんだが……」
アレックスは躊躇っていた。
「俺が寮から家に帰る直前に、レナードから連絡があったんだ。明日から遠征に行くからって、今日突然兄さん達が戻ってくることになって、俺達を呼べないって」
「騎士のお兄さん達か」
「問答無用でしごかれるって言ってたから、多分、俺達の相手なんかしてらんないだろ?」
「だよねえ。じゃあ、今日の練習は中止?」
「ああ。兄さん達は明日にはいなくなるから、明後日から練習することにしたんだ」
「りょーかい」
「で……今日なんだけど、その……レナードがさ、言ってたんだ」
背の高い彼の喉が上下した。
「自分が待ち合わせに行かなかったら、俺達が……」
ジュリアの手にアレックスのごつごつした指が触れる。
「まるで俺達が、デートの待ち合わせをしているみたいだなって」
「デート?」
「だ、ダメか?……うん、ジュリアはそういうつもり全然なかったよな?剣持ってきてるし、送ってくから家まで……むむ」
口を白い手が塞ぐ。
王太子の誕生日は祝日だったが、アレックスが追試の勉強をするはめになり、デートの約束は反故になってしまったのだ。冷え切った彼の頬を両手で包み、ジュリアは笑った。
「デートしよ?私達、こういうの初めてだよね?」
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