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第五章 桜とさくらの根深汁
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母が意味深に言って、急いで父を追いかけた。
残されたアタシと彦さんは互いの顔を見合う。
「えっと」
アタシは口篭ったが、顔を赤くしてる場合じゃない。
「突然だけど、新八さんを明日さくらに呼びたいと考えたの。それで、彦さん、その事を金吾さんに伝えてもらってもいい? アタシはまだ料理の練習したくて……何を出すかは決まったから」
彦さんは心配そうにアタシを見つめていた。だけどその目には心配だけじゃなくて、信頼もある。
「分かった」
短い一言に優しさが溢れていた。
「いつもアタシの勝手に巻き込んで、ごめんなさい。本当にありがとうね」
「もう慣れたよ」
「慣れるほど、彦さんを振り回しているのね……」
「俺は楽しんでる」
彦さんの眉がピクリと動いた。笑いを堪えているのだろう、珍しい。
「あと、もうひとつお願いがあるの」
アタシは頼み事をもうひとつ告げた。
「なるほど。だから、こんなに急なのか。あなたがこの件で救いたいのは、新八殿だけではない、と」
「そう」
「なら、明日やった方が良い」
丁度その時さくらに猪牙舟の利用客が二人来たので話は中断された。
「あの人なら断りはしないさ」
残されたアタシと彦さんは互いの顔を見合う。
「えっと」
アタシは口篭ったが、顔を赤くしてる場合じゃない。
「突然だけど、新八さんを明日さくらに呼びたいと考えたの。それで、彦さん、その事を金吾さんに伝えてもらってもいい? アタシはまだ料理の練習したくて……何を出すかは決まったから」
彦さんは心配そうにアタシを見つめていた。だけどその目には心配だけじゃなくて、信頼もある。
「分かった」
短い一言に優しさが溢れていた。
「いつもアタシの勝手に巻き込んで、ごめんなさい。本当にありがとうね」
「もう慣れたよ」
「慣れるほど、彦さんを振り回しているのね……」
「俺は楽しんでる」
彦さんの眉がピクリと動いた。笑いを堪えているのだろう、珍しい。
「あと、もうひとつお願いがあるの」
アタシは頼み事をもうひとつ告げた。
「なるほど。だから、こんなに急なのか。あなたがこの件で救いたいのは、新八殿だけではない、と」
「そう」
「なら、明日やった方が良い」
丁度その時さくらに猪牙舟の利用客が二人来たので話は中断された。
「あの人なら断りはしないさ」
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