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第五章 桜とさくらの根深汁

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「一家でよく話し合って、新八はふるさとの農家に帰る事になったようだ」

 農家は力仕事。手先の器用さより体力が求められる。

「新八はまだ若い。江戸で噂話の的になるより、家族と故郷で暮らした方が気は楽だ」

 たしかに、江戸は毎日番付で盛り上がるほど、何かを比べるのが好きだ。美人の番付があるように、不美人の番付もある。人の病気や体つきを笑いものにする奴らだっている。無遠慮で無神経で非常識な奴らが。

 その新八という若者は、この二年間、どれほどの屈辱に耐えてきたのだろうか。

 彦さんも同情的な話し方だった。

「人生には、どうしようも無い事がいくつもある。前向きに諦め、受け入れる力がなければ、生きる事は常に苦痛だ」

 新八は、よく頑張った。

「それで、アタシに料理を作ってほしいというのは?」

「新八は三日後に田舎に向かって発つ。その前に、旅立ちを元気付ける料理をおタキさんに作ってほしいそうだ」

 ふむふむ、そう来たか。でも意外な話だ。

「何故アタシに頼むのかしら。船宿より飯屋に頼めば良いだけの話だし、うちとの面識は浅いでしょうに」

 その答えを彦さんは知っていた。

「山川屋と縁があったんだよ、田島屋は」

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