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第五章 桜とさくらの根深汁

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 彦さんは一歩前へ出て、アタシの横に並んだ。

「おタキさんが悩んでいるのを見るのは嫌なんだ」

「彦さんって、率直にものを言うのね。ちょっとドキッとした」

「言わなきゃこちらの想いは伝わらないだろ」

「そりゃ、そうだけど。前はもっと無口だったのに」

「あなたの想い人が亡くなっている事を伝えて、俺も心に一区切り付いた」

 アタシは隣に立つ彦さんの顔を見上げた。彦さんは相変わらず無表情だけど、声は少しだけ、今までより活き活きとしている。

「おタキさんさんの想いや、六さんの悲しみを、もう守らなくて良いのだと……解放されたんだ」

 彦さんもアタシの方に顔を向けた。

「だから、一緒になりたいと、ハッキリ言えたんだよ」

「あ、あの、そんな、恥ずかしいわ。何故彦さんは照れないの。それより、その話は……断ったでしょう?」

「分かってるが、断られても、側には居させてくれ」

「うっ」

 瞬きひとつしない彦さんの真剣な眼差し。それが眩しく感じた。自分の想いをあれこれ話すのは、あまり男子らしくないんだけどね。

「彦さん、今は何も言えない。それどころじゃないのよ。今日だって、店に金吾さんが、姉のお見合い相手が来て……」

 アタシはかいつまんで話した。

「おタキさんに作ってほしい料理、か」

「アタシに頼まなくても、下女や兄嫁がいるのにね。どんな用なのかしら」

 来る日を改めると言っていたけど、向こうも商売をしてる身。さくらに寄る時間を作るのも一苦労だろう。

 それに古着問屋と飯屋では混む時間帯が違う。向こうが暇でも、またこちらが相手出来ないかもしれない。

 どうしようか考えていたら、

「俺が今から聞いて来ようか」

 彦さんが手を差し伸べてくれた。

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