【完結】船宿さくらの来客簿

ヲダツバサ

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第五章 桜とさくらの根深汁

5-10

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「さて、片付け片付け」

 皿や湯呑みを洗い処に運んで、次は腰掛けを店の中に戻す時だった。

「おタキさん、手伝うよ」

 ゆらりと彦さんが現れた。

「と言うか、俺がやるよ」

「そんなの悪いですよ……って言っても、彦さんは譲らないわよね。アタシから横取りする勢いで」

「分かっているじゃないか、俺の事」

 お言葉に甘えて、腰掛けを運ぶのは彦さんに任せた。アタシはゴミや食べカスを箒で掃いた。散った桜の花びらも。

「桜、こんなに綺麗なのに、すぐ散ってしまうのね」

 独り言を呟いて、桜を見上げた。

 その独り言は彦さんに聞こえたみたい。おもむろにアタシの斜め後ろに来て、応えた。

「すぐ散るからこそ尊いのでは?」

「でも、寂しいじゃない。見るたびに喜びと切なさを感じる」

「おかげで、俺達の胸の中には心があるという事を知れる」

「詩人ね。そんな事を教えるために桜は咲く訳?」

「いや、俺達が勝手に学んでるだけさ」

「……なんだか彦さん、喋り方が次介さんに似てきたわ。キザっぽい。そういえば、悩み相談するほど仲が良いんだ?」

 さっきお節介を提案された事を彦さんに話した。彦さんは分かりやすくギクッと肩を強張らせた。

「ひとりでは、答えが出なかった」

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