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第五章 桜とさくらの根深汁

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「これはおユキさんが作られたのですね?」

「はい……姉は煮物料理が得意で……」

「素晴らしい腕前です! おユキさんの手料理なら、毎日でも食べたいくらいだ」

「あ、ありがとうございます」

 二人の縁談が上手くいけば本当にそうなる。遠回しに、姉を気に入っていると言いたいのだろうか。

 金吾さんはアタシが作った味噌汁も絶賛してくれた。

「不思議な味だ。勿論、美味しいです。何と言うか、体より心を温めてくれる……そんな味です」

 それからアタシと金吾さんは、少しだけ談笑した。他愛の無い世間話だ。姉の鰤大根が出来るのを待っているのだけど……。

「すみません、少し失礼します」

 アタシは台所に引き返した。

「姉さん、何やってるの? まだ出来ない?」

「駄目だわ。これは出せない」

「えっ」

「あなたほど料理に拘りが無くても、コレは流石に駄目だと分かるわ。集中しないで作ったせいね。金吾さんには、あの黒豆だけで良い」

「おかずとして物足りないよ。せめて、ぜんざいを出すね」

 姉が「そうして」と言うのでアタシは手際良く運んだ。金吾さんから不満は無く、ぜんざいも気に入ってくれた。

 その後、アタシは他の客に呼ばれ相手出来なくなったが、金吾さんはしばらく桜を眺め、お代を払って帰って行った。金吾さんの頼みとやらは分からないまま。

 満開の桜は日毎に散っているが、土に落ちて踏まれる花弁の方が圧倒的に多い。大半は風に吹かれて川や運河へ運ばれる。

 この花筏はないかだを舟で追う遊びがある。船頭が操る猪牙舟に乗って、岸から花びらを追って走るのだ。今日も他の船宿から出た猪牙舟がその遊びを提供している。

 さくらはしない方針だ。うちは移動目的の客ばかりで、舟遊びは時間がかかる事を考慮すると、たった二人の船頭では対応出来ない。

 今年から花見用の席を作ったのは、その代わりといった感じだ。

「もうすぐ夕方だな」

 一段楽した時、父が言った。

「次からの客は店の中で料理を提供しろ。ぼちぼち、花見席は片付けるぞ」

「はーい」

 アタシは元気良く返事して、六さんと彦さんの分のまかないを作った。

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