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第四章 慟哭とその逆となめこ汁
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「わしらは昔、そっちで商売してた。神田も水路が多くてな、仕事はいくらでもあった」
「彦さんはその時から六さんの弟子だったのですか」
「そうだ。いつもわしの後ろを付いて来ていた」
「徳治さんは彦さんより年上なんですね」
「そうだ。彦一郎はわしの友人の孫だが、わしといとこは歳が離れているから」
「そういえば彦さんのご両親は……」
明暦の大火で亡くなったと聞いている。という事は、
「わしの友人と、その嫁だ」
そういう事になる。
川岸まで歩いて行ってアタシ達は立ち止まった。
「わしの妻は三年前に病気で死んだ。弱気になっていた時に、これだよ」
「辛かったでしょうね。いえ、辛いなんてものじゃないですよね」
六さんは三人亡くした。
アタシも家族が丁度三人いる。
全員をいっぺんに失ったら、どんな気持ちになるだろうか。寂しいとか悲しいとか、そんな言葉が安っぽく感じるほど慟哭に囚われるだろう。人生が無意味なるほどの。
そんな人達に、アタシに何が出来るんだ。
「人生は耐え難い別ればかりだが、光もある」
六さんは力強く言い放った。
「おタキさんの料理を食べている時は光を感じるよ。おタキさんがさくらで飯屋をやってくれて、本当に良かった」
そろそろ帰ると言って、六さんは来た道を引き返した。取り残されたアタシは、涙を一粒だけ流す。
皆、優しすぎる。
六さん。彦さん。徳治さん。
三郎と弥次郎。孫介と次介。さくらの客達。
カン坊。おチヨとトモミ。金吾さん。
アタシの父。アタシの母。アタシの姉。
アタシも、優しくなりたい。優しさって、強さの一種だと思うから。
「けれど」
料理しか出来ないアタシに出来る事って?
「分からないよ……」
「彦さんはその時から六さんの弟子だったのですか」
「そうだ。いつもわしの後ろを付いて来ていた」
「徳治さんは彦さんより年上なんですね」
「そうだ。彦一郎はわしの友人の孫だが、わしといとこは歳が離れているから」
「そういえば彦さんのご両親は……」
明暦の大火で亡くなったと聞いている。という事は、
「わしの友人と、その嫁だ」
そういう事になる。
川岸まで歩いて行ってアタシ達は立ち止まった。
「わしの妻は三年前に病気で死んだ。弱気になっていた時に、これだよ」
「辛かったでしょうね。いえ、辛いなんてものじゃないですよね」
六さんは三人亡くした。
アタシも家族が丁度三人いる。
全員をいっぺんに失ったら、どんな気持ちになるだろうか。寂しいとか悲しいとか、そんな言葉が安っぽく感じるほど慟哭に囚われるだろう。人生が無意味なるほどの。
そんな人達に、アタシに何が出来るんだ。
「人生は耐え難い別ればかりだが、光もある」
六さんは力強く言い放った。
「おタキさんの料理を食べている時は光を感じるよ。おタキさんがさくらで飯屋をやってくれて、本当に良かった」
そろそろ帰ると言って、六さんは来た道を引き返した。取り残されたアタシは、涙を一粒だけ流す。
皆、優しすぎる。
六さん。彦さん。徳治さん。
三郎と弥次郎。孫介と次介。さくらの客達。
カン坊。おチヨとトモミ。金吾さん。
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アタシも、優しくなりたい。優しさって、強さの一種だと思うから。
「けれど」
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「分からないよ……」
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