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第四章 慟哭とその逆となめこ汁
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しおりを挟むなめこ汁を作る事にした。
そもそもアタシが味噌汁作りが得意なのは、味噌汁が好きだからだ。だしや味噌、具の組み合わせで味が変わる面白さ。何より、白米に合う。米を咀嚼して、口の中に味噌汁を流し込み、同時に飲み込む時の美味しさときたら……これに勝る幸せは無い。
帰路の途中で母と別れ、豆腐屋で絹豆腐を、棒手振りからなめこを買った。
小走りで、さくらへ向かう。転ばないように気を付けた。
舟着場が見えて来ると、やはり意識して彦さんを探してしまう。
生憎居なかったが、ガッカリなんてしなかった。今生の別れじゃないのだから、また会える。お互い生きているのだから。
今日はアタシも母も留守だったので、さくらは舟の手配だけで料理の提供はしていない。
それでも沢山の客が集まっていた。料理目当てで。
皆、アタシの姿を見ると大声で騒いだ。
「おタキさんだ!」
歓声が上がる。大袈裟な人達だ。
「待ってたよー、おタキさん」
「今日、どうしたの?」
「目的は猪牙舟だけどさ、やっぱおタキさんの料理が食べたいや! それのために早く来ているんだし」
男達がわいわいと騒ぐ。嬉しそうに。
アタシは答えられなかった。のどに込み上げて来るものを抑えるのに苦労して。
三郎と弥次郎の大工親子も来ていた。
「船宿さくらは、おタキさんが居なくちゃ始まらねぇよ」
三郎がニカッと笑った。
「船宿なんて、どこにでもある。だけどよ、おタキさんはここにしか居ねぇ。な、弥次郎」
「ああ。おタキさんの料理はここでしか食べられない」
「客一人一人の好みを把握していて、旬に合わせた料理を手頃な値段で出してくれる。最高の店だ」
「その通り。ここには思いやりがある」
「俺の妻と交換してほしいぜ」
一同がドッと笑い声を上げた。いや、アタシはあんたの嫁にはなりたくはないよ……褒め言葉は嬉しかったけど。
孫介・次介の根無草兄弟も腰掛けで座っていた。
「もうすぐ桜が満開だねぇ」
ここに来る前に酒を飲んで来たのか、次介の顔は赤かった。
「孫介兄貴、今年はさくらで花見しようぜ。おタキさん、この腰掛けを隣の桜の木の下に持って行っちゃ駄目かい? 一年で一番美しい季節を、俺はさくらで過ごしたい」
「それ、良いな。おタキさん、頼むよ」
兄弟だけでなく、客全員が懇願の目でアタシを見つめていた。
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