【完結】船宿さくらの来客簿

第三章 あの人の居場所とすまし汁

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「おタキさん、まずは心の整理を付けなければ」

「心の整理？」

　彦さんの方に振り向くと、彦さんは慰めるように目を細め、アタシを見つめていた。

「何日かは、いつも通り過ごすんだ。難しかったら店を休んでも良い」

　彦さんはそう言った。父には彦さんから伝えるとも言ってくれた。

「自暴自棄になっちゃ、いけないよ。だからって深く落ち込みすぎるのも駄目だ。平常心を取り戻すんだ」

「平常心って？」

「凪すら吹かない、湖の水面のような心だ。波が立たず、歪む事もない」

　腰掛けから立ち上がる彦さん。

　帰る前に、印籠を持つアタシの右手に、自身の左手を重ねた。

「桜を見たりして過ごしていて」

　それだけ言って、行ってしまった。

「彦さん……」

　彦さんが店から出て行って、少し経ってから我に返った。

　アタシは急いで立ち上がった。

「待って」

　店の外に出ても、彦さんの姿はもう無かった。河岸も人が減って静かになっていた。

　夕焼けが美しいだけ。