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第三章 あの人の居場所とすまし汁
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弥次郎の心配も尤もだ。
「姉は現実的な人だから多分大丈夫です。割り切りますよ」
「割り切れますかね。人の心は単純ではない」
「あれから二年も経つのですよ?」
「あなたは無事だから、何も失ってないから、そう言えるんです」
「……それは、たしかに」
反論出来なかった。その通りだったから。
彦さんに言った言葉を思い出す。他の人に比べたら浅い傷の私が、罪滅ぼしのために生きてるなんて言うの、ちゃんちゃら可笑しいよね。
私より傷が深い人はどうしたら良いの、って話になる。
それに彦さんから見たら、アタシは想い人に会いたいだけの、頭の軽い女だよね。
「いや、余計な事を言いました」
弥次郎は頭を下げた。茶を飲み干した三郎と共に、六さんの舟へと歩いて行く。
アタシは礼儀正しく見送った。
アタシ達は声を潜めて話していたけど、姉に少し聞こえたらしい。台所で、姉に言われた。
「弥次郎さんの事、怒らないであげて。私に関しては、誰でも思う事よ」
「でもさ、心に引っかかるじゃない。そりゃアタシだって、姉さんに蟠りが無いか気になるけど」
「そうね。抵抗感は、ある。だけど、いつまでも過去の事を引きずっていられないわ。それにね……」
「それに?」
皿洗いする手を止め、姉は囁いた。
「金吾さん、あの人に似てた。生まれ変わりとは違うけど、あの人が金吾さんに会わせてくれたのかなって思った。不思議な力で」
もう寂しくならないように、自分の代わりと引き会わせてくれた、と……姉は、そう考える事にしたのだ。
その声は少し震えていた。
「忘れる事は出来ないけど、終わりにしなきゃ」
「姉さん。あのさ……」
「何も言わないで。何も聞かないで」
そう言われたら黙るしかない。見守る事しか出来ないや。
それで良いのだろうか。
アタシは姉の洗った皿を拭きながら、色んな事を思った。雀の鳴き声が、やけに近くから聞こえた。
「姉は現実的な人だから多分大丈夫です。割り切りますよ」
「割り切れますかね。人の心は単純ではない」
「あれから二年も経つのですよ?」
「あなたは無事だから、何も失ってないから、そう言えるんです」
「……それは、たしかに」
反論出来なかった。その通りだったから。
彦さんに言った言葉を思い出す。他の人に比べたら浅い傷の私が、罪滅ぼしのために生きてるなんて言うの、ちゃんちゃら可笑しいよね。
私より傷が深い人はどうしたら良いの、って話になる。
それに彦さんから見たら、アタシは想い人に会いたいだけの、頭の軽い女だよね。
「いや、余計な事を言いました」
弥次郎は頭を下げた。茶を飲み干した三郎と共に、六さんの舟へと歩いて行く。
アタシは礼儀正しく見送った。
アタシ達は声を潜めて話していたけど、姉に少し聞こえたらしい。台所で、姉に言われた。
「弥次郎さんの事、怒らないであげて。私に関しては、誰でも思う事よ」
「でもさ、心に引っかかるじゃない。そりゃアタシだって、姉さんに蟠りが無いか気になるけど」
「そうね。抵抗感は、ある。だけど、いつまでも過去の事を引きずっていられないわ。それにね……」
「それに?」
皿洗いする手を止め、姉は囁いた。
「金吾さん、あの人に似てた。生まれ変わりとは違うけど、あの人が金吾さんに会わせてくれたのかなって思った。不思議な力で」
もう寂しくならないように、自分の代わりと引き会わせてくれた、と……姉は、そう考える事にしたのだ。
その声は少し震えていた。
「忘れる事は出来ないけど、終わりにしなきゃ」
「姉さん。あのさ……」
「何も言わないで。何も聞かないで」
そう言われたら黙るしかない。見守る事しか出来ないや。
それで良いのだろうか。
アタシは姉の洗った皿を拭きながら、色んな事を思った。雀の鳴き声が、やけに近くから聞こえた。
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