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第二章 おふくろの味としじみ汁
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こうして段取りが決まると、おチヨとサトミは勘定を払い、店を出た。ちょうど六さんの舟も到着していた。
「よろしくお願い致します」
二人はアタシに頭を下げた。
特におチヨは気まずそうだ。
「無礼な態度をお許し下さい。山川屋の者として、威厳を崩したくなかったのです」
「だからって失礼すぎよ。もう良いから、逆に、アタシには気を遣わないで。本音をぶつけてよ」
「分かりました……。あなたが例の味噌汁を作り上げてくれないと色々面倒ですので、よろしくね。トモミ様の口に合う上等なものが作れるか不安ですけど」
「断りたいけど、引き受けた。あなたがアタシにひれ伏すほど美味しい味噌汁を作ってやるから首洗って待ってろ」
人をひれ伏させる味噌汁って何だろう、と自分でも思った。
二人を見送ると、次介・孫助兄弟から赤貝飯を注文された。アタシが醤油に漬けたこの赤貝は、勿論江戸湾で獲れた物。赤貝飯と長葱入りの味噌汁を出すと、兄弟は競うように食べ出した。
「美味ぇ! 漬け醤油が白飯に合う!」
「赤貝も美味しい」
「そうだな、兄貴。このコリコリした食感が面白い」
そうしてる間に男が二人、猪牙舟に乗ってやって来た。どちらも、さくらには寄らず去って行った。
猪牙舟の漕ぎ手は彦さん。また軽い会釈をお互いした。
アタシは少し彦さんと話したくなって、母に客あしらいを頼みら、舟着場へ足を進めた。
「彦さん」
アタシが大きな声で呼ぶと、彦さんは舟を固定して河岸へ上がって来た。
「どうした?」
「べつに、用があるという訳じゃないのだけど。お喋りしたくなっただよ」
「あの女二人は帰ったのか」
さっきまで何があったのか、アタシは簡単に話した。彦さんは興味無さそうにだが最後まで聞いてくれた。
「面倒で厄介な注文だけど、アタシの料理の腕を頼りにされるなんて、自信が湧いたわ。だから、お父ちゃんから許しを貰えたらすぐ取りかかる」
そんなやる気に満ちたアタシを彦さんは冷ややかな目で見ていた。
「張り切りすぎるな」
「何故?」
「おタキさんは、その味噌汁を飲んだ事無いのだろ?」
「ええ。そうよ」
「味が分からないのに再現なんて出来るのか」
それはそうだ。それに関してはアタシも思案中だ。
「よろしくお願い致します」
二人はアタシに頭を下げた。
特におチヨは気まずそうだ。
「無礼な態度をお許し下さい。山川屋の者として、威厳を崩したくなかったのです」
「だからって失礼すぎよ。もう良いから、逆に、アタシには気を遣わないで。本音をぶつけてよ」
「分かりました……。あなたが例の味噌汁を作り上げてくれないと色々面倒ですので、よろしくね。トモミ様の口に合う上等なものが作れるか不安ですけど」
「断りたいけど、引き受けた。あなたがアタシにひれ伏すほど美味しい味噌汁を作ってやるから首洗って待ってろ」
人をひれ伏させる味噌汁って何だろう、と自分でも思った。
二人を見送ると、次介・孫助兄弟から赤貝飯を注文された。アタシが醤油に漬けたこの赤貝は、勿論江戸湾で獲れた物。赤貝飯と長葱入りの味噌汁を出すと、兄弟は競うように食べ出した。
「美味ぇ! 漬け醤油が白飯に合う!」
「赤貝も美味しい」
「そうだな、兄貴。このコリコリした食感が面白い」
そうしてる間に男が二人、猪牙舟に乗ってやって来た。どちらも、さくらには寄らず去って行った。
猪牙舟の漕ぎ手は彦さん。また軽い会釈をお互いした。
アタシは少し彦さんと話したくなって、母に客あしらいを頼みら、舟着場へ足を進めた。
「彦さん」
アタシが大きな声で呼ぶと、彦さんは舟を固定して河岸へ上がって来た。
「どうした?」
「べつに、用があるという訳じゃないのだけど。お喋りしたくなっただよ」
「あの女二人は帰ったのか」
さっきまで何があったのか、アタシは簡単に話した。彦さんは興味無さそうにだが最後まで聞いてくれた。
「面倒で厄介な注文だけど、アタシの料理の腕を頼りにされるなんて、自信が湧いたわ。だから、お父ちゃんから許しを貰えたらすぐ取りかかる」
そんなやる気に満ちたアタシを彦さんは冷ややかな目で見ていた。
「張り切りすぎるな」
「何故?」
「おタキさんは、その味噌汁を飲んだ事無いのだろ?」
「ええ。そうよ」
「味が分からないのに再現なんて出来るのか」
それはそうだ。それに関してはアタシも思案中だ。
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