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第二章 おふくろの味としじみ汁
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アタシは二人に聞いた。しかし言葉を返したのは孫介だった。
「話の流れで分かるだろ」
「うっすら分かるけど、ハッキリ言ってほしいです」
「優しくない」
「甘くないだけです」
いちいち人助けしていたらキリがない。しかし、あの火事の被害者となると、放っておけなくなる。
「アタシに、あなたの母親が作った味噌汁の味を再現してほしいのですね」
トモミとおチヨが同時に頷いた。
「奥様は料理を女中に全て任せず、味付けや味噌汁は自ら作られていました」
おチヨが付け足した。
「そして、その時使っていた調味料が故郷の豊後国の物が多かったようです。余っている調味料で、おかずの味は再現出来ましたが、何故か味噌汁だけ上手くいかないのです。そこで、味噌汁の評判が良い船宿さくらに目を付けました。どうかトモミさまのために、奥様の味噌汁を再現して頂けないでしょうか」
それを聞いてアタシの母が間に入った。
「ちょいと、お待ちよ。勝手なお願いをしないで頂戴。うちは、さくらはそんな事まで請け負ってない。おタキ。あんたもね、船宿さくらはあんたの店じゃない。あんたのお父さんの店なのよ」
たしかに、そうだ。アタシはさくらの休憩処を任されているだけ。
店の中でやる事の決定権は父にある。
「でも、見捨てられません」
「話の流れで分かるだろ」
「うっすら分かるけど、ハッキリ言ってほしいです」
「優しくない」
「甘くないだけです」
いちいち人助けしていたらキリがない。しかし、あの火事の被害者となると、放っておけなくなる。
「アタシに、あなたの母親が作った味噌汁の味を再現してほしいのですね」
トモミとおチヨが同時に頷いた。
「奥様は料理を女中に全て任せず、味付けや味噌汁は自ら作られていました」
おチヨが付け足した。
「そして、その時使っていた調味料が故郷の豊後国の物が多かったようです。余っている調味料で、おかずの味は再現出来ましたが、何故か味噌汁だけ上手くいかないのです。そこで、味噌汁の評判が良い船宿さくらに目を付けました。どうかトモミさまのために、奥様の味噌汁を再現して頂けないでしょうか」
それを聞いてアタシの母が間に入った。
「ちょいと、お待ちよ。勝手なお願いをしないで頂戴。うちは、さくらはそんな事まで請け負ってない。おタキ。あんたもね、船宿さくらはあんたの店じゃない。あんたのお父さんの店なのよ」
たしかに、そうだ。アタシはさくらの休憩処を任されているだけ。
店の中でやる事の決定権は父にある。
「でも、見捨てられません」
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