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第二章 おふくろの味としじみ汁

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 顔はそのまま、視線だけ動かすと、男達は卓の下で音を出さずに拍手していた。

 アタシは急いで白米と味噌汁、そして別のおかずの用意に取りかかった。

「さて……」

 食材は青物なら色々ある。が、魚は干物しかない。

 今朝は雨が降るかもと思い、客が少なかった時のために余っても困らない食材だけを仕入れたのだ。魚は干物でないと保存出来ない。

 あと、あるのは……

「よく考えてみよう」

 アタシは一旦手を止めた。

「あの人達は味噌汁を欲していた」

 おチヨとトモミ。彼女らが儲かっている大店のお嬢様とその女中である事は、着物や振る舞いから予想出来た。

 では、そんな上級町民の娘達が、何故わざわざ深川の河岸の隅っこにある小さな船宿へ来たのだろう。しかも猪牙舟で。

 おチヨは、何度も言うほど「味噌汁」に拘っていた。

「味噌……」

 アタシは閃いた。






「お待たせしました。白飯、菜の花入りの味噌汁、ヨメナのおひたし、そして……味噌田楽です」

 盆に乗せて、アタシはそれらを運んだ。

 ほくほくの湯気が出る田楽を、おチヨもトモミも凝視していた。隣の卓の男達もこっそり覗いている。

 我ながら上手く出来たと思う。こんにゃくを茹でて、迅速にタレを作った。タレは甘ったるいとくどいだけだから、からしを少し入れて辛味・酸味を足した。

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