上 下
291 / 362

第290話

しおりを挟む
「あれが、グレイが話してくれた村ですね」

歩いていると小さな村が見えてきた。

アリシアがグレイに向かって話しかける。

「ああ。間違いない。あの村だ」

グレイが村の様子を見ながらアリシアの言葉に応じる。

『懐かしいな。我が初めて訪れた人里だ』

イズが嬉しそうに呟く。

「確か、村長さんに地図を頂いたのでしたよね?」

アリシアが以前にグレイに聞いたこの村での出来事を思い出しながら尋ねる。

「ああ。この地図を貰った。お陰でアリシアと再会することができたんだ」

グレイは腕輪の力で村長に貰った丸まった古ぼけた地図を取り出しアリシアに渡す。

アリシアが今にも破れてしまいそうな地図をそぅっと広げ、中身を見る。

その地図には、この村の位置と魔法学園がある位置に印が付けられている。

「かなり古い地図ですわね。ですが、この村と魔法学園を示すには充分ですわね」

アリシアは微笑むと、丁寧に地図を丸めグレイにそっと返した。



「・・・変だな。静か過ぎる・・・先日来た時はもう少し人気があったはずだが・・・」

無事に村に入ったグレイが呟く。

以前来た時には農作業をする者や洗濯をする者、広場で遊ぶ者などがすぐに見えたが今は人一人見当たらない。

「そうですわね。静か過ぎますわ。ですが、何かに襲われたような感じはしません」

アリシアも周りを見回しながら違和感を感じるがそれが何かは分からないようだ。

真っ先に思い浮かぶのは盗賊などによる襲撃だが、そのような形跡は見当たらない。

「ひとまず、村長の家に向かってみよう」

「はい。そうしましょう」

グレイとアリシア、イズの三人は中央にある村長の家を目指すことにした。



しばらく歩いて行くと中央にある村長の家が見えてきた。

「皆、ここに居たんだな」

村長の家に入りきらない位の人々が周りに立っているのが見えてきた。

「・・・何か様子が変ですわね。皆さん凄く落ち込んでいる様子ですわ」

アリシアが村人たちを見て様子がおかしいことに気が付く。

「・・・あれじゃあ、入れない。しばらく、様子を見よう」

「それがいいでしょうね」

グレイの提案にアリシアが頷くと近くの広場に移動する。

「一体何があったのでしょうね」

広場にある椅子に座るとアリシアがグレイに尋ねる。

「・・・たぶん。村長の身に何かあったんだろう」

アリシアの言葉にグレイが返事をする。

「・・・もしかして、村長さんの寿命が近いのですか?」

グレイの言葉に何かを感じたのかアリシアがグレイに尋ねる。

「・・・ああ。あと1年はあるはずだが、寿命が尽きるのは病気の所為だったのかもしれない」

グレイが持つ能力は相手の寿命を視る能力である。

だが、その原因が何なのかまでは分からない。

事故による場合、事件に巻き込まれる場合、病気に侵される場合など様々だ。

しかし、これまでの経験から可能性を考える力はかなり鍛えられていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...