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第257話

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「えーっと、その過程で短い距離の空間移動が出来るようになったんだって?」

一体どうしたら魔法陣の解読の過程で短いとはいえ魔法陣無しでの空間移動が可能になるのか。

訳が分からないながらもグレイはアリシアに事実を確認する。

「はい・・・このように」

アリシアが「はい」と言った瞬間、グレイの背後に移動し、「このように」とグレイの後ろから告げる。

「っ!?」

グレイの体が硬直する。

「論より証拠。これではっきり伝わりますわね」

今度は先程話した位置に戻ったアリシアが静かに告げる。

「・・・アリシアが言うことに疑う気は無かったけど、本当みたいだね・・・というか、無言で魔法を行使してなかった?」

グレイはアリシアのデモンストレーションを見て気になった事を尋ねる。

「?・・・ああ、これのことですか?」

アリシアはグレイの言葉にキョトンとしてから右手の平を上に向けて当たり前のように無言のまま【炎】を出す。

「!?・・・ははっ、出来ちゃうんだ・・・」

(今日は朝から驚いてばかりだな・・・)

グレイはもはや驚き疲れてきたのを感じる。

一体、無言のまま魔法を発動できる人間がこの世に何人いるのだろうか。

事もなげにやって見せるアリシアを見てグレイは自分の常識が崩れていくのを感じる。

「はい。まあ、効率が悪いので滅多には使わないのですけどね」

「?効率が悪いの?」

アリシアの言葉に引っかかりを覚え、尋ねるグレイ。

「はい。【炎】よ・・・如何ですか?威力が全く異なりますでしょう?」

アリシアは右手に炎を出したまま、左手にも炎を出す。

グレイはひと目見てアリシアの言いたいことを理解する。

「なるほど、威力が全然違うんだね」

アリシアの右手の炎と左手の炎ではサイズが倍くらい異なっていた。

「ええ。これでは、戦闘中に使うのはちょっと・・・」

アリシアが残念そうに言う。

(・・・魔法って同時に行使できたんだっけ?)

グレイはもはや何が常識か分からなくなっていたが、今いうべき言葉はそれでは無いと別のことを口にする。

「本当にそうかな?」

「え?」

グレイの呟いた言葉にアリシアは聞き返す。

「普通に考えたらアリシアのその魔法は相手の虚をつけると思うんだが・・・」

有るものを全て捻り出して勝利してきたグレイにはアリシアの無言での魔法がとても使い勝手の良いものに思えた。

キーワードを言うことで魔法を放つのが常識になっている中では脅威だろう。

実際、グレイがマーガレットの魔法を見た時・・・あれは厳密には無言での魔法とは異なるようだが・・・は脅威的に見えた。

グレイの言葉を聞いたアリシアははっとし、考え始める。

「・・・言われてみればそうですわね。グレイの言うように応用がききそうですわ。ありがとうございます」

アリシアの頭の中では今や様々なアイディアが浮かんでいるのだろう。

楽しそうな顔をしている。

グレイはアリシアのその様子を見て自分の言葉がきっかけで思考の幅が広がった事実に対して喜ぶと共にこう思った。

ああ、これで俺はアリシアに勝てる目は殆ど消えたな

と。
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