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第82話
しおりを挟むグレイは先導するイズの後を追いかけながら自問する。
(俺は何で走っているんだ?赤の他人のために)
流石に目の前の怪我人を助けるのは当然のことなのでノーカウントだが、今の行動は自分がやるべきことではないと言っても責める人は少ないと思う。
(その道の専門である騎士の方に任せておくのが普通の考えだよな)
恐らく母親である女性が刺され、連れ去られた子どもからしたらグレイが今考えていることは到底賛同できるものではないだろう。
誰でもいいから助けて欲しいと切に願っているはずだから。
だが、グレイの立場からしたら、今の行動は一般人の範疇を超えていて自分がやるべき行動ではないと考える人がいてもおかしくない。
それなのに何故自分は走っているのか。
グレイは自分の行動が理解できないまま走っていた。
(たまたまアリシアさんを2回救えたくらいで自惚れているのか?)
マギーの時だって、ナガリアの時だって正直自分の能力以上のものを出せたからこそ運良く何とかなっていたに過ぎない。
余裕だったことなど一度もない。グレイは綱渡りしかしていないのである。
(アリシアさんの目の前だから恰好をつけただけか?)
グレイだって男だ。気になる女性であるアリシアの前で恰好もつけたくなってもおかしくはない。
ここでふと、グレイはとんでもない性能を持っている腕輪を見た。
やろうと思ったら、この力を使えば何でもできるだろう。
(・・・そうか)
グレイはここまで自問を続けてようやく自分が何故今走っているのかを理解する。
(自惚れもあるだろう。アリシアさんの前で恰好つけたいのもあるだろう。もちろん、あの女性を刺した加害者に対する感情もある。そして誘拐された子どもを助けていという気持ちもある。だが、俺は、それ以上に自分なら出来る可能性があることから目を背けたくないんだ)
今までのグレイは、魔法学園の学費と生活費を稼ぐということに必死になるという言い訳をして、積極的に物事に取り組むということをしないできた。
それはある意味仕方のないことであるので悪いことではない。
だが、アリシアとの接点から学費や生活費の心配から解放された今、グレイの中で燻っていた感情が強くなっていた。
すなわち、『自分はどこまでのことが出来るの人間なのかを知りたい』という欲求である。
グレイはここまで来て、心のもやもやが晴れるのを感じた。
迷宮を出てからの道中の事も含め、自分の行動の理由がようやくはっきりしたのだから。
(よし・・・もう迷う必要はないな)
グレイは自分の行動理由を端的な言葉で言い表すことにする。
そうすることで目の前のことに集中できる気がしたからだ。
「俺は・・・挑戦者だ」
グレイが自分の行動理由に自分なりに腹落ちした時、
ピィィィィィ
イズが鳴き声のように合図をした後、グレイの左肩に戻ってくる。
どうやら、あの建物に加害者と連れ去られた子どもがいるようだ。
(・・・周りに仲間がいる雰囲気は無いな)
グレイが辺りを警戒するが周りには人の気配が感じられない。
いつの間にか簡素な場所に来ていたようで、周りには建物すら殆どない。
(・・・ゆっくり近づこう。わざわざ女性は刺して子どもは拉致したくらいだ。直ぐにどうこうすることはないだろう)
グレイはそのように見当をつけると、静かにイズが示した建物に近づく。
「・・・バレバレだ。中に入ってこい」
グレイの素人染みた動きでは相手には筒抜けだったようでグレイが建物に近づいた途端に中から声が掛けられる。
「っ!?」
グレイは心臓が飛び出るくらい驚き、
(・・・こうなったら仕方がない。入るか)
覚悟を決める。
そして、
「イズ、俺に何かがあったら直ぐに逃げてくれ。そして、できるならアリシアさんの傍にいてくれ」
念のためにイズに小声でお願いする。
『・・・』
イズはグレイがどうこうなることに納得しかねる雰囲気を出したが、渋々頷く。
「ありがとう」
グレイは礼を言うと、
ギィ
軋む音を出す扉を開け、建物の中に入る。
イズは中には入らず、建物の中が見える窓の近くで成り行きを見守る。
「隙間風が癇に障る。直ぐに閉めてくれ」
グレイが建物の中に入ると、中にいた者がグレイにそのように要求する。
「・・・」
ギィ・・・バタン
グレイが無言で相手の要求に従い、扉を閉める。
そして油断なく相手の様子を伺う。
ボロボロの黒の外套を羽織った男である。
髪は短く、真っ白色をしている。
余裕があるのか、部屋に一つしかない椅子に座り、テーブルの上に置いてある酒を飲んでいる。
その後ろにはもう一つの部屋があるのだろう扉が見える。
(・・・拉致した子どもはあそこだな)
グレイはそう見当をつけた後、相手の情報を少しでも得るため、寿命を視る。
『マドッグ・ゾイド。39歳3ヶ月。残り寿命××年××月××日』
(・・・何てこった。こいつもか・・・)
グレイは自分、アリシアに続いて目の前の男も寿命が視れず、内心で動揺する。
さらに、
「・・・お前が、グレイ・ズーだな?」
全く面識が無いはずの相手がグレイの名前を呼んできた。
「!?・・・何故俺の名前を知っている」
流石に動揺を隠しきれず、グレイは相手に問いかけた。
「何故だと?・・・そうか、自覚が無いんだな」
男が呆れたように言う。
「・・・何のことだ?」
グレイが訳が分からず尋ねる。
男は、グレイの言葉には直ぐには答えず、飲んでいた酒を空にすると、椅子からゆっくり立ち上がる。
「俺はお前の先生じゃない。聞いたら教えて貰えるなどと思うな」
セリフと同時にグレイを襲う殺気。
ピリピリ
心なしか肌がしびれるような感覚に陥る。
(・・・まぁいい。相手が誰であろうと俺がやることは変わらない)
グレイは戦闘態勢に入る。
「そうか、ならお前を倒した後で色々答えて貰うぞ、マドッグ」
「!?・・・やはり只のガキではないようだな」
グレイが相手の名前を言うと、男・・・マドッグは明らかに警戒レベルを引き上げた。
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