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第81話
しおりを挟む「人も増えてきましたし、動きましょうか」
アリシアが周りを見ながらグレイに向かってそう呟く。
グレイも周りの様子を見ながら、
「はい。よろしくお願いいたします」
敬語に戻しつつ返事をすると動きを再開した。
「おお、凄いですね。こんなにも栄えているとは想像以上です」
グレイとアリシアはモリアスの町の大通りにやってきていた。
余りにも多い屋台の数にグレイは驚きながら呟く。
グレイの左肩にいるイズも物珍しそうに首を左右にせわしない。
「ふふふ。そうでしょう?ここの大通りは王都にも負けませんわ」
アリシアはそんなグレイの様子に笑みを浮かべながら自信満々に答える。
「そうなんですね。王都というのもいつか見てみたいものです」
比較をしようにもこの町しか見たことが無いグレイが王都にも興味を持ち呟く。
「・・・恐らくそう遠くない内に王都にも行けると思いますわ」
アリシアが王都に行く予定があるのかそのように答える。
「?王都に行かれる予定があるのですか?」
何しに行くんだろう?グレイはアリシアの言葉に不思議に思いながら尋ねる。
すると、はっとしたアリシアが、
「あ、いえ何でもありませんわ。ただ、そんな気がしただけですので」
意味深に答える。
「それって・・・」
グレイが追加でアリシアに質問をしようとした時であった。
「キャァァァァ!!」
突然、町中に大きな悲鳴が響き渡った。
「「!?」」
グレイとアリシアは一瞬顔を見合わせると、同時に頷き、悲鳴の方に走り出す。
そして、グレイの左肩にいるイズが飛び立ち先を行く。
「どっちだ!」
やがてやってきた分岐路でグレイが声を上げる。
直ぐにイズが右側に移動する。
「あっちですわ!」
それを見たアリシアが声を上げ、グレイとアリシアが右に向かって行く。
するとすぐに人だかりになっているのが見えてきた。
「すみません!通してください!!」
「失礼いたします!」
アリシアとグレイは2人とも立ち止まることなく人だかりを掻き分けていく。
そして、
「・・・何と言うことを」
「酷いですわ・・・」
二十代後半から三十代の女性が血だまりの中で倒れていた。
その人に寄り添うように一人の女性が腹部から溢れる血を必死で抑えているが他の人間は遠巻きに見ているだけで動こうとしない。
その状況にいら立ちを覚えたアリシアが、
「すみません!私《わたくし》はバルム家長女アリシア・エト・バルムです!どなたか、医者と騎士を呼んできてください!!」
呆然としている連中に指示を出すと
「3大貴族の・・・」「俺、呼んでくる」「俺も!」と口々に叫びながら、移動を開始する。
先を越されたグレイがにっと笑うと、すぐに傷ついた女性に近づき、傍で必死に血を抑えるもう一人の女性に声を掛ける。
「大丈夫ですか!?私が変わります!」
「血が・・・血が止まらなくて・・・」
グレイが少し放心気味の女性・・・意外と若くもしかしたらアリシアとグレイと同年代かもしれない・・・が押さえている布を受け取ると血が流れ出ないように強く押さえた。
(早く、何とかしないと・・・)
見る見る血が溢れ出ているのが女性の傷を押さえている手から伝わってくる。
早く治療しないといけないが、【エリクサー】を使うところを他の人間に見せる訳にはいかない。
(・・・よし、なら・・・)
そこで、グレイは今手で押さえている布越しに【エリクサー】を腕輪の力で少しずつ【展開】していく。
(ここからならバレないはずだ)
グレイの機転があり、傷ついた女性の顔が青ざめた顔から段々と血行の良い顔に戻っていく。
流石は万能薬である。
「グレイさん!」
そこで周りの人に指示を出していたアリシアが駆け寄ってくる。
「アリシアさん。『回復促進の癒し』をかけて上げてください!!」
グレイがすかさずアリシアにお願いをする。
そして小声で、
(多分もう大丈夫です)
それだけでグレイが既に上手く【エリクサー】を使ったことを理解したアリシアが頷き、
「分かりましたわ。代わりますわ」
グレイが押さえている血まみれの布をアリシアが代わりに押さえる。
「よろしくお願いいたします」
グレイがアリシアにお願いをすると、直ぐにもう一人の女性に向き直り、
「あなたは、この方を刺した奴を見ましたか!?」
無理もないが未だに血が・・・血が・・・といって呆けているため、大きな声を掛ける。
女性はビクッと体を震わせると、ここでようやくグレイを見ると、
「あ・・・はい。突然ある男がその女性を刺すと、傍らにいた子どもを連れて去っていきました。あまりにも唐突で、私・・・呆然としてしまって・・・」
私がもっと早く処置出来ていればと繰り返し呟きながらグレイに概要を話す。
(子どもだって?)
グレイは直ぐに立上り周りを見回す。
当然だが既に加害者の姿は無い。
すると、空からイズが飛んできた。
グレイはイズの目を見て、加害者の行方を掴んだのだと理解する。
(どうする?追いかけるべきか?アリシアさんを置いていくわけにはいかないし・・・)
グレイは迷う。
そして、回復促進の癒しの魔法を使っているアリシアの方に目を向ける。
「・・・行ってください。私《わたくし》は大丈夫です。騎士の方も程なくいらっしゃるでしょうし」
グレイが何を迷っているのかすぐに理解したアリシアがグレイが行きやすいように後押しする。
「・・・ありがとうございます」
グレイは一瞬迷った後、アリシアに礼を言うとイズの案内に従って走り始めた。
「どうかご無事で」
アリシアはあっという間に見えなくなったグレイの背中に向かって声を掛ける。
ちょうどその時、
「どうした!何があった!?」
「大丈夫ですか!?私は医者です。治療を代わります!!」
騎士達数人と、医者が駆けつけたのだった。
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