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第77話
しおりを挟む『グレイ、ありがとう』
イズを伴ってグレイが使わせて貰っている客室に入るや否やイズがグレイの前に来て礼を言ってくる。
「温泉地のことか?気にしないでいいよ。情報をどう集めるかは良く分からなったからゾルム様に受けて貰えて良かったよ」
グレイが心当たりを呟いた後、ほっとする。
グレイには情報を集める伝手などあろうはずも無かったので、噂を集めるといったことをイメージしていただけで、具体的にどうしようかはピンと来なかったのだ。
『ああ、その事だ。・・・しかし・・・』
イズが肯定した後、言いづらそうにする。
「・・・他の要望の事か?仕方ないだろう。アリシアさんが無事だったということだけで俺は満足なんだから。御礼を貰うためにやったわけじゃない」
グレイはイズの言いたいことを悟り呟く。
『くれると言っておるのだから金一封でも貰っていつかの家に風呂計画のために貯めておけば良いではないか』
「ごめんな」
イズの言いたいことは分かる。分かるがどうしてもグレイにはそう言う気持ちにはならなかった。そのため、ひとまず謝る。
イズはグレイを呆れたように見た後、
『・・・まぁ、いいさ。だが、我はもう少し欲を持っても良いと思うぞ』
「助言ありがとう。善処するよ」
自分のことではないのに親身になってくれるイズの様子にグレイは笑いながら答えた。
コンコンコン
ちょうどその時、客室の扉を誰かがノックする。
「はい。どなたですか?」
グレイがノックをした誰かに向かって声を掛ける。
『・・・グレイ、こちらの声は向こうには届かないぞ』
イズがグレイの左肩に戻りながら教えてくれる。
「ああ。そうだった」
グレイは防音の魔法陣が施されている部屋なのに外から扉が叩かれると音が響くのは不思議だなと思いながらイズの言葉に反応しながら、扉に向かう。
ガチャ
「どなた様ですか・・・ってアリシアさん」
グレイがそっと扉を開けるとそこにはさっきぶりのアリシアが立っていた。
「はい。グレイさん。来ちゃいました。入ってもよろしいですか?」
「もちろんどうぞ」
グレイが返事をすると、アリシアは隣に置いていた台車を転がし客室に入ってくる。
台車には白い布がかかっており入っていいるものの中身は見えないがゴツゴツしたものが入っている印象を受けた。
「どうぞ、座って」
グレイが台車の中身は気になりつつもソファにアリシアを誘導する。
「はい。失礼いたしますわ」
アリシアが優雅にソファに座る。
「・・・それでアリシアさんはどうしたの?」
グレイはアリシアの綺麗な足に見惚れそうになるのを堪えつつ、アリシアの目を見て尋ねる。
「あら?用がなければ来てはいけませんか?」
アリシアがグレイをからかうように笑みを浮かべ質問で返す。
(うう・・・その顔は反則だろ)
グレイはアリシアの普段は見せない顔に顔が赤くなるのを感じる。
「・・・いいえ。そんなことはありません」
思わず敬語に戻りつつグレイが答える。
「ふふふ。良かったですわ」
アリシアは嬉しそうに呟いた。
「さて、グレイさんのところに用がなくても来たいというのは本心ですが今回は本題もありますわ」
「・・・どんなこと?」
グレイはだったらさっきのやり取りは何だったんだ・・・酷く動揺したから勘弁して欲しいと思いながらも顔には出さないようにしてアリシアに用が何かを尋ねる。
「はい。・・・グレイさん、明日一緒に町に行きませんか?」
アリシアが少し顔を赤くしながらグレイに尋ねる。
「構いませんよ。『付き人』としてですよね?」
グレイは本来は平日だけの仕事ではあるが、自分の意思では無いものの1か月仕事をしていなかったので土曜日であろうと日曜日であろうと自分の都合が悪くない限り仕事をしようと思っていたので快諾する。
すると、アリシアは何故か頬を膨らませて、
「違います。この前約束したじゃありませんか?」
否定してくる。
(なにこれ・・・可愛すぎる)
グレイはアリシアの様子に思わず頭を撫でたくなる衝動を必死で抑えつつ、アリシアが約束といったことについて考える。
(・・・・・・あ、思い出した)
グレイは色々あり過ぎてすっかり忘れていたアリシアの言う約束について思い出す。
(あれは、そう屋上での事だったな)
====================
「・・・じゃあさ、今度町に一緒に遊びに行ったときに何か屋台か何かの食べ物をご馳走してくれない?」
ダメ元ながら言ってみる。
アリシアは意表を突かれたように一瞬きょとんとしてから、
「もちろんでございますわ!屋台と言わず私《わたくし》のお気に入りの料理をご馳走させて頂きますわ!!」
====================
「・・・どうやら思い出してくださったようですわね」
アリシアがグレイの様子を見てそう呟く。
「うん。ごめん。その後に色々なことが有り過ぎてすっかり忘れてた・・・」
(あの時はデートの約束が出来たと喜んでいたけど、その後にゾルム様に会ったり、付き人になったり、決闘したり、拉致されたり、迷宮攻略したり、必死でここまで戻ってきたり、ナガリア達と戦ったりしてすっかり忘れてた)
「ふぅ。まあいいですわ。確かに色々なことがありましたもの」
グレイの言葉にアリシアは呟く。
(考えてみますとグレイさんの場合は状況変化が大きすぎて覚えていなくてもおかしくありませんものね。私《わたくし》の場合はグレイさんが居なくなってずっと辛かったので交わした言葉ばかり思い出してましたから・・・)
「本当にごめん。許してくれてありがとう」
グレイがアリシアに謝ると、
「謝ることはございませんわ。思い出してくださったならそれで構いません。では、い・・・一緒に町に行ってくださるということで宜しいですか?」
アリシアはここまで話した後になるとデートの誘いをしているということをはっきりと自覚し、気恥ずかしさを感じながらもう一度グレイを誘う。
「うん。俺で良ければ喜んで」
グレイは嬉しそうに快諾した。
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