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第67話

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「・・・あなた親は?」

「わからない。俺は捨て子なんだ・・・」

疲れ切った声。

あちゃあ、気まずいこと聞いちゃったわね。

「・・・悪いこと聞いちゃったわね・・・同情はするけど、食い逃げは許されないわ」

「わかってる。捕まった俺に力がなかっただけだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

他人事のように言う女。

ダメだわ、この調子じゃあ、またやりかねない。

「真面目に働くつもりはないの?何もこんなことをしなくたって・・・」

「そりゃあ、あったさ!俺も昔は真面目に働こうといろんな店や家に行って頼み込んだりもした。でも、素性も知れない人間を雇ってくれるところなんか一軒もなかった・・・」

「そう・・・なの」

ひょっとしたら男のように振る舞っているのも女だからということでつらい目にあっていたなんて事があったからかもしれないわね。

よし。

あたしは女に向かい合い、目の高さを合わせた。

「な・・・なんだよ」

「あなたに働ける場所を提供してあげようか?」

「・・・」

あたしの言葉に女は口を開けてポカンとする。

・・・ちょいと唐突すぎたかもしれないわね。

少ししてから、

「・・・何でそんなことを?」

躊躇いがちに聞いてくる。

当然の反応ではあるわね。

「うーん。気紛れってやつよ。もちろんさっきの店に謝罪に行った後のことだけどね」

国都では顔は広くないけど、たぶんギルバートに頼めばなんとかなるだろう。

「ほっ、本当か!?」

勢い込んで尋ねてくる。

「ええ。もし見つからなくても、あたしがあなたを一人前の戦士に育ててあげるわ。あたしもまだまだ未熟だけど教えられることはたくさんあるからね」

「ありがとう」

女は瞳を潤ませて深々と頭を下げた。

なんか照れるわね。

「でも条件が二つあるわ」

あたしは指を二本たてて女にむかって言う。

「条件って何だ?」

「一つは、もう二度とこんなことはしないってことよ」

あたしは女がゆっくりと頷くのを見てから、

「もう一つは、男の振りなんかしないってことよ」

といって片目を閉じた。



「申し訳ありませんでした」

先程の店の主人にむかって、女・・・名前はサイカというらしい・・・が深々と頭を下げた。

「謝ってすむと思っているのか!」

いかにも頑固親父といった感じの店主が激昂する。

まあ、無理もない反応だけどね。

「すみませんでした」

他にどうすることもできずにただただ謝るサイカ。

「うるさい!役所に突き出してやる!」

店主がサイカの肩に腕をのばす。

「おっと、その辺で勘弁してあげてくれない?」

その腕を掴みあたしがやんわりという。

「しかし・・・」

いきなり捕まれてびっくりしたのか、先程の勢いがない。

「この子の事はあたしが責任持って面倒見るわ」

店主があたしの目をじっと見て来た。

あたしは目をそらさないで見返す。

やがて店主が肩をすくめる動作をした。

「負けたよ、お穣ちゃん。今日のことはなかったことにしてやろう」

「あ・・・ありがとうございます」

サイカが今日何度目かの御辞儀をしたのだった。

あたしはリリヤとサイカの分の食事代をまとめて支払い、二人を連れ立って店の出口へと向かう。

「待ちな!」

店主がサイカを呼び止めると、

「次は自分の金で食いに来な」

ビクビクしていたサイカに向かって仏頂面で言う。

「はい・・・」

そういってうつむき涙を流したのだった。
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