私を見つけた嘘つきの騎士

宇井

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3 私闘

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 とうに腹は決めているはずなものの、私はゆっくりと上着を脱ぐ。

 いいんですよ、往生際が悪くても。

 近衛の上着は紺色。一見地味だが、赤の太いラインが印象的に入っている。目に焼き付くようなその色がバラの騎士団と呼ばれる由縁かもしれない。
 上着は明日も着なければならないから、ベンチの上の砂埃を払い、皺が寄らないようにと畳んでいると、私の行動にいらついたような先輩の舌打ちが聞こえる。
 でもね、支給されている二着を交互に着ている私からしたら、当然の行為なのだ。一着はただいま洗濯中。明日の替えはないのだから。

 ウィルマ先輩はいいですよね、今は汚れてもいい用のやつ着てるし、制服も沢山お持ちのようだし……

 ズボンが汚れるのはしょうがない、諦めて砂だらけになろう。でも上だけは譲れないのですよ。
 私は心の中でぶちぶちと文句を垂れる。
 また後ろから二度目の舌打ちが聞こえて、よやく観念した。
 鍛練場には誰の姿もなく、もしあったとしても、これも練習といえるのならば誰も止めてはくれないだろう。

 先輩の持つ二本のうちの一つが手元に投げられ、それをお腹の辺りで受け止める。握り直した瞬間に鍛練という名の虐めは始まった。

 一対一という所は認めようと思う。
 でも、私の苦手が剣術だという事を知っている所はいただけない。接近戦の体術なら勝てなくもない気がするけれど、剣はド下手。
 だからこその鍛練であると、ここは気持ちを切り替えて有り難く相手になって頂くべきだけど、私は賢くないし優等生でもない。嫌なものは嫌なのだ。

 近衛隊って私闘禁止じゃありませんでしたっけ? っていってもこの先輩には通じない。それは経験済みだった。
 私より細身とはいえ先輩は上背がある。防具もないのに顔を狙うなんて反則でしょってのに、遠慮なく振り降ろして来て、思わず「わぁっ」と情けない声で飛び上がる。
 切られた空気がブワンと耳の横で動く。いつ聞いても身がすくむ嫌な音だ。
 鋭い刃をごそっと落とした細身の練習刀とはいえ、カツンという軽い高音に反して腕に重い衝撃が走る。
 刀は振るってみるとリーチが思ったほど長くなく扱いやすい。しかし届く範囲が狭くなるほど体の動きは激しくなり、私は予想通り、ゆっくりと消耗していった。

 頭の中から玉の汗が転がり落ちる。
 様子見も含めて互角だったのは最初だけで、徐々に私はその剣先を受け流し、後方へと逃げる事しかできなくなっていた。が、先輩の表情も苦し気であまりよろしい感じではないので、ここか潮時だったのだろう。
 つばぜり合いの後、下から上へと突き上げるようにして、私がよろけ無様に尻もちをついた。

 ウィルマ先輩強い。きっと女性の中では一番の腕だ。

「パトリシア、身の程を知れ、貧乏貴族人風情が」

 先輩はもう私に背をむけ去って行こうとしていた。
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