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第29話 王子は魔眼の正体に納得がいかない
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「の、脳……!?」
分解した魔眼からこぼれだしたのは、極小の脳だった。
「魔眼が機械学習で未来を予測してたのはもしかして……」
この脳がその機械学習を処理していたのだろうか?
その「脳」を見ているうちに、「ショコラ」さんの知識が浮かんでくる。
「脳オルガノイド……?」
臓器を細胞単位でばらばらにしたあと、再集合させて小型の臓器を復元したものを、オルガノイドというらしい。
脳オルガノイドはその脳バージョンだ。
シリコンベースのコンピューターの計算速度には物理的な限界がある。
その限界に達した地球では、その限界を超えるために人間の脳を模倣する研究が進んだという。
脳を人工的に培養してコンピューターにつなぐ……という発想は、むしろ当然のものとして現れた。
その発想に、天才的なひらめきなど必要ない。
凡庸な研究者であってもすぐに思いつくような、ありふれたアイデアだ。
だが、ヒトの脳を培養することには、倫理的な問題がつきまとう。
ヒトの脳を培養した場合に、どの段階でその脳に「意識」が生じるのか?
「意識」の正体は地球でも解明されておらず、したがって、「意識」があるかないかを確実に判定する手段もない。
自分の培養した脳に「意識」が宿っているのではないか――
良心的な研究者たちは培養脳の研究に尻込みした。
だが、コンピューターの計算能力向上は、人類全体喫緊の課題となっていく。
人間の頭脳で思いつくようなイノベーションは、地球では既に刈りつくされ、これ以上の経済成長を実現するには、より強力な人工知能を生み出すしかないと言われていた。
地球の富の分布はますます偏り、一握りの大富豪と大量の失業者に社会が分断される現象が地球規模で深刻化していた。
そうした切迫した事情が、培養脳の研究から倫理的なリミッターを取り払った。
たしかに、培養脳には人間の胎児程度の意識が生まれる可能性があるかもしれない。
だが、その意識は自分の意識じゃない。
失業にあえぐ大多数の平民と、富を独占しながらもさらなる富を求める富豪たち。
いずれにとっても、経済成長は必要なのだ。
さすがに人間と同じサイズの脳を培養することは禁止されたが、小型の脳オルガノイドの培養は解禁された。
ヒトの小型培養脳とコンピューターの接続は、あっけないほどうまくいった。
そうして達成されたコンピューターの計算能力の爆発的な向上が、高度な人工知能や現実と見紛うレベルの仮想現実技術の開発へとつながったのだ。
……とまあ、地球の事情はそんなところだったらしい。
魔眼の中身が培養された「脳オルガノイド」だったというのは、未来視の魔眼の特性を思えば納得だ。
「……いや、納得か?」
たしかに、一見科学的な説明のように思えるが、
「これまで散々セーブポイントだのキャンプだの引き継ぎバグだのを使ってきたのに、どうして今さら、そんな取ってつけたような科学的な話が出てくるんだよ?」
いっそ、魔眼は魔族の目だから位相が見えるのだ、というような、大雑把なゲームっぽい説明だったほうが、Carnageの世界観にも合っている。
これまで魔法だのスキルだのといった正体不明の力を使ってきておいて、いきなり「魔眼の正体は小型培養脳でした」では、説明のバランス感が合ってない。
「それに、クラフトのこともある。この魔眼――いや、『魔脳眼』を百個集めて『クラフト』すれば『星眼』とやらができるらしいが……この脳みそのかけらを百個合成するってのは、いったいどういう仕組みなんだよ?」
Carnageのクラフトは、あくまでも冒険の添え物的なサブ要素にすぎなかった。
だから、製作工程はあまり掘り下げず、ざっくりと「クラフト」の一言に抽象化し、「素材を集めてクラフトすればすぐに完成」という、きわめて「ゲーム的な」システムになっている。
この「現実」においてもクラフトの抽象的なゲーム性はそのままだ。
前にも言った通り、鉄鉱石3つをクラフト台に載せてクラフトすると、ものの数秒でショートソードが出来上がる。
それと同じように、魔脳眼を100個揃えてクラフトすれば、「星眼」とやらができるのだろう。
こんなゲーム的なクラフトをそのままにしておいて、魔眼が培養脳でしたという部分だけ妙に「科学的」なのは違和感がある。
しかも、その科学的な説明を取ると、エスメラルダが魔眼を使って妖精に対抗できた理由がわからない。
「そもそも、だ。俺はゲームオーバーになるたびに脳を破壊されてることになる。それでも俺の意識がつながってるのに、魔眼の能力を培養脳の計算力で説明するのは変なんだ」
俺の意識は脳以外のどこかにあるはずなのに、魔眼の能力は脳の計算力によるものだった、というのは、矛盾してるとまでは言えないが、なんだか「ずるい」説明のように思えてしまう。
ついでに言うと、シマリスに変身してるグレゴール兄さんの脳は、人間状態の時より大幅に小さくなってるわけだが、意識の状態は変わらない。
この現象を説明するにも、脳以外の理屈が必要だ。
「……まあ、俺一人で考えててもわかるはずがないか。まずは星眼について調べないとな」
分解した魔眼からこぼれだしたのは、極小の脳だった。
「魔眼が機械学習で未来を予測してたのはもしかして……」
この脳がその機械学習を処理していたのだろうか?
その「脳」を見ているうちに、「ショコラ」さんの知識が浮かんでくる。
「脳オルガノイド……?」
臓器を細胞単位でばらばらにしたあと、再集合させて小型の臓器を復元したものを、オルガノイドというらしい。
脳オルガノイドはその脳バージョンだ。
シリコンベースのコンピューターの計算速度には物理的な限界がある。
その限界に達した地球では、その限界を超えるために人間の脳を模倣する研究が進んだという。
脳を人工的に培養してコンピューターにつなぐ……という発想は、むしろ当然のものとして現れた。
その発想に、天才的なひらめきなど必要ない。
凡庸な研究者であってもすぐに思いつくような、ありふれたアイデアだ。
だが、ヒトの脳を培養することには、倫理的な問題がつきまとう。
ヒトの脳を培養した場合に、どの段階でその脳に「意識」が生じるのか?
「意識」の正体は地球でも解明されておらず、したがって、「意識」があるかないかを確実に判定する手段もない。
自分の培養した脳に「意識」が宿っているのではないか――
良心的な研究者たちは培養脳の研究に尻込みした。
だが、コンピューターの計算能力向上は、人類全体喫緊の課題となっていく。
人間の頭脳で思いつくようなイノベーションは、地球では既に刈りつくされ、これ以上の経済成長を実現するには、より強力な人工知能を生み出すしかないと言われていた。
地球の富の分布はますます偏り、一握りの大富豪と大量の失業者に社会が分断される現象が地球規模で深刻化していた。
そうした切迫した事情が、培養脳の研究から倫理的なリミッターを取り払った。
たしかに、培養脳には人間の胎児程度の意識が生まれる可能性があるかもしれない。
だが、その意識は自分の意識じゃない。
失業にあえぐ大多数の平民と、富を独占しながらもさらなる富を求める富豪たち。
いずれにとっても、経済成長は必要なのだ。
さすがに人間と同じサイズの脳を培養することは禁止されたが、小型の脳オルガノイドの培養は解禁された。
ヒトの小型培養脳とコンピューターの接続は、あっけないほどうまくいった。
そうして達成されたコンピューターの計算能力の爆発的な向上が、高度な人工知能や現実と見紛うレベルの仮想現実技術の開発へとつながったのだ。
……とまあ、地球の事情はそんなところだったらしい。
魔眼の中身が培養された「脳オルガノイド」だったというのは、未来視の魔眼の特性を思えば納得だ。
「……いや、納得か?」
たしかに、一見科学的な説明のように思えるが、
「これまで散々セーブポイントだのキャンプだの引き継ぎバグだのを使ってきたのに、どうして今さら、そんな取ってつけたような科学的な話が出てくるんだよ?」
いっそ、魔眼は魔族の目だから位相が見えるのだ、というような、大雑把なゲームっぽい説明だったほうが、Carnageの世界観にも合っている。
これまで魔法だのスキルだのといった正体不明の力を使ってきておいて、いきなり「魔眼の正体は小型培養脳でした」では、説明のバランス感が合ってない。
「それに、クラフトのこともある。この魔眼――いや、『魔脳眼』を百個集めて『クラフト』すれば『星眼』とやらができるらしいが……この脳みそのかけらを百個合成するってのは、いったいどういう仕組みなんだよ?」
Carnageのクラフトは、あくまでも冒険の添え物的なサブ要素にすぎなかった。
だから、製作工程はあまり掘り下げず、ざっくりと「クラフト」の一言に抽象化し、「素材を集めてクラフトすればすぐに完成」という、きわめて「ゲーム的な」システムになっている。
この「現実」においてもクラフトの抽象的なゲーム性はそのままだ。
前にも言った通り、鉄鉱石3つをクラフト台に載せてクラフトすると、ものの数秒でショートソードが出来上がる。
それと同じように、魔脳眼を100個揃えてクラフトすれば、「星眼」とやらができるのだろう。
こんなゲーム的なクラフトをそのままにしておいて、魔眼が培養脳でしたという部分だけ妙に「科学的」なのは違和感がある。
しかも、その科学的な説明を取ると、エスメラルダが魔眼を使って妖精に対抗できた理由がわからない。
「そもそも、だ。俺はゲームオーバーになるたびに脳を破壊されてることになる。それでも俺の意識がつながってるのに、魔眼の能力を培養脳の計算力で説明するのは変なんだ」
俺の意識は脳以外のどこかにあるはずなのに、魔眼の能力は脳の計算力によるものだった、というのは、矛盾してるとまでは言えないが、なんだか「ずるい」説明のように思えてしまう。
ついでに言うと、シマリスに変身してるグレゴール兄さんの脳は、人間状態の時より大幅に小さくなってるわけだが、意識の状態は変わらない。
この現象を説明するにも、脳以外の理屈が必要だ。
「……まあ、俺一人で考えててもわかるはずがないか。まずは星眼について調べないとな」
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