110 / 188
106 三十六計
しおりを挟む「ほう……!」
対面してから初めて少しばかり驚いた顔を見せた悪魔の眼下で、ルタは拳を握ると自身の身体の上へと振り上げた。ガラスが砕けるような音とともにキラキラとした透明な破片が周囲に降り注いでいく。
「これは驚いたの。スキルとやらでも我輩の魔力に対抗出来るとは」
「まだだ!」
ルタが振り上げていた拳を広げた。その手のひらから暗い光が悪魔へと撃ち出されていく。高速で迫る光に、しかし悪魔は首を少し傾けただけで回避した。
「確か何日か前にお主が大剣持ちの脳筋と戦っていたときに、空中に文字が浮かんでいたのう。『デバフ』とか書かれていたか」
ルタがニーサを三人組から助けたときのことだ。ニーサが見ていたということは、つまりこの悪魔にも知られていたことにつながる。
「そのデバフで我輩の魔力を弱体化させた。じゃが、我輩自身はそう簡単に受けんわ。正面から来ればなおさらのう」
悪魔は笑みを絶やさない。
「仮にお主がいまの光を操れるとしても無駄じゃぞ。あの程度の速さなら容易に回避可能じゃし、万が一にも受けてデバフされても、その分を強化すればいいのじゃからな」
魔力や魔法では身体や物質を強化できる。悪魔ほどの実力ならば、下げられた能力を帳消しにできるだけでなく、さらなる強化も可能だろう。
「かっかっかっ」
お主のやることなどに意味はない……そう言うように笑い声を上げる悪魔に、しかしルタは静かな声を返した。
「……俺のスキルは『未熟』だ」
「ん? 何か言ったか?」
「……デバフはただのレベル1の技に過ぎないってことだ……『未熟』の真骨頂は……」
ルタが地面を蹴ってその場を離れる。その瞬間、はるか上空から滝のような大量の水が降り注いできた。
「……⁉ これは……っ⁉」
瞬時に悪魔も空中を移動してその場を離れる。衝撃音とともに地面にちょっとした池のような、大きな水溜まりが出現した。
「何じゃ⁉ お主のスキルは水も作れたのか⁉」
さっきよりも明確な驚き。それも無理もないだろう。ルタのスキルはあくまでステータス変化であり、物質生成ではないはずなのだから。
「作れんのは水だけじゃねえぜ」
ルタが言った瞬間、水溜まりから爆ぜるようなガスの塊が立ち上った。
「水蒸気爆発か⁉ じゃが火はないはず⁉」
「……もっと戻れ……水蒸気のさらに前に……」
火山の爆発のように激しかった水蒸気が、一瞬にして視界から消え失せる。いや消滅したのではない、彼が言ったように戻ったのだ。水蒸気を形成するさらに前の状態に。
ルタがポケットからマッチを取り出した。魔物の肉を焼くときに用いているものだ。その一本を取り出して火を灯す。
「……⁉ お主、まさか……⁉」
「……てめえを倒すのは、てめえの周りのものだ。てめえのスピードじゃ逃げられやしねえ」
「やめ……⁉」
ルタがマッチを悪魔が浮かぶ空中に放り投げる。その瞬間、逃げようとした悪魔をとてつもない爆発と火炎が飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
460
あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる